第4話 天使の寝顔

 颯太ふうた君は、カフェラテを飲んだことがないのか……少しの間眺めていらっしゃいました。どうされたのでしょう??



「颯太君?」


「……ちょっと、もったいないな〜って?」


「え?」


「おん?」


「可愛いから。コーヒーの表面が。僕、あやかしとしては長く生きているけど、こう言うの飲んだことなかったんだよ」



 だからか、余計にじーっと眺めていらっしゃいました。



「大丈夫ですよ? 僕の奢りですし、いくらでも作りますから」


柊司しゅうじ……お前の店でもあるけど、オーナー俺やで??」


「けど、賢也けんや君。颯太君がいなければ、沙羅さらちゃんと出会うことは出来なかったんですよ??」


「そうやけど……」


「ふふ。んじゃ、遠慮なく」



 ゆっくりとカフェラテのマグカップを傾けた後、お約束と言っていいくらい……ビール程ではありませんが白いお髭が。そのお約束に賢也君がケラケラと笑い出しました。



「あはははは!? ふ、颯太……!! おま!!?」


「賢也君……笑い過ぎですよ」


「せやけど、お約束過ぎやで」



 ヒーヒーとお腹を抱えている賢也君のことは放っておき、僕は颯太君に感想を聞くことにしました。



「お味はどうでしょう?」


「うん、あんまり甘くなくて美味しいね? 僕、甘過ぎるの苦手なんだけど……柊司君のこれは美味しい」


「牛乳の質にもよるんですが、ミルクの泡立て方と温め方で……砂糖がなくてもほんのり甘いんです。市販のペットボトルなどでの甘味料の味が欲しい方の場合、一応お砂糖はおつけします」


「あれ、変に甘いんだよね? こう言うのが、自然な甘さって言うのかな??」


「恐縮です」



 妖怪さんに喜んでいただける味になれたのなら、腕前を認めていただけた気分になれます。この道に足を向けた意味が、報われた感じになれるんです。



「あーうーあう!」



 僕も自分のを淹れてみようかと思っていると、沙羅ちゃんがこちらに手を伸ばしてきました。コーヒーのコップはベッドに転がったままです。



「おや、沙羅ちゃん。おかわりですか??」


「あーう」



 ふるふると首を横に振るので、僕はどうしたら……と思いましたが、すぐにベッドに近づいて沙羅ちゃんを抱き上げました。



「はーい。高いたかーい!!」


「あう!!」



 まだ育てると決めて数日ですが、時々沙羅ちゃんの言いたいことがわかるようになってきました。明確に意思表示してくれるからもありますが、僕が彼女の可愛さにメロメロだからなのもあります。


 可愛い可愛い僕の養女むすめ


 今こうして、抱き上げて喜ぶのも自分のことのように嬉しく思えますよ!



「……親子だねぇ?」


「……俺らくらいなら、別に子供おっておかしくないけどな?」


「顔立ちも、ちょっと柊司君ベースになってるし」


「柊司、美人顔だしなあ??」



 賢也君達……世間話をしているおばさん達のように見えますよ??


 賢也君の方が怒りそうなので、あえて言いませんが。


 沙羅ちゃんはその後に、ちょっと冷ましたカフェラテに使った豆カスをたっぷり食べた後……本当に天使のような顔でぐっすり眠りにつきました。


 颯太君はまた来る、と言って……いらないと言いましたのに、きちんとカフェラテの代金を払ってから帰られたんです。妖怪さん達は、人間の貨幣をどう工面しているのか気になりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る