第3話『フワッフワのカフェラテ』

 さて、賢也けんや君は今日の気分がキャラメルラテではなく普通のカフェラテでした。


 カフェラテのコツは、特にスチームミルクですね?


 あの、フワッフワの泡を作る時は毎回緊張しますとも。エスプレッソマシーンで抽出しておいた、少し濃いめのコーヒーをマグカップに。


 エスプレッソの場合はカプチーノと呼ばれている方なので、うちでは濃いめのブレンドにしています。これに、別のステンレス製の計量カップに牛乳を適量。マシーンに装着されています、ぱっと見はただの持ち手にしか見えない棒を計量カップに沈めます。


 上のスイッチを押せば、勢いよく棒から蒸気があふれて牛乳がぶくぶくしてきます。ぶくぶくが牛乳全体に広がっていくと……どんどんどんどん、細かい泡となっていくんです。


 これをどの部分も細かい泡になったら……沸騰させ過ぎないように気をつけて、棒から計量カップを外します。この時、すぐに濡れた布巾などで棒の方は拭くこと。


 これをすぐにしないと、棒の方が牛乳の膜で目詰まりしてしまうからです。ただし、火傷注意なので少し厚めの布巾で。


 ミルクの方は……ゆっくり傾けて、そこの温めた泡の少ない部分を注ぎ、最後に残った泡はスプーンも使って出来るだけ表面に浮かべます。この時、もっと器用なら可愛らしいラテアートも出来ますが……僕はまだまだ修行中なので葉っぱ程度しか出来ません。


 しかし、今日も良い出来なので、賢也君には『ん』と柔らかい微笑みを浮かべていただけました。



(……賢也君、声を荒げなければ結構なイケメンさんですのに)



 しかし、普段の彼は気さくな人だと常連さんの一部は知っていますので、大丈夫です。



柊司しゅうじ、今日のも美味いわ」


「ありがとうございます」


沙羅さらにもアイスで出したら??」


「それが……朝作ったんですけど、ダメでした」



 苦味の薄いアメリカンタイプで似たように作ってみたんですが……離乳食全否定と同様に、彼女はいらないと首を横に振ったのです。


 豆を食べ終えた沙羅ちゃんは、僕にコーヒーのおかわりとストロー付きカップを持って上下に振っていました。



「あーうー、あう!」


「……ブラックしか飲まんのか??」


「そうみたいなんです。……あんまり体に良くないとは思っているんですが」


「まあ、人間ちゃうし……トイレだけ心配やけど」


「オムツ交換もほとんどしなくていいんですよね??」



 多分、普通ならあり得ないでしょうが……利尿作用の多いブラックコーヒーや豆カスをたっぷり摂取しても……営業が終わり、僕の自宅で一回取り替えるだけで大丈夫なんです。


 そこの構造と言うのは、やっぱり妖怪ちゃんだからでしょうか??



「あ! 綺麗にしてもらってるね??」



 僕と賢也君がうんうん言っていたら……少しぶりに、あの和服中学生くらいの見た目の。座敷童子の颯太ふうた君が沙羅ちゃんのベビーベッドの手すりに寄りかかっていました……。



「……神出鬼没やんな、お前」


「そう言うもんだからね、僕らは」



 毛嫌い……はしていないと思いますが、このふたり……少々相性が悪いように見えるんですよね? 僕はちょっとだけハラハラしてしまいます。



「いらっしゃいませ、颯太君」



 しかし、お客様に変わりありませんので、僕はいつも通りの対応をしようと思います。



「やっほー? 沙羅を綺麗にしてくれてありがとう。毛並みとかもすっごくいいね??」



 よしよしと、本体である綿毛帽子の部分を撫でると……颯太君が親戚のお兄ちゃんのように見えました。外見だけだとそう見えてしまうんですよね?



「いえいえ。僕の方も……ちょっと甘えています。お店で出てしまう豆カスを食べてもらっていますし」


「それだけ。主人の手ずから作ったものが美味しいからだよ? 僕はともかく、ケサランパサランとかはそう言うのを好んでいるからね??」


「……普通の食事って、食べられますかね??」


「んー? 今はいいと思うよ?? 人間で言う乳離れ? だっけ。それが来れば、多分何かしら興味持つから」


「……沙羅の成長速度とかどないなっとるん??」


「その姿に確定した後は……だいたい人間と同じだと思うけど。柊司君の世話次第でいきなり変わることもあるね??」



 もし、またいきなり大きくなったらどうすれば……と、僕は不安になりましたが。颯太君が言うには、出来る範囲でお客様達の記憶操作はしてあげるからと……ちょっと心配になったんですが、報酬代わりにと彼もカフェラテを注文しましたので、誠心誠意を込めて淹れました!!

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