失いたくないから幼馴染のままが丁度良い

東雲三日月

第1話 失いたくないから

 私には幼馴染の純平 じゅんぺいくんがいる。


 小学校からずっと一緒に過ごしてきて、中学も同じ、高校も同じなのにずっと友達止まり。


 ・・・・・・そりゃ高校生ともなれば、少しくらい異性として彼を意識することもあるけどね。


 俊平くんとは、その時読んでる漫画や聴いてる曲が同じだったり、価値観や感性が同じだから話がとても合う。


 一緒にいて気を使う事もなく、安心出来るので、今ではお互いの恋愛相談なんかもするようにな仲だ。


 ──そんなある日の学校の帰り道。


 お互いのパートナーは部活で帰りが遅いけど、帰宅部の私達は帰る方向が同じってこともあってか何時も一緒に帰っている。


「はぁ〜、謝ってるのに連絡こなすぎ」


 帰り道、私はスマホを確認しながらポツリと言い放った。


「ん、今の彼と喧嘩でもしてるの?」


「そうなの。でも、私が悪いって思ったからメールで謝ったんだけど、ちっとも連絡来ないのよ。もう一日経過よ!!」


「そうなんだね、それは辛いね。でも、謝るならメールじゃなくて直接謝る方が良いんじゃないかな?」


「まぁ、そうなんけど、彼氏が今は会いたくないんだってさ・・・・・・会いたいって伝えたのに断られちゃったからね」


「それは辛いな。でも、僕も何故か今の彼女と連絡取れないんだよね。かれこれ一週間・・・・・・また振られちゃうのかな」


「うっそー! あんなに仲良かったのに? 一週間も連絡取れないとかマジ?」


「そうだよ!! 本当、女の子って難しいよね。もしお互い別れてフリーになったら、次は僕達付き合っちゃう?」


「え!?? 無理無理無理、其れは絶対無理だよ〜」


「やっぱりそうだよね!! 変な事言ってごめん。今の発言は取り消しで!!」


「うん、良いよ! えへへ」


 本当は、価値観も同じ、好きな物も同じ幼馴染の純平くんと付き合ったらった良いんじゃないかって思ったりするけど・・・・・そればっかりは怖くて踏み出せない。


 今のままの関係が良好で楽しいから、ずっとこのままが続くと良いなって思ってるし、純平くんも、本気で私に告白迄はしてこないから・・・・・・。


「今日さぁ、純平くんの家に遊び行っても良い? バイトも休みだし暇なんだよね」


「良いよ、僕もバイト休みで暇だから」


「わーいやったー! じゃぁ純平くんの家で何時ものゲームの対戦しようよ!!」


「良いけど、僕の方が強いぞ!!」


「えへへ、大丈夫だよー。私特訓してるから強くなってるもん!! 寧ろ今日は純平の方が負けるかもね〜」


「何それ、めっちゃ余裕だな・・・・・・じゃぁ対戦楽しみにしてるよ」


 そう言うと、家が隣同士の私達は家の前に到着するとお互い帰宅し、それからすぐに私が純平の家におやつ持参で向かった。


 チャイムを鳴らすと玄関を開けてくれたのは純平くんのお母さん。


「お邪魔しま〜す」


「あらいらっしゃい! 純平二階の部屋にいるからどうぞ!!」


 私の顔を見るなり純平くんのお母さんが普通に家の中に通してくれる。小さい頃からこうやってお互いの家を行き来する程仲が良かったから、異性としての心配事は無いのかもしれない。


「えへへ、もう遊びに来ちゃったー」


 ──ガチャっ


 二階に行くと、何も考えずに純平くんのへやのドアを勢いよく開ける。


 すると、目の前には上半身裸で下はズボン脱いでパンツ一丁の純平くんがいた。


「キャ──!! ちょっと純平くん、早く

 、早く服着てよね」


「何だよ! 勝手にノックもせず部屋に入って来たの美久 みくの方だろ」


「ご、ごめん・・・・・・そうだけど・・・・・・」


 久しぶりに見る純平くんの筋肉質な身体を見てドキッとしてしまった自分がいる。


 そのままの格好で近づいてきた純平くんに、いきなり両手で壁ドンされた。


「襲ってやろうか?」


「嫌・・・・・・別に・・・・・・」


「冗談だよ、冗談、何焦ってんの!! もしかして照れてる?」


 私は純平くんとはそんな関係になれない。なってはいけないのだ。


「うぅっ・・・・・・ちっとも照れてなんかいないもん。じゃ、早く対戦しよう!!」


 私はこの場の空気を変えようとして、急いでテレビの目の前に陣取るように座った。


 ・・・・・・でも、気にせず襲ってくれたら良かったのにな! 何で何時も中途半端なのよ。


 自分からは関係が壊れるのが嫌だから怖くて何も行動出来ないけど、少しくらい襲われても良い気持ちがあったりもしたので、僅かな一瞬だけど期待してしまった自分がいる。


 ・・・・・・もう、私ったらまた期待しちゃって本当にお馬鹿なんだから。


「ごめんね、そんなに怒るなって! 僕は美久 みくの笑った顔の方が好きなんだから、じゃぁ約束通り何時もの対戦 やろっか」


 服を着てきた純平くんが私の隣にきてゲーム機に電源を入れるとサッと座りコントローラーを渡してきた。


 無言のまま画面を見つめ、使うキャラクターをお互い選んで、場所はどこでも良いからランダムに設定したら、これで対戦開始になる。


 純平くんは何時も使う得意のキャラクター、そして私が使うのはまだ使ったことの無かったキャラクターだ。


「何時も使わないキャラ使ってんのに凄く強い! コンボとか完璧じゃん」


 めっちゃ驚いた表情でこっちに振り向きチラッと私を見てそう言うと、また画面に視線を戻す。


「えへへ、密かに毎日動画みて練習したんだもん、だから負けないわよ!!」


 純平くんが油断していた隙に、練習の特訓の成果もあってか、コンボが上手く決まって必殺技まで出せたお陰で1戦目を勝ってしまった。


「えへへ、やった〜! 初勝利でめっちゃ嬉しい!!」


「次は本気だすからな・・・・・・」


 悔しかったのか、本気を出すと言い出す純平くんはやっぱり想像以上に強くて、結局、私は2戦目も3戦目も負け続けることに・・・・・・。


「もう少しだったのになぁ・・・・・・! 何でそんなに純平くん上手なのよ!!」


「さぁ、なんでかな・・・・・・!! やっぱり子供の時からゲームやってるからじゃないの?」


 確かに、純平くんは子供の頃からゲームやっていたけど、でも、私だって何時も一緒にやってたと思うけど。


「うーん、才能・・・・・・かな」


「良いなぁ、その才能私にも分けて欲しいよ」


「でも、さっきの美久のコンボ本当に凄かったよ。 2戦目も3戦目も負けるかと思って必死だったんだから。ゲームって案外覚えゲーだし、あれだけ上手くなれたんだから才能あるんだよ! 練習続たらもっと上手くなれるんじゃないかな」


「マジ!? 才能私にもあるの? それならちょっと嬉しいかも・・・・・・えへへ」


 褒められるのはやっぱり嬉しい! 純平くんに勝つためにまた家でも練習しようって思えた。


 ──静かな部屋で電話が鳴る。


「着信、電話鳴ってるよ! 出ないの?」


「あ、うん・・・・・・」


 画面を確認すると彼からで、覗き込んだ純平くんにも見られてしまった。


「出なよ!! 別に僕のこと気にしないで大丈夫だから。静かにしてるよ」


「うん、ありがとう。じゃぁ電話出るね !『もしもし・・・・・・うん、うん、分かった』」


「彼は何だって? 暗い顔しちゃってるけど大丈夫?」


「んー、駄目だけど大丈夫。えへへ」


「美久何があったの? 涙目になってるじゃんか、 駄目って・・・・・・どういうこと?」


「えへへ、私振られちゃった。何が駄目だったのかな・・・・・・恋愛って上手くいかないね」


「ズバズバ言うところとかあるからな!! それはそれで良いとこでもあるけどね。でも、そのうち気の合う人が見つかるよ」


「そうだと良いけどねぇ。もし、もしさぁ、私が20歳になっても彼氏出来なくて・・・・・・」


「其れは無いって!! 可愛いし、ちゃんと魅力もあるから、世の中の男がほっとかないよ」


「そうかな・・・・・・じゃ、私が30歳になっても結婚出来なかったらお嫁さんに貰ってくれる?」


「何それ・・・・・・」


 まだ高校生なのに、私が振られたくらいで急に結婚の話までしだすから純平くんに笑われてしまった。


「別にいいけど!! でも、きっと結婚出来るから大丈夫だと思うけどな。僕が保証するよ」


 口約束だけど、純平くんはあっさり良いよと言ってくれた。


 何だかホットする自分がいる。


 本当は一番好きな人と結ばれるのが理想なのだけど、そればっかりは出来ない。異性の友情とでも言うのだろうか、純平くんとは今はまだ繋がっていたいから。


 我儘なのかもしれないけど大切な人は失いたくないという想いも強いのだ。


 あれから、私にはまた新しい彼氏が出来て、純平くんも今の彼女とは別れることになったけど、暫くするとまた新しい彼女が。


 それでも、純平くんと会わなくなることはなくて、学校の帰り道は相変わらず一緒に帰宅していたし、たまには一緒に遊んだりなんかもしていた。


 比較するのは良くないのだろうけど、やっぱり彼氏よりも居心地が良い。


 そりゃ小さい頃から一緒に過ごしてきた仲だから当たり前かもしれないけど。


 ──高校二年生の夏休み。


 私達は部活には入っていないけど、バイトをしていたので案外忙しい日々を送っていた。


 ところが、今日から私は一週間バイトが休みの期間に入ったのと同時に、純平くんも合わせたかのように一週間バイトが休みらしく、暇だから遊ぼうと連絡が来たのだった。

 

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