第4話 看板娘

 いやはや、人間でなくとも赤ちゃんの可愛さは恐るべしです。


 ちょっと可愛い服を着せただけで、ただでさえ可愛い沙羅さらちゃんがさらに可愛くなるのですから!!


 沙羅ちゃんはウサギのパーカーにあるフード……ウサ耳がついているところが気になったのか、くいくいと引っ張っています。その仕草だけでも、すっごく可愛いです!!


 賢也けんや君は、僕の横で関西人ぽくオーバーリアクションをしていましたが。



「……ただでさえ、美人の赤ん坊やのに!! この破壊力!!? さすがは、うちの看板娘やわ!!」


「そうですね!!」



 まだ出会って一週間程度ですが、沙羅ちゃんはもううちの立派な看板娘ですとも!!


 そして、沙羅ちゃんがくるんと振り返って、ちょうどフードを目深にかぶる仕草も……これが激カワと言うのでしょうか。めちゃくちゃ可愛いです!!


 動画サイトにはアップしませんが、記録として残したいくらいに!!



「あっはっは!! 今日は面白いことになってるね??」



 沙羅ちゃんを可愛い可愛いと連呼していたら、座敷童子の颯太ふうた君が来てくださいました。



「こんにちは、颯太君」


「……よぉ」



 そこそこ接点は増えましたのに、このふたりの相性は相変わらずのようです。



「やっほー? 可愛く着飾らせちゃってるけど……ケサランパサランなんだから、夏より冬の方がもっと似合うよ?」


「ほーん?」


「モコモコフリースとかですか??」


「そうそう。毛並み……こっちの本体がボフっとなるから可愛いんだ〜。僕らあやかしの間だと、冬はレンタル騒ぎが凄いくらい」


「……沙羅はお前んだったんか?」


「うん、一応」



 なのに、沙羅ちゃんが僕を主人として認識したために……颯太君から離れてしまった。それは、良い事なのでしょうか?


 僕が少し不安になると、颯太君は僕のところに来ていつもの扇子で軽く腕を叩きました。



「?」


「いいんだって。ケサランパサランが自我を持つ前後だったし、柊司しゅうじ君がいいって沙羅が選んだんだから。ケサランパサランは一個体じゃなくて、種族だし……他のあてはあるから心配しないで?」


「……ありがとうございます」



 いけません、僕はもうひとりではないとわかっても……大切な誰かがいきなりいなくなる事態は、もう嫌なんです。


 あれから随分と経つとは言え……僕は、未だに忘れられない。


 事故をきっかけに、遺体ごと消えたかもしれないと言われた……実の姉である女性を。


 僕は、目の前で失ったのだから。



(………………姉さん……)



 エスプレッソマシーンの向かいの棚にある、ひとつの写真立て。


 そこに、賢也君と僕がまだ高校生だった時の写真があります。中央には、僕とよく似た女性……僕の最愛の姉である人が写っていますが。


 彼女は……もうこの世にはいないんです。

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