イタリアン料理店『アランチョ』
イタリアン料理店『アランチョ』に着き、食事をしながら話をする。田中は自分の事を包み隠さず話してくれた。
田中は木村と同じく1人っ子で、木村より6つ年下の22歳。母親は若く、43歳らしい。木村は『桜の花』で母親を何度か見ている。若いお母さんかなと思っていたが、実際に若かったようだ。元々、父親が『桜の花』の店主で、母親がウエイトレスとして働いていた時に結ばれたと教えてくれた。父親40歳、母親20歳という年の差婚の為、親から反対されていたという。そんな父親も、5年前に癌で亡くなってしまったらしい。それから、母親が店主として、料理を作り出したとの事だ。元々は夜も営業していたが、舞の手伝いはあるものの、1人では大変だという事で、昼のみの営業になったそうだ。
「木村さんは御両親と仲良いですか?」
「いや、俺はあまり話さないかな。いつからだろう? 思春期からかな、仲が悪くなったのは」
「何かトラブルがあったんですか?」
「いや、何もないんだ。ただ……自分の顔が良くないって気付いた頃から、親のせいにして距離をとりだしたんだと思う」
「そうなんですか……」
「親は2人とも、特に不細工って訳じゃないんだよ。ごくごく普通の顔。そんな事もあって、ちょっと恨んでたのかもしれない。どうして俺だけ、ってね」
田中は木村の話を何も言わずに聞き続けた。
「不細工だって自覚すると、自分の行動に変化が出だしたんだ。最初に、女性と距離をとりだす。相手が嫌がってるのかなっていう被害妄想からね。それから、男友達とも距離をとりだしちゃうんだ。俺が居ると女の子が寄ってこないんじゃないかって気を使ってね。ほんと、悪循環だったよ……。でも……」
「でも、それって……」
「ん?」
「あ、いえ、続けてください」
「俺、田中さんと話して気付いたよ。結局のところ、俺の顔なんて関係無かったんだなって。気の持ちようで友達が居なくなったんだなって」
「そうですよ。私も全く同じ事を言おうとしてました」
「やっぱり? そうだよな」
「不細工を売りにしている芸人さんも一緒で、最初はビックリしますけど、ちょっとしたら慣れますもんね」
「そうそう。田中さんも、最初に俺を見た時ビックリしてたもんね」
「そりゃビックリしますよ。この世のものじゃないですもん。ふふふ」
「そこまで言うか! 」
「冗談ですよ。ふふふ。もう慣れました」
「だから、冗談になってないんだって」
2人の会話は途切れることは無く、周りから見れば、仲睦まじいカップルの様に見えているだろう。想像以上の素敵なディナーになり、木村は達成感のようなものを感じていた。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「美味しかったね。また、来たいと思ったよ。じゃあ『桜の花』まで送るよ」
田中を『桜の花』まで送り、木村は話す。
「ここの2階に住んでるの?」
「そうなんです。今日はありがとうございました。モノマネマスクの件、絶対良い報告します!」
「お願いします。連絡待ってます」
綺麗な女性とデートできた嬉しさよりも、モノマネの成功への道が見えてきた事が何より収穫だった。
(モノマネマスク上手くいくと良いな)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます