野々村の推理
翌日
木村はリハーサルを順調に終え、控え室で本番を待っていた。すると、周りが騒々しくなった。
ドンドンドン
「失礼します! 木村さん!」
大塚が血相を変えて楽屋に入って来た。
「どうしました?!」
「木村さん! 特殊詐欺グループに関わってたんですか?!」
「いや、関わってないよ。騙されて俺の声を無断で使われたんだよ」
「そうなんですね……。でも、それも駄目ですよ。既に風評被害が出てて……。今日の出演キャンセルになりました」
「いや、俺は被害者なんだよ?」
「そんな事言っても……芸能界ってそういうもんですよ! もっと早く言ってくれないと困りますよ」
何処から情報が漏れたか分からないが、ネットの力は凄い。木村の声が使われたという本当の情報もあれば、木村が主犯だというガセニュースまで……。木村に説明をする間を与えず、色んな情報が飛び交っていた。大塚の話によれば、木村の仕事はどんどんキャンセルが入っていると言う。大塚は木村を説教する間も無く電話が次々と鳴る。そして遂に、木村本人に芸能リポーターが押し寄せてきた。
「木村さん! 特殊詐欺に関わってたって本当ですか?!」
「いやいや、騙されて音声を使われただけです。私も被害者なんです」
「じゃあ、騙されて、お年寄りからお金を騙し取ったと言う訳ですね?!」
「いやいや、そうじゃなくて!」
大塚が割って話す。
「すいません! 明日会見を開きますので! 木村は被害者なんです! 通してください!」
リポーターから逃げるように、2人は車に乗り込んだ。
その頃、日吉は舞を尾行、野々村と小牧は一緒に木村についてのニュースを見ていた。野々村は小牧に話す。
「何? 木村って芸能人だったのか?」
「えっ?! 知らなかったんですか?」
「あんなやつ見た事無いぞ。そもそも、あの顔で芸能人とか無理があるだろ。失礼な話だが……」
「まだテレビは1回しか出てないですからね。しかも、顔出しはしていませんし……。モノマネバトルの視聴率って15%ぐらいなんで、知らなくても不思議じゃないですよ。ただ、かなり話題になってネットニュースとかで取り上げられてたんで、2割以上の人が知ってるんじゃないですか?」
「日吉も知っていたのか?」
「もちろん、知ってますよ」
「知らなかったのは、俺だけか……」
野々村はスマホでネットニュースを調べた。
『第4回モノマネバトルの新人王は木村一郎さんが激似のモノマネ3人を披露し圧勝! 少し前まではオーディションも通らなかったとの事だが、モノマネマスクを使用して大爆笑を誘った』
野々村は小牧に尋ねる。
「どうなんだ、木村は? モノマネの素質はあるのか?」
「素質があるなんてもんじゃ無いですよ! 100年に1人の天才じゃないですか?」
「そんなに凄いのか?!」
「そもそも、米山の特殊詐欺だって、木村の声真似を利用しての犯罪じゃないですか」
「そうなのか?! 木村を騙して利用したって聞いていたんで、受け子か何かに利用したのかと勝手に勘違いしていて深く考えていなかったよ」
「この間、木村に逃げられたのだって、木村の声真似が上手過ぎたからですよ」
「どういう事だ?」
「木村をパトカーに乗せて、日吉に見張らせていたんですが、日吉がタバコを吸いに車を降りた時に、私のスマホから日吉の声で木村が電話を掛けてきたんです」
「そんな短時間で、お前を騙すほどの日吉の声真似が出来ると言うのか?!」
「そうなんです。あいつは声真似の天才ですよ」
「待て待て! じゃあ、米山の声真似も出来るじゃないか!」
「まあ、出来ますよね」
「米山が日吉に電話を掛けてきたって言っていたが、それは、木村が米山の声真似をして掛けて来てたんじゃないのか?!」
小牧は焦りながら脳をフル回転させて答える。
「いや、ちょっと待ってください。日吉へ掛けてきた番号を後で調べると、確かに米山のスマホの番号でした」
「それは、木村が米山を殺した後、スマホを盗んだからじゃないか?!」
「!!」
「整理するぞ。木村は米山に呼び出されたのか、呼び出したのか分からないが、廃工場で米山の背後に回り、心臓を一突き。そして、自宅へ戻り、日吉に米山のスマホから米山の声真似で電話を掛けた……」
「辻褄が合いますね」
「あっ!!」
「?」
「マスク! モノマネマスクか!」
「え?」
「米山は逃走中だったんで、マスクをしていたんだろう。そして、木村に刺されて息絶える前にダイイングメッセージとして、マスクを握ったんだ」
「なるほど」
「そう言えば、あの舞ちゃんて子、米山がマスクを握っていたって伝えた後、様子がおかしくなったな。マスクで全部理解したんだ。あの子は相当切れる」
その時、小牧に日吉から電話が掛かってきた。
「もしもし、小牧です」
「お疲れ様です、舞さんに動きがありました。出掛けるようです」
「了解、木村と出会ったら連絡してくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます