04「にじり寄る害虫たち」
最後の授業が終わった午後。広場の隅のベンチ。木陰の下が
なんとか取り巻きたちをまいて、建物の裏に隠れつつジッと観察する。日課の見守り行為は、まるで命をかけて愛する人を守る騎士の気分になる。騎士道を体現していると。
友人らしき男子生徒数名がフランチェスカに近寄ってきた。シルヴェリオはそれを睨み付ける。
(一体誰なんだ。あいつらは? まるで美しい花ににじり寄る害虫ではないか。なんて厚かましい奴らだ!)
シルヴェリオはその男どもの素性を思い出そうと記憶を探った。一回生下、フランチェスカの同級生たちである。
確か何かのサークルを主催している連中だ、と思い出す。いまいましくも目立つ存在たちである。ヒロインをその活動に誘おうとしているのであろう。さら女友達らしき一人が加わり、直感が警鐘を鳴らす。フランチェスカの表情はまんざらでもなさそうだ。
(どのような悪巧みだ~っ)
シルヴェリオは学院内の掲示板へと向かった。
「冒険サークル――だと?」
害虫どもによる張り紙には挑戦する日時、希望募集と書かれていた。場所は近郊のダンジョンで初心者歓迎とある。
どうやら新人勧誘用のイベントであるようだ。貴族全員にとっても魔獣との戦いとは、武芸のたしなみである。
しかしサークル名【
「どうした? 何を見ている」
「教授……」
戦史などの担当で、武芸にも明るく実力もある魅力的な女性。兄弟たちが王宮の騎士を務める、ファルネティ・イラーリア教授だった。
「私はそこの顧問なのだ。興味があるのかな?」
「そこ?」
とシルヴェリオはとぼけた。二人は以前から面識がある。
「久しぶりに絵画サークルに顔を出そうと思い、先に
「相変わらず芸術か。お前は戦闘センスがある。少しはこちらにも興味を持ってくれよ」
「
わざとらしく【サンクチュアリ】の張り紙を見た。神妙な顔を作る。
「まあ、遊びの範疇を出ないな。ただ体験は必要だ。逃げるだけにしても戦いを知っているか知らないかでは生存率が違うんだ。一人くらい本物が欲しいな。どうだ?」
長く赤い髪は戦闘力の高さを想像させる。笑顔ならば可愛らしさをのぞかせる瞳も、真剣ならば切れるような眼光を帯びる。張り出した胸は筋肉の層が土台で、スラリとした手足がムチのようにしなり獲物を切り裂くと、シルヴェリオは知っていた。
「考えておきます……」
「頼むよ。オリヴィエラにもよろしく言っておいてくれ」
「はい、では」
「うん」
こちらが獲物になるのはごめんだと、シルヴェリオは早々に辞退した。フランチェスカと同じサークルは魅力的だが、あの中で二人だけの世界を作るなど無理であろう。他の作戦を考えねばならなかった。
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