49「復活する貴公子」

 学院でのゴタゴタとは関係なく、冒険サークル【サンクチュアリ】は普通に活動していた。再びダンジョンイベントを開催するので、シルヴェリオは三人娘に招集をかけた。自身のメンタルはさておき、令嬢たちの安全が第一だ。それに確かめておきたいこともあった。

 四人は先行してダンジョンイベントに侵入する。

「だけど、いっつも小物が湧き出してくる展開だよなあ」

「今日も気を付けるニャン」

「……あれは私の責任だな。たぶん」

「えーっ。なんだよそれ」

「なんだ、ニャン」

「そうなのですか?」

「おそらくストーク追跡のスキルに魔獣が反応して寄って来るのだろう」

「なんだよー。犯人はこっち側かよー」

「犯人はないぞ。今日はそれを確かめる。そちらの力は使わん」

「学生さんたちは平和が一番ニャン」

(問題のスキルを確実に手に入れればならん)


 第二階層の安全を確認していると、【サンクチュアリ】たちも降りてきた。適度な小物と対決しつつ盛り上がっている。男子たちは自信をみなぎらせ、女子たちはそれを讃えた。フランチェスカも積極的に戦っている。以前より強くなっていた。

 シルヴェリオはその活躍を、さりげなく横目でガン見する。そして自らも戦う。

 第三階層降りてデメトリアは気配を探った。

「おかしな魔力の動きはないですね」

「これがいつものダンジョンニャンね」

「退屈だけどな。シルヴの力は厄介なんじゃねーの?」

 カールラとチェレステは少々不満顔だ。支道の奥では冒険者たちが戦っているようだが、ホールまで魔獣が溢れるような気配はない。

「森やダンジョンの中では迂闊に仕えんな。注意する」


 特殊イベントもなく、ダンジョン交流会はつつがなく終わった。少し間をおいてシルヴェリオたちも第一階層へと上がる。

「あの……」

「!」

 そこにフランチェスカが嬢いた。遠くに友人二人の姿が見える。シルヴェリオの頭の中はこれから描く絵で一杯になっており、接近に気が付かなかったのだ。デメトリアたち三人娘は気を利かせて先へと進む。

 突然発生したビックイベントにシルヴェリオは戸惑う。このまま抱きしめてしまいたい衝動を必死に押さえ、かすれ声を絞り出す。

「なっ、何――かな?」

「あの――。このあいだはありがとうございましたっ!」

 と言ってフランチェスカは頭を三度下げた。

「い、いや。こちらこそ――」

 何か気の利いたことを言わねばと思うが、まったく思いつかない。

「友人たちに怒られました。お礼も言わなかったなんて。びっくりしちゃって、ごめんなさい」

 と言いニカっと笑ってまた頭を下げる。

「それだけです」

 本当にそれだけ言って友人たちの元へ駆けて行く。

(あっ……)


 帰り道、シルヴェリオは第一の遭遇に遡り事情を説明した。

「それはショックだニャーン」

「ひっでー話しだあー。ガン見かあ?」

 シルヴェリオが復活したので、カールラとチェレステは容赦なく突っ込んだ。

「お前たちとてビキニアーマーだろうが」

「これは普通だしなあ」

「私たち冒険者ニャン」

「いや、令嬢とて大勢いる」

 とオリヴィエラの姿を思い出す。あれが問題無しなら、当然フランチェスカの姿も問題なしだ。

「あなたたち。もうお止めなさい」

「教会騎士はどうなんだあ?」

「騎士もマドンナ《聖母》やレディセイント《聖女》の衣装に準じますから。あなたたちのような格好はしません」

「敵が強いときは?」

「その時は脱ぎますよ。悪魔を倒すのが、第一の目的ですから」

 カールラの突っ込みにデメトリアは真面目に返す。

シスター修道女にも、元冒険者っているんだろ?」

「たくさんいますよ。でも魔導士か魔法使い系がほとんどかしら?」

「令嬢様は剣士系ニャン?」

「いざとなったらって心意気だな。やるじんかー」

「心の準備もなくて、ビックしたのですね。慣れの問題ですか」

 娘たちの分析を聞きつつ、シルヴェリオ思った。

(それらはすでに、突き抜けてしまったな……)


 シルヴェリオ糾弾問題について、フランチェスカがなんとも思っていなかったのはなによりだ。

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