空蝉の世ぞ 夢にはありける
もも吉
始まりの夢
第1話 オタクの見る夢
今から考えてみると、私は昔から怖い夢を見ることが多かったように思う。
子供の頃、はそれが別段おかしな事だとは思わなかった。
夜になるのは仕方ないけど、眠るのが嫌な時もあった。
これが普通とは言えないのに気が付いたのは、ある雑誌で〝夢をコントロールする方法〟なんて書いてあるのを読んでからだろうか。
いい夢を見る方法とか、夢で自由に飛ぶ方法なんて書いてあったかな。
なんとなくやってみて、それから少しずつ色んな夢をみるようになってから、いい夢も少しずつ見始めた。
オジサンになった今でも、やっぱりコントロールなんて出来なかったけど。
偶然かもしれないけどそういう試みをやって、自分なりに検証している内に、変わって行ったような気がします。
中学二年の春、嫌な事があった。
隣クラスの元友達が嫌がらせをするようになった。理由はわかっている。
僕と同じクラスの女の子を好きな山下は、なぜかその女の子が僕のことを好きだと思っているらしくて、事あるごとに絡んでくる。
どうしろって言うのか。
「たかっつきぃ~。」僕の名前だ。
高槻と普通に言えっての。
酔っ払いか。
特に意味はないけど、名前を連呼して煽ってくる。
やめてほしい。そういうの。
山下のひょうたんみたいな顔が、ニヤニヤしてて余計に嫌な感じだ・・・。
そんな顔してるから好かれないんじゃない?
「・・・。なんだよ、ヘボ下。」言い返す。意味はないけど。
「うれしげなんじゃぁ~。たかっつきぃ~。」
むかつく。ひようたんのくせに。
「たかっつきぃ~。」とヘボ下と一緒にいた卓球部の三好と宮下が一緒になって言ってくる。
ひょうたんトリオ作ったらどうだ?
なぜかみんな同じ系統の顔してて、仲が良いのは偶然ではない気がする。
「たかっつきぃ~。」
もうええわ。無視することにした。どうせ反応しても態度は変えないだろうし、調子に乗るだけだろうし。
頑張って彼女作れ。
しらんけど。
そりゃ、彼女にでもなったらそれはそれでいいのかもしれない。
だからって、好きでもないしほとんど話したことすらない子と、何処をどうやったらそうなるのか教えてほしい。
次からそうやって彼女作るから。
なんて愚痴ばかりになっちゃうけど、めんどくさいですから。
クラスでは大人しい部類で目立たない僕は、自分のしたい事だけする変わり者で通ってて、それがかえって自由な放課後を提供してくれた。
わざとそうしているんだけど、やっていることは変人だよね。
たまにひょうたんトリオみたいなのが現れていじって来るけど。
おかげで、すぐに家に帰って趣味に没頭するか、家の手伝いをしておこずかいをもらうのに忙しかった。
趣味は小学校の頃からのプラモデルを作ることと、小説を読むこと。
特にプラモデルはお金かかるけど、色を細かく塗って本物のように汚れた部分を作ったりするのは、とても夢があったし飽きなかった。
早く帰りたい理由のほとんどが、プラモデル関連だった。
プラモデル関連の雑誌を読んで、うまい人のやり方を真似して、戦車に汚しを付けたり、兵隊を砂の上に立たせて行進させてみたり。
軍艦の模型に波を付けたりした。
新しく発売されたプラモデルを買うために、街中の店で並んだりもしたな。
本は、中学に入って位からだけど、兄の本棚から借りて読んでみたのが始まりだった。
最初に読んだSF小説は、今まで閉鎖的だった価値観を破るような、飛躍した世界を考えるようにと教えてくれるようだった。
それからはプラモデルと小説とで一層忙しくなっていった。
帰ったらプラモデルを明るいうちに作って、宿題をしたら小説を読む。
〝気が付いたら徹夜でした。〟っていうのをしだしたのはこの頃からだ。
そういう、いわゆる〝オタク〟の僕だった。
そんな僕のオタク人生の中学生生活は、怖い夢がほぼ毎日だったので眠るときは一人が嫌だった。
自分の部屋があったから中学に入る前が限界だったけど、できることなら誰でもいいから一緒に寝たかった。
もちろん、それで夢が怖くなくなるというわけではないけど、うなされて起こしてもらえる事があるからだ。
怖い夢といってもいろんな夢を見るから絞れないんだけど、映画のようなエイリアンが襲う夢、はっきり見えないけどぼやっとした悪魔の夢、狂犬病の犬にどこまでも追い掛けられる夢、ひたすら怒られる夢、クラスのみんなが化け物になる夢・・・
そんな、単純に怖い夢は多かった。
僕は汗びっしょりで起きることが多くて、母さんに汗っかきだと思われた。
その怖い色んな夢の中に、一つだけ他とは違う、パターンの決まった夢があった。
どんな夢を見ていようが割り込むように、あるストーリーに変わるのだ。
例えば、買い物をしている夢の途中、レジのおばちゃんに景品をもらってたら・・・急にリアルな幽霊の話になって、それからお店の中なのに暗くなって、金縛りになる。
いつも決まって、ゴゴゴって雷か地鳴りみたいな音と金縛りがセットだ。
そして、金縛りの前に落下する感覚がある。
意識が遠くなるような落下する感覚があり、これにはこの後どうなってしまうのかという恐怖があっめちゃくちゃ怖い。
早く目覚めろっていう抵抗して、しばらくの間浮いたり沈んだりしながら体を動かそうとする。
でも最後は、何とか体を動かして、汗だくで目を覚ましていた。
それが金縛りなのか、単なる夢なのか未だに解らないが体が動かなくて、瞼も動かないけど目だけ動くとか・・・金縛りが分かり易いと思って言ってる。
もちろんこんな話、誰も信じないと思うしバカにされるのも嫌だ。これは誰にも話していない。
真夏の怪談話に最後にば~ってするのもアリだと思ってやってたけど、そのくらいでちょうどいいだろう。
時々やり過ぎちゃったみたいで、小さい従妹は泣きそうになったけど。
小さい子を集めて怪談をやった時は、皆くっついてきて猿団子のようになって眠たっけ。
あれは可愛かったなー。
暑い夏の続くある日の明け方、いつもの怖い夢に金縛りだったが一つ違う事があった。
決まって金縛りの最後に浮き上がった時に体が自由になる。
その浮き上がろうとした時に、影が人の形を成して迫ってきて腕を掴んで嚙みついた。
そして、確かにチクッとした痛みがあった気がする。
あまりにいつもと違い過ぎて慌てていた僕はまた沈んでいって、また浮き上がるのにやり直しになるくらいだ。
しかも、落ちる途中で腕は痛み、暗闇の底は引っ張ろうと手を伸ばしてくるのを感じ、振り払っては落ちそうになるのを踏ん張った。
そして、落ちている闇の底は今までよりも大きく深く、どこまでも続いているのを感じる。
夢の中でやってると解ってても、それでも目の覚めない僕は頑張るしかなく、やっと起き上がった時には汗だくだった。
それほど長い時間ではないとは思うけど、足掻いてる間の時間は長く感じるものだと思った。
そして、腕を見るとそこに小さな白い跡があり、布団には小さい血のシミが付いている。
なにが起きたかは解らなかったがそれ以上は何も解らないし、誰にも言うつもりはないし、解決する事はないだろう。
そんな不思議な夢があってから、しばらくは怖い夢の頻度が少なくなってゆく。
例の〝夢をコントロールする方法〟の本がこの辺りから効果があったからだろうか。
誰かに追いかけられる夢や理不尽な化け物がめっきり姿を見せず、夢は逆に何でもない日常の夢を見た。
数えられるくらいだけど。
しかし、金縛りのパターンだけは別物と言わんばかりに、激しさを増してくる。
今までとは明らかに激しく響く様な音になり、激しい落下する感覚は目に回った。
まるで、化け物が必死で引き込もうとするように思えて、夜になって眠るのが怖くなるほどであった。
夢に登場する聞こえる声やなんだかわからないものの声の大きさに、毎回違いがあるのが分かった。
普通に通学している場面、からゴゴゴ・・・って始まる。
また始まったよ・・・いつもながら面倒だった。
拷問をされているようで、早く抜けたかった。
そう・・・、浮き上がって抜ける。
そういう感じで頑張るのが一番解け易いやり方だった。
そして一度抜けるとそれ以上金縛りはないので、そこまで来るのが大事だ。
こんなのどうやって書けばいいの?
まともに人に話せるわけないし。
着色なしだからかもしれないけど、こういう表現しかできないというか、着色しないで表現するとこうなってしまう。
後で客観的に読むと、おかしな書き方してるなと思う。
どう描いたら的確な表現になるのか、どう書けば正確なのか、どう言えば伝わるのか。
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