遊び人、サトリをひらく

冬華

第1章 遊び人と魔族の少女

第1話 遊び人、クビになる

「……突然だが、ヴァルス君。君はクビだ」


 二日酔いで頭が痛い中、食堂に降りた遊び人ヴァルス・ナバールに勇者クロードが告げた。

 クロードの後ろには、剣士ジョゼ、魔法使いアリス、聖女カタリナもいる。


 何を言われたのか、理解できなかった、いや、理解したくなかったヴァルスは、彼らに救いを求めた。しかし……


 誰も助けてはくれなかった。


「……ど、どうして、そんなひどいことをいうんだい?クロード。俺が一体何をしたんだというんだい?」


 ヴァルスは【噓泣】のスキルを発動させて、両目から涙をあふれるように演出した。


「なにをしたかですって?」


 しかし、その問いに答えたのはクロードではなかった。


「ア……アリス?」


「あなたをこのパーティーに加えて今日で320日。その間、何度私やカタリナの胸やお尻を触った?何度、着替えや風呂を覗いた?」


「えっと、36回ほど?……いや、だって大きさといい、形といいとてもグッドだからつい……」


「ついってねぇ、あんた。え?しかも数えていたの?……普通にキモイんだけど」


 アリスは蔑んだ目でヴァルスを睨む。

 そして……杖を素早く抜くと魔力を集中させ始めた。


「まあいいわ。この犯罪者!今すぐ死ね!」

「待って、アリス!落ち着いて!宿屋が壊れるぅ!」


 今にもアリスの杖から魔力が放たれようとする中、ジョゼが必死で止めようとした。


「離して、ジョゼ。せめて、一発だけでもアイツに!」

「弁償する金がないんだから、落ち着いて!」


「ジョゼ……やっぱり君だけだ。俺の味方は」

「誰が味方だ!誰が」


「えっ?だって昨夜一緒にいつものパフパフ屋に行った仲間じゃないか。またいこうぜ、お前の好きなカタリナ似の娘がいるあの店に。今度は俺がおごってやるからさ」

「ば、馬鹿!それを言うな!」

「……ジョゼ。あんた……」


「まて、アリス。話せばわかる。だからその杖しまって!あっカタリナ、誤解だから、だから、そんな目で見ないで!」


(よし!これで今日もごまかせそうだ。アリスの怒りがジョゼに向いているうちに部屋に戻ってやり過ごそう。そうすればいつの間にか忘れてくれる。いつものように……)


 実はクロードたちがヴァルスに解雇を通知したのは今日が初めてではない。

 しかし、ヴァルスがいつも周囲をカオスの渦に引きずり込み、結局話はうやむやになるのだ。

 だから、今日も……。

 

「ヴァルス、残念ながら今日はそうとはいかないよ」


 テーブルにあったパンを2個ほど掴んだヴァルスが、いつものようにそのまま2階に向かおうとしたところでクロードが呼び止めた。

 振り返ると、ジョゼ、アリス、カタリナは言い争いをやめ、真剣にこちらを見ていた。


 只ならぬ雰囲気に、ヴァルスがたじろいだ。


「ま、まて、クロード。俺はナバール公爵家の世子だぞ。それをわかっていて俺をクビにするっていうのか?」

「ああ、もちろん。だが、残念だ。君はどうやら公爵家からもクビにされたようだ」

「え?」


 クロードはポケットから手紙を取り出した。その手紙にはヴァルスにとって見覚えのある紋章が押印されていた。


 ヴァルスは、クロードから奪うように、その手紙を見た。


 手紙は父親からのもので、ヴァルスを公爵家から追放する旨が記されていた。


「ば、ば、ばかな……」


 ヴァルスは手を震わせながら、ゆっくりと顔上げ、クロードを見る。

 クロードは、にっこりさわやかな笑顔でヴァルスに告げた。


「つまり、もう君のお守りはしなくていいということ。さようなら、ヴァルス君」

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