ちょっと打ち合わせたいこと

「今年もそろそろT県に雪が降るよ。降ったら絶対に積もるから、皆でかまくら作ろうよ」

 ありちゃんが楽しそうに言うのへ、私たちは頷いた。

「おーい、川上! まだ食ってる? ちょっと打ち合わせたいこと、あんだけどさ。いい?」

 そこへ、ぼのさんの声がして、飲んでいた食後のお茶へ慌ててふたをしながら、私は慌てて立ち上がる。

 そこには沖本君と加藤さんもいて、

「明日はさ、午後に差し支えのある講義とかあったら、休講届け出しといて。そしたら欠席扱いにはならないよ」

「はい」

 明日がいよいよ舞台の前日。器材や道具を運び込まなきゃいけないから、裏方は一足先にふれあい会館へ向かわなきゃいけない。

「通し稽古で使う最低限のテープだけ残して、今のうちにトラックへ積み込んどきな」

 言いざま、ぼのさんは、「これはふれあい会館にないからねえ」なんて言いながら、重そうなスポットライトをひょいっとばかり、両手に一つずつ持ってスタスタと歩いていく。

「大丈夫?」

「あ、は、はい。大丈夫です」

 加藤さんがそれを見て苦笑しながら、ボソっと尋ねてくれるのへ、私はまだ少し緊張しながら答えた。

 加藤さんも、パッと見、何を考えているのか良く分からない人だけど、だけどよくよく観察してみたら、

『そのまんまの、何も考えてない人なんだ』

 っていうことが…失礼だけど…良く分かる。

「風邪とか引くなよ」

「大丈夫、です」

 沖本君も言ってくれるのへ、私は繰り返した。すると沖本君も、

「同期だから、『タメ』でいいのに」

 なんて言いながら私から離れて、忙しそうに大道具を運ぶ手伝いへ行ったりするのだ。

 その言い方がちょっとぶっきらぼうで、私はまた少しびくついてしまう。

 公演が近づいていて、皆が寝不足でピリピリしてるんだってこと、頭では分かっていても、やっぱり慣れない。これも、

『最初から入部していなかったからなのかな』

 途中入部、っていうのが少し響いてるのかもしれない。

「これもお願いします!」

 だけど気を取り直して、私も山ほどテープの入った籠を抱えて、外に止まっているトラックへ走っていった。

「はい了解! これだけでいいの?」

「はい。大丈夫です」

 運転台から降りた天田さんは、にっこりと笑って受け取ってくれる。そしていきなり私へ顔を近づけたと思ったら、

「…ところで、どう? 慣れた?」

「は? あ、あー…ええ、まあ」

「ははは、まあ、ゆっくり慣れたらいいよ、ね。だって入っていきなり<音響>でしょう。そりゃ大変だよ」

 天田さんは少し背の低い、だけど演劇部一、腹の底から通るいい声をしている。わりに『ずんぐりむっくり』で気さくな人だから、天田さんにだけは何とか、尾山君に対するみたいに話せるようにはなった。


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