イズミの異世界改変録
御影イズミ
第1章 世界と世界を繋ぐ世界
第1話 終わりが始まる時
世界と世界を繋ぐガルムレイ・第八連合国ロウン。
この日は建国記念祭であり、国中をあげての大きなお祭りが行われていた。
国をあげての祭り事。本来であれば、王族は城で待機しているもの……なのだが、この国の王女というのはどうにも、王女という立場よりも外を見て回りたい方が強いとのことで。
「いやー、イズミ兄ちゃんが来てくれなかったらダメだったかもねー」
「ったく……体よく俺に押し付けんじゃねぇよ、リアルドさんもガルヴァスも……」
大きなため息をついた男、イズミ・キサラギは隣にいる女性――王女であるアルム・アルファードと共に祭り会場の中を歩く。
右手に握ったりんご飴をあむあむと食べながら、左手で彼の右手をしっかり握ってあげて。人混みの中をはぐれないように、ゆっくりと歩いていた。
建国記念祭では国中の人々が安らぎを得る。人も、闇の種族も、関係なく。
この国が出来たからこそ、種族の垣根を超えて交流を行うことが出来るようになったため、誰もが皆感謝の意を示している。
そんな和やかな雰囲気だったから、彼らは近づく悪意に気づけなかった。
歩きまわっていると、見知った顔が前からやってくる。
イズミは誰だったか思い出せなかったがアルムが先に気づいたため、彼女がその人物に向けて手を降っていた。
「こんにちは、エーミールさん!」
彼女が向いている先にいたのは、金髪白眼の男と白髪黒眼の男。アルムが手を振ったのは金髪白眼の男――エーミール・アーベントロート。以前、異世界での出来事に巻き込まれた際に、彼やその兄に少々手助けをしてもらったことがある。
エーミールの方もアルムに気づき、手を優しく振り返す。隣にいた白髪黒眼の男に一言二言伝言を残すと、彼女達の前へと歩み寄ってきた。
「こんにちは、アルム王女。本日も……ええ、楽しんでいるようで」
「エーミールさんは? お友達の方とご一緒ですか?」
「はい、そうですね。仕事仲間の、ええと……」
ちらりとエーミールの視線が白髪黒眼の男に向けられる。紹介するのは難しいから自分で自己紹介をしてくれということだろう、男はエーミールの隣まで歩み寄って来た。
「どーも、初めまして。コンラート・ノイシュテッター言います。どうぞよろしく」
「はじめまして、アルム・アルファードです。ようこそ、ロウンヘ!」
アルムは特に気にすることなく、コンラートとの握手を済ませる。しかしイズミはなにか気になることがあるようで、彼とは握手をしなかった。
王女という立場上、こういう見知らぬ相手との会話には気をつけるべきだ。だが彼女はお祭りで心が浮足立っているのか、警戒心はほぼ無くなっている。故に、元騎士であるイズミが集中していた。彼らの様子が気になるのもそうだが、アルムを守るためでもあると。
「つれないなぁ、王女様はこんなにも気さくやのに」
「悪いな、仕事柄こういう場面では気を配ってるんだ」
「へー、そんなに場数踏んでるん? それやったら、もっと楽しくなりそうやねぇ」
「そいつはどういう――」
イズミが訝しんだ途端、彼の右腕に違和感が訪れる。
――眼前の男達から放たれた、闇の種族特有の殺気が突き刺さってしまって。
ロウンにいる場合に限り、本来であればありえない複数の闇の種族の反応。そして祭りを楽しんでいた者達が眠りにつき、静かな場所へと変貌する瞬間。
それに気づいたその瞬間、イズミは目の前にいた男達から距離を取ろうとするものの……寸前でアルムは眠りの魔術を使われ、エーミールに捕らわれてしまった。
「っ、アルム!」
手を伸ばしてエーミールからアルムを奪おうとするものの、コンラートの影が伸びて刃となってイズミの腕に突き刺さる。それでもお構いなしに伸ばしたその腕も、複数の影の刃が彼の腕を切り離してしまった。
切り落とされた腕が地面に落ちると同時、イズミの腕の断面からぼたぼたと流れ落ちるのは――漆黒の闇と同じ、黒い血。影に混ざったその血はとめどなく流れ、大地を汚していく。
それでも、イズミの視線はまっすぐにエーミールとコンラートに向いていた。1番大切な人に手を出した男たちを、逃がすわけにはいかないのだと。
「おや、ジャックさん。そろそろ人ではなくなるという情報は、どうやら本当だったみたいですね」
「て、めぇ……アルムを、どうするつもりだ……!!」
「腕吹っ飛んだのに、パートナーの心配? 凄いなぁ、エミさんの言う通り執念だけは凄まじいんやねぇ」
「彼はアルム王女だけが命綱ですからね。……さ、コンラートさん、行きましょう。約束の時間に遅れてしまいます」
「ん、そやね。俺らが出来るのはここまでや」
「ま、待てっ……! アルムを――」
アルムを置いていけ。その言葉を発する前に、イズミの身体は背後から何かに貫かれる。
コンラートの影でも、エーミールの魔術でもない。また別の鋭い一撃が彼の心臓を、肺を、一瞬にして通り抜けていった。
その後、辺りに散らばったのは彼の流した世界を汚す黒の血。太陽の光に焼かれ消えゆく汚れではあるが、その上に倒れたイズミの身体は太陽の光の下で残されていた。
楽しかったはずの建国記念祭は、一瞬にして地獄へと変貌したのだった。
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