第36話 毒を消そう
ひとまずジェラルド少年の瀕死に近いHPゲージの五分の一……ゲームでいうと黄色ゲージくらいまでに回復させる。400もあればずっとそばで見張ってなくても問題ないだろう。
ちょっと質のいい中級ポーションくらいならこれくらいの効果はあるから、変に怪しまれることもないはずだ。
「よし、あとはこっちの金髪の人だね」
HPが100残っていたジェラルド少年ですらあんな状態だったのに、この気絶した青年はどうなっているんだろうか。……まさか一桁だったり。
ふと思い浮かんだ嫌な考えを振り払い、私は青年に鑑定をかける。
【クロヴィス・グロスモント
21歳/Lv.45
HP:51/1525
MP:23/300
状態:重症(創傷多数、内臓損傷、頭部強打)、毒、凍傷、魔力枯渇、意識不明、出血多量、呼吸困難】
(本当に死にかけてるじゃない!?!?いや良くこのステータスで帰らずの森通り抜けたね!?)
なんなら一人の人間の体で状態異常がパリコレをしていると言っても過言ではない。しかも毒に関しては現在進行形で青年……クロヴィスの体を蝕んでおり、某RPGのように一定間隔でHPを削っていた。
それに気づいた瞬間、私は表示された毒という文字にさらに鑑定をかける。
【毒:no name
下級魔法ポイズンショットの副効果。
触れた場所をただれさせる程度で毒性は強くない】
(触れた場所をただれさせる程度で毒性は強くない??本気で言ってるの鑑定さん??これで下級魔法とかこの世界修羅の国じゃん……)
私の鑑定のレベルが低いからか、毒の名前まで読み取れなかった。クロヴィスの職業も読み取れなかったし、レベル差のせいかもしれない。
まだ基礎である五元素魔法しか勉強してないから、そろそろミハイルに他の魔法のことも聞いておいた方が良いかも。そういえば、エダがポーションにはHPやMP回復系以外に毒消しやら麻痺消しがあるっていっていたけど、こういう時に使われるのかな。
(よし、魔法は想像力!私なら治せる!)
鑑定で毒にやられているところを視ようにも、全身真っ赤になってしまって意味がなかった。そういえばこの人他にもたくさん怪我してたじゃん。
「でもいつもみたいに魔法を使ったら全回復しちゃうよね。ジェラルドくんみたいに途中でやめるにしても、毒は残しちゃマズいし」
『それなら、完全に直した後もう一度半殺しにすればいいだろ。外傷以外全部治るし、俺なら造作もないぞ』
「うーん、フブキにはこのまま休んで欲しいかな」
凄いサイコパス思考に触れてしまった。私がちゃんとしなきゃ……。
そもそも、毒は体循環によって細胞に送り込まれるものが多い。行きついた先の細胞を死滅させられると、その部分が正常に機能しなくなるのだ。
この毒が触れたところをただれさせるものなら、きっと傷口から毒が体内に入り込んでしまったのだろう。なら、血管内を治癒魔法で浄化すれば、毒だけを消せるのではないか。血管をどうこうするのはエダの時にもやったし、試してみる価値はあるはずだ。
「綺麗になれー、綺麗になれー」
毒が消えて綺麗になる医療ビデオを見たことはない。
だから代わりに、綺麗な血液が流れるところを想像する。ついでにイメージ補強のために、目的を呪文のように繰り返す。元ネタは”痛いの痛いの飛んでけ”だ。
こんな適当なのでも通用するか心配だったが、意外にも魔法自体はすんなりと発動した。確かに魔力が吸われている感覚もするし、クロヴィスの呼吸がしっかり目視できるようになった。
症状に出血多量もあったから、それも治癒魔法で回復したのだろう。本当にやべえ魔法だ。
(血が足りなかったから、逆に毒の周りが遅かったのかな)
外傷と違って、目視じゃ毒が完全に消えたか分からない。鑑定と治癒魔法を交互に発動させながら、私は程よいラインを探す。
【クロヴィス・グロスモント
21歳/Lv.45
HP:571/1525
MP:24/300
状態:重症(創傷多数、頭部強打)、軽傷(内臓)、凍傷、魔力枯渇】
「やっと毒が無くなった!」
その他もだいぶ良くなってしまったけど、まあいいでしょう。怪我が酷かったからたくさん薬湯飲ませたことにしておこう。
ちらりと、結局出番がなかった薬湯を見る。
治癒魔法がかかっているが、今さら飲ませる必要もないだろう。それに、ジェラルド少年が気絶した薬湯を意識のない人に飲ませていいかという気持ちもある。
私は少し考えて、そっと庭に薬湯を捨てた。元を返せば自然の物だし、環境に害はないはずだ。たぶん。……きっと。
(冷めても匂いきつい……。二人とも気絶してるし、わざわざこんな物飲ませる必要もないよね)
そう納得して立ち上がると、かるい眩暈に襲われた。それに大量に魔力を使ったせいか、さっきからずっと眠い。
『大丈夫か?さっき、だいぶ魔力を使っただろ』
「ちょっと眠いだけだよ。ちゃんと見極めて治療しましたから!」
『……はあ、こりゃミハイルに怒られるな。転移魔法を使うのはやめておけ。俺が屋敷まで乗せる』
「えっ、大丈夫だよ!フブキこそ無理しないで。さっきまでダウンしてたのに」
薬湯が無くなったからか、フブキはやっと私の近くに来てくれた。
といってもその動きはゆったりしたもので、あまり元気じゃないのは分かる。いくらフェンリルだからって、私そんな状態で私を乗せて森を走らせることはできない。
しかし、フブキはそんな私の考えなど分かっていたようだ。
これ見よがしに大きなため息をつくと、瞬きの間に巨大化した。出会った当初のサイズまでになると、私の襟首を噛んでひょいとふかふかな背中に放り出された。……ちょっと薬湯くさい。
「わっ、フブキ!おろして!」
『こればかりはコハクの命令でもきけんな。そら、振り落とされるなよ!』
「ちょっ、」
『心配するな。俺は匂いでやられるほど貧弱じゃないし、今は思いっきり走りたい気分だ!』
貴方さっきまでスライムだったじゃない!
そう言おうとしたが、走り始めた
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