12「追加クエスト」

「さて、そろそろ帰り時ですかね?」

「うむ、今日はもう終わりとしよう」

 上層に戻るとフランチェスカたちは、まだ同じ階層にいた。こちらも、そろそろ引き上げようとしている。

 シルヴェリオは遠巻きにそれを見守った。何やら話をしている。気になってしかたない。

「和気あいあいとしてるニャン。会話を聞いてみるニャン?」

「やってくれ――」

(なんとも便利なスキルがあるものだな)

「――盗み聞きにもってこいだ。素晴らしい」

「魔獣との戦いに必要ニャンッ!」

 シルヴェリオは猫に怒られてしまった。

 ドキドキしながらしばし待つ。他人の心を覗くような緊張感だ。姿形はつねに見つめているのだが、仲間は音声のスキルを持たない弱点を補ってくれる。これがパーティーだ。

「どうだ? 何を話している? 私との運命の出会いとか……」

「打ち上げの反省会に、皆で行こうと話してるニャ~」

「なんだと!」

「親交を深めるみたいだなー」

「盛り上がりそうだニャン」

「ぬぬっ!」

「シルヴェリオ様は、お邪魔虫ニャン」

 場の雰囲気を冷静に見れば、フランチェスカがモテモテのような気がする。彼女は今、狙われた令嬢状態だ。

「害虫どもめ~っ……」


サンクチュアリアッツァの聖域】たちは足取りも軽くダンジョンをあとにする。シルヴェリオたちは少し間をおいて帰還の途についた。

「今日の成果はいかがでしたか? あの……、報告が必要なのです」

父親おやじ殿にか。まあいい。ミノタウロスは刺激的だった。私の力は上がっている」

「聖剣はどうでした?」

「ただの剣だ。今のところ。今日は私だけで戦った」

「初戦の戦果としては十分です」

 デメトリアはホッとしたように言った。


 一行は森の道を歩く。街が近づいてきた。

「ヤツらを追跡したい。誰か行ってくれるか?」

「えー、めんどうくさいニャン。契約した仕事はもう終わりニャン!」

「追加の報酬は個人で支払う」

「了解ニャン。それと酒場の経費も」

「無論。これは偵察クエストだ」

「それなら私だニャン」

 チェレステが立候補する。パーティーで偵察を受け持つスキル持ちだ。

「これを使う」

 シルヴェリオは手のひらで光球を作り出す。それは浮遊し、チェレステに吸い込まれた。

「シャーーッ!」

「怒るな。偵察を記録するスキルだ。昔何度か使っている」

「ヘンなスキルを持ってるよなー」

「目立たないように、なるべく近くに座ってくれ。音は記録できん」

「私に任せるニャン。会話はスキルで聞くニャン」

「頼むぞ。追加報酬ははずむ」

「はいニャッ!」

 チェレステは猫の素早さで、宵闇迫るヘルミネンの街並み消えていった。シルヴェリオたちは屋敷に戻る。

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