10「魔窟の激闘・前編」

 いよいよダンジョン探索当日となる。巨大開口部近くの小さな街でシルヴェリオたちは待機していた。

 目的の学生パーティーが現れる。目標発見だ。総勢十人ほどで女子は半分といったところだ。

「あれが同じ学院に通う生徒さん冒険者なのですね」

 これから戦いに挑む集団にはとても見えない。まるで男女が交流を深めるための、ピクニックのような雰囲気を発散させていた。

「見るからに初めまして、って感じだニャー。楽しそうだニャン」

「これはかなりの初心者コースに行くだけだなー」

「退屈だニャー」

 シルヴェリオとしては心穏やかではない。完全に出会いの場に見えたからだ。ふつふつと心の奥底が沸騰した。

「よしっ! 我々もそろそろ行くか。気合を入れていけ」

 シルヴェリオたちはカフェのオープン席から立ち上がった。

 あくまで偶然を装いつつ、やや後方を進み接触を続けなければならない。かなり高難易度のクエストと言えた。

 普通の冒険者の姿に、聖剣がなんともミスマッチである。シルヴェリオを先頭に三人娘の冒険者が付き従う。

「おい、お前たち。私の前に出るのだ。見えないように、さりげなく私の姿を隠せ」

「はいはい~」

「めんどくさいニャー」

「それから強敵が出た時は私が倒すからな。いいところを見せねばならん」

「はいは~い」

「面倒くさいニャー」

 カールラとチェレステの二人は本当に面倒くさそうに話す。

「あなたたち。高額の報酬をもらっているのだからしっかり働きなさいね」

 さすがリーダーのデメトリアは、緩みきった空気を引き締める。

「そうだ。冒険者とやらの力を、この私に見せつけてみせろ」

「はい〜」

「ニャー」

 返事はゆるいままだった。


 学生様ご一行は一番大きな開口部から中へと侵入する。

「この先が第一層の広い空間になります。そこにはほとんど獲物はいませんから、さら下へ降りていくかと」

「うむ……」

 ダンジョン初心者のシルヴェリオにデメトアが解説する。

 下層には数人の専業冒険者たちがいた。

「よう、どうだい?」

 カールラは知り合いなのか気さくに声を掛ける。

「ダメだね。どうかと思って来てみたけど最近のダンジョンは平和なもんだ。引き上げるぜ」

「そっちこそどうしたんだ?」

「こっちも冷やかしさ。ただの見学だよ」

「俺たちは森に入る。先客の打ち漏らしぐらいならいるかもな」

 簡単な情報交換をして、そのパーティーは引き揚げていく。素人冒険者にとっては最適な日のようだ。


「きゃー」

「嫌あ」

「むっ!」

 前方から聞こえる悲鳴にシルヴェリオは慌てて前に出る。平穏は戦闘の前触れとも言う。負けられない戦いが始まったのだ。

「なんだ!? 助けに行くぞ!」

「弱い魔獣が出たようです。相手はヘビとリスですね……」

「なんだニャン。かわいいもんだニャン」

「しかし魔獣であろう」

「村の子供でも退治しちゃう小物だな〜」

「脅かすな……」

 ヘビの姿に女子たちが思わず悲鳴をあげてしまったようだ。シルヴェリオは再び後ろに下がり、娘たちの影に隠れる。そして隙間からフランチェスカをガン見する。

「このあたりに出る魔獣はあんなものですよ」

「よし、私が全滅させ、力を見せつけてやる」

「それはいかにいけません。獲物の総取りはマナー違反です」

「強い人しか稼げないニャン」

「だいたい、なまって戦えないんじゃないのか?」

「少しずつ戦って感を取り戻しましょう。それを今日の目的といたします」

「そうだな……」

 シルヴェリオは素直に従った。判断は戦いのプロに任せるべきだろう。

(ヘビとリスか……)

 一行はさら進みシルヴェリオたちもあとを追う。階段を降りて下の階層へと進んだ。

「メインホールは安全ですが支道の多くは少々危険ですね。普通の冒険者では楽なくらいですが」

「どこに行くつもりなのだ?」

「あの者たちの力では、これより下には行きせん。ここをさら奥へと進むかと」


 少々大きな犬程度の魔獣が登場した。男子学生は前衛となり複数人で戦う。

 女子たちはかなり後衛から魔法のスキルなどを使い援護した。

 フランチェスカも必死に短い剣を振ってカッター魔撃を飛ばす。なんとも可愛らしい戦いぶりだ。

「やるではないか」

 デメトリアたちは顔を見合わせる。本職からすればなんとものんびりした戦いだからだ。サークルパーティーは、なんとかかんとか勝利をおさめた。

 肩で息をする男子たちの肩を女子生徒たちが激励するように叩く。フランチェスカは疲れてしまったようで、肩で息をする方の役回りだ。

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