リンが名探偵リンになる前のとある日のこと
「ふむふむ。それでここで事件が起きたと…」
「そうなんです。私にはもう残り時間が少ないので、どうしてもこれを解決したくて、風の噂で聴いた名探偵がいるという探偵団さんにお願いしたのです」
「ううむ。そして、もうあなたには時間が残り少ないということで私をここに呼んだと?」
「はいそうなのです」
私の名前は名探偵リン。
ピンチの時こそチャンスに変えるクレイジーな探偵団『ガッチーズ』の多分、いやどう考えても団長だ。今日はこの依頼主さんからどうしても調べてほしいことがあると依頼を受けて、急いでここにやってきたのだけれども…
「どうしても見つけていただきたいのです」
「ううむ」
―― どう見ても、ただの足跡と丸い石にしか見えないわ。
私は依頼主さんから依頼を受けた、事件を解決するためのヒントを見るのだけれど、ただの雪に残る足跡が、向こうから来て、あっちに行ってしまってるだけにしか見えない。今手に取ってる石も、どこにでもあるような黒い丸っこい石。一体依頼主さんは何を見つけてほしいって言ってるのか、私の頭脳明晰な頭を使ってもまだ何もわからない。
「で、あなたは一体何を見つけてほしいの?」
もう一度、さっきこんにちはをした時にした質問を依頼主さんに聞いたが、
「全部です」
「ぜんぶ?」
「そうです。全部を見つけてほしいんです。無くしてしまったんです。大事なものを」
とまたわけがわからないことを言ってくるもんだから、私は、全部って何を全部なんですか? ともう一度聞く。
「僕のすべてです」
何度やってもこの答えが返ってくるのだった…。正直、もう、このくだり何回目? バカなの?この依頼主さん。
でもその依頼主さんも、まるで私を疑うように、
「あのぉ、ガッチーズさんは五人組の探偵団ってきいていたんですけども……」
とこの名探偵の私に聞いてきた。
「お兄ちゃん達は冬休みの宿題がまだ終わってないから今日ここには来れません。でも、お兄ちゃん達がいてもいなくても、この名探偵リンがいればなんとかなるので安心してください」
と、私は無知な依頼主さんに教えてあげる。お兄ちゃん達いても多分役に立たないし。そんなことよりも、時間がないって言ってるんだから、早くこの事件を解決しないと! まずは今目の前にあるものを調べなくっちゃいけない。 今目の前にあるものといえば、この雪についた足跡と、それとこの黒っぽい丸い石。
「まずはどこからきた足跡なのかたどって行きましょう!」
私はそう言って、その足跡を依頼主さんと一緒にたどっていった。足跡の大きさはどうやら私ぐらい。と言うことは、小さな子供ってことかしら。ふむふむ。子供のやらかした事件ってことね! これならすぐに解けちゃいそうだわ! 私はそう思って、足跡をたどっていく。
―― あれ? ここは…
私たちがたどり着いたのはどうやら建築現場の材料を置いてあるような場所の広場。ううん! なかなか事件ぽくなってきた!
「ここに心あたりは?」
「そうですね、なんとなく。もうだいぶ薄れてしまったのですが、なんとなくあります!」
依頼主さんが笑顔で顔をゆがませながらいうので、私はこの場所をもう少し調べることにした。だいぶ急いで解決しなきゃ依頼主さんが困ってしまうと名探偵の私は思った。
広場みたいに開けたところに、なんだか筋みたいなのがついてる。ふむふむ。これはもしや……
私の頭に、一つの仮説が浮かんだ。その仮説を組み立てていくと、その仮説はもっともっとリアルなイメージとして私の頭の中に浮かぶ。
「ここに来てよかったです! だいぶ見えてきました!」
「本当ですか?」
では、今度はさっきの事件現場から先にたどってみましょうと私は言って、依頼主さんに事件現場と教えてもらったとこに戻って、足跡の先に二人で行くことにした。
急がなくっちゃ。今日の朝まで降り続いた雪はとっくにやんで、もう重苦しい灰色の雲はどこかに流れて行ってしまった。今は雲ひとつない青空が広がってる。急ぎ足で歩くとじわっとコートの下に汗をかいちゃうくらいのお昼時、私たちは足跡が消えないうちに急いでその先へ向かうことにした。
途中、赤と黄色が混ざったような私が嫌いなものを見つけた。本当これ、なくても成立するのに、なんで入れるんだろうといつも思っちゃうな! などと思っていまいましく見てたら依頼主さんが、
「それですそれ!」
と声を上げるので、仕方なく拾ってコートのポケットに入れて先を急ぐ。早くしなくっちゃ。もうどれがどれだかわからないくらいに雪についた足跡が消えていき始めてる。まだかろうじて残ってるのは、この道が住宅街の細い路地で日陰だからだ。でもそれも太陽があたり始めてもうこの道の雪も溶けてきちゃってる!早く早く! 溶けちゃう前に早く解決しなきゃ!
私は急ぎ足でその消えかけた足跡を追うけど、依頼主さんはぽたりぽたりと滴をたらしながらとても疲れた顔をしてる。でも、かわいそうだけど、なんとしてもこの謎を解かなきゃだから、私はうしろを振り返りながら、依頼主さんがついてこれるだろう最大限のゆっくりスピードで、だがしかし最大限早足で消えてしまう雪に残る小さな足跡を追う。
途中でこれですこれというので、木の棒を二本拾い、これですこれと後ろから声をかけてくるので、急ぎ足で戻って赤い小さなバケツを拾い、そして、やっと、足跡が消えた場所にたどり着いた。
「え? ここ?」
「はぁはぁ、はぁはぁ、ここなんでしょうか……?」
依頼主さんは滴をポタポタたらしながら、ひどく疲れた顔をして、それはもうまるで溶けちゃいそうなくらいで、私の後を追いかけてやっと追いついてその言葉を言った。
―― ピンポーン
もう消えてなくなりそうな依頼主さんをみていられない私は急いでそのたどり着いたレンガ色の屋根の家のインターホンを押す。
「はーい」
ガチャっと扉が開いて、私よりちょっと小さいくらい、そうね、みたところ年長さんくらいの男の子が出てきた。
「なんのごようですか?」
そういう男の子に依頼主さんは、今にも消えそうな声で言った。
「あなたが作った僕につけてくれたいろんなパーツ、探して持ってきました。僕はもう溶けちゃうけど、また空気の中に混じって、そしてまた雲になって、そしてまたいつか雪になって帰ってくるから、その時は、また遊んでください。僕は…と……ても…きょ……うね…た…のし…かった…ん…で……す……」
依頼主さんは最後消え入るような声になりながらもそう言って、グシャっ! とまるで雪かきをして道の隅に避けられたような、見るも無残なカタマリになった。
それを見た小さな男の子は、
「もしかして、朝作った雪だるまさん?」
と聞いたけど、もう溶けてなくなっちゃった雪だるまの私の依頼主さんは何にも答えることはできない。
しばし間があり、でもまともな意識を取り戻した私は、また雪が降ったらきっと会えるよ! と、その小さな男の子に今まで拾ってきたものを手渡しながら伝えて、最後の決め台詞を言った!
「一件落着! さすが名探偵リンね!」
はっ!?
夢か…。初夢、なんかすごい楽しかったかも。
謎解き大好き少女の自称名探偵リンが見た初夢が2022年の夏に実現することになろうとは、この時のリンには知るよしもなかった………
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