魔王を倒して平和になったはずなのに!

ういんぐ神風

魔王を倒して平和になったはずなのに!

「勇者様。大変です。リリーナ姫が魔族にさらわれました!」

「何だって?!」

 レオは耳を疑うように再度聞いた。

 従者は慌てた様子でバタバタと城を駆け回る。城の防衛体制を強化していた。

 だが、それも手遅れだ。

 魔族は羽を広げて、羽ばたき、魔王城へ向かっていた。

「仕方がない。応援も待っていられない。俺一人でも姫様を救いに行く!」

 レオはそう言い、一人で魔王城へと向かった。

 

 ことの始まりは3日前。世界は平和になった。

 勇者一行達が神から与えられた聖剣を放ち魔王を倒したのだ。

「くらえ!聖剣の光(ホーリー・ソード)」

「ぐああああああああああああ」

 聖剣の光線を浴びながら、魔王は光の中で消え去った。

 勇者達の勝利だ。これで世界が平和になった。

 その勇者達の勝利を祝福するためにグラン王国は祭りを開催した。

 隣国のサイファ帝国もその祭りにも参加した。

 祭りが開催されれば、住人は踊れば踊り、飲めば飲み、楽しく踊り狂った。

 7日間の祭りが開催されたのだ。

「おい。レオ。こっちに来い」

「何だい。オーシャン。俺は、この老婆と話しているんだ」

「いいから来い!勇者様の武勇伝をこの腰抜け兵士に語ってやれ」

 オーシャンが言うと、レオは全くだ、と鼻を鳴らして、オーシャンのところへいく。

 レオは紛れもなく勇者だ。彼は聖剣使いだ。

 神から与えられた聖剣を授かり、悪魔を倒す役目があった。

 だが、魔王を倒した今、聖剣は必要ない。レオはその聖剣を神へと帰依したのだ。

「その時、俺たちは魔王の攻撃を受けて倒れ、もうダメだと思った時、こいつが立ち上がり、聖剣を使ってバーンとなぎ払ったんだ!魔王は一瞬で消え去ったんだよ」

「まじかよ。魔王を一瞬に倒したのか?」

「おいおい。どれだけすげえだよ」

 兵士は絶句するように口を大きく開いた。

 レオはその様子を見ると、肩を竦めて聖剣のことをいう。

「ちなみにその聖剣はもうないぞ?神に返したからな」

「何だよ。俺たちも見たかったな」

「残念だったな」

 兵士は残念そうにすると。レオは苦笑を浮かべて返す。

「でも、神に返してよかったの?」

 会話に参加したのは魔法使いのアナだった。

 疑問に思った彼女は綺麗な顔で見上げる。レオの視線を合わせる。

「いいんだよ。アナ。聖剣はあくまでも神から借りたものだ」

「それはそうだけど……もう少し持っていてもいいじゃない?」

「何のために?」

「見せびらかすため?」

「……意味ないだろ」

 レオがやれやれと答えると、にししと笑うアナだった。

 そんな会話を横に、聖職者のリリーナは微笑み、レオを称賛する。

「さすが勇者様ですね。聖剣を神の元で返すなんて」

「いや、俺は自分の役目をこなしただけだ。それより、リリーナはここにいていいのか?姫様はお役目とかあるのでは?」

「少しの間でしたら大丈夫です」

 にこと抱擁の笑みを浮かべてそう答える。

 リリーナは聖職者でありながらこの国のお姫様でもある。国民を思う心の広いお姫様は聖職者と偽り、勇者パーティーに参加していた。

 彼女はこの国の象徴である。誰もが愛する者だ。

「おーい。全員揃ったし、乾杯しようぜ」

「そうだな」

 オーシャンのかけ声にうなずくレオ。

 そして、彼らは祝杯をあげた。


 平和な日常が戻って来たかと思えば、3日後の夜。

 街は魔王を倒した宴を開いている途中に、事件が起きた。

 リリーナ姫がいつものように城の中を歩いていると、魔族と遭遇した。

「やあ、今宵は月が綺麗だな」

「ッツ!?魔族!?」

 リリーナは身構える。いつも護身用にしている杖を取り出し、ビシッと魔族に向けて構える。彼女は冷静に状況を対処している。勇者たちと共にした日々は伊達ではない。

 姫様も戦闘はできるのだ。

「お前を攫いに来た」

「ファイヤボール!」

 大人の拳サイズの火玉が杖から放たれる。

 風を横切り真っ直ぐと飛び、魔族へと向かう。

 当たれば、ただでは済まない。そのサイズでは軽症の火傷レベルではない。究極に魔力を込めているファイヤボールだ。

 瞬時、ファイヤボールは魔族に当たる。ドカンと轟音を轟かせる。

 煙が廊下一体で覆われる。

 リリーナは魔族を倒したと、思った。

 がしかし、

「無駄だ。無駄無駄」

 魔族は健全だった。彼は嘲笑いながら、姫を見つめる。

「どうして?……まさか、結界!?」

 魔族をよく見ると、魔法陣を前へと展開されていた。

 ファイヤボールが魔族に届く前に、魔族は魔法陣を展開した。

 その魔法陣がファイヤボールを無力化したのだ。

「ご想像通りだよ。お姫様」

「く!?」

「遅い!」

 姫がまた魔法を唱えようとすると、魔族は音速で彼女に接近する。

 そして、強烈のパンチで彼女の腹部へとかます。

「キャ!?」

 痛みに耐えれず、姫はそのまま意識不明になっていた・

「よえ。よえよ。姫様」

 そうぶちょくすると、魔族は姫を抱えて、窓へと向かう。

「魔族?……姫様!」

「姫様を下ろせ!」

 爆風で駆けつけた兵士が魔族と立ち向かう。

 だが、遅かった。

「あばよ。ばかども。返して欲しかったら魔王城まで来い」

 キハハハハと高い笑いをしながら、羽を広げて城から去る。

 兵士は何もできずに、ただただ、魔族の羽ばたきを見守るしかできない。


 そして、現在にあたる。

 レオは急いで準備し、単身で魔王城に向かう。

 魔王城への道は一度通った道だ。迷うことはない。

 道中の魔物は全て排除したため、魔法城への道は危機がなく、一人で向かうことができた。

 問題は魔法城に到着してからだ。

 最後の魔族。魔王と共に消えなかった、最後の生き残り。

 決着するためにあの魔族を倒す。

 魔法城に着くと、城の上に意識不明の姫様が鎖で十字架に縛りつけられていた。

 周囲には魔法陣が組み込まれていた。

 何かの儀式を形成されているのが、一目でわかる。

 レオは早くも魔王城に駆け抜ける。

 だが、一体の魔族が道を阻む。

 城を襲った魔族だ。大きなコウモリのような羽を持ち、鋭い爪を長く伸ばせる。耳は長く尖っていた。ただの魔族ではないことをレオは身構える。

 魔族はレオのことを見ると不敵の笑みを浮かべる。

「待っていたぜ。勇者」

「彼女を返してもらう!」

「ダメだね。彼女は魔王を復活するための生贄になってもらう」

「なら、力尽くで返してもらうまでだ!」

 剣を構えるレオ。

 言葉は不要だ。ここからあいつを倒して、姫を救い、一緒に国へと帰るのだ!

 レオは集中し、剣先を魔族へと向ける。

 そして、右足で大地を蹴り、真っ直ぐへと前に向かう。

 風の速さで相手を貫こうとする。

「遅い!」

 カン!と魔族は爪を伸ばし、剣を力で流す。

 さすがは上位魔族。一枚では簡単に倒せない。

 だが、その行動も想定されているものだ。次の剣舞で相手を倒す。

「はあ!」

 剣を強く横へと振り払う。風を真っ二つに切り裂く。魔族共切ろうとする。

 が、その剣も届かず、カン、と跳ね返る。

「無駄だ。俺の爪はダイヤより硬いのだよ」

「く!やって見なければわからないだろ!『乱舞』!」

 レオは出し惜しみなし、で剣を乱舞する。

 それは名前通りの技。剣が乱舞する。剣先は頭部へ切り裂くと胴体へ舞い切る、最後には下半身を躍り狂う。数秒間の間に合計十回の攻撃が走る。

 ……この攻撃を止められるなら、止めて見ろ。

 と、レオは魔族に切り掛かった。

「遅え!」

 魔族は爪を伸ばし、剣を防ぐ。頭部への三回の切り裂きを防ぎ、胴体に走る剣を払う、下半身に走る剣を叩く。

 全ての乱舞を防いだのだ!

「ふ、防いだのか!」

「くくく、無駄だ、無駄無駄」

 想定外のことが起きたのだ。

 この魔族は相当手強い。究極の技、乱舞を全て交わされたのだ。

 しかし、自分の能力も全力ではないこともレオは理解していた。

 普段なら、聖職者の支援魔法があり、全力で力を解放できる。

 聖職者がいない今は、普通の兵士と変わらない。

「じゃあ、お返しだ!」

「くっ!?」

 爪で切り裂く魔族。

 剣で応戦するレオ。

 だが、速さに劣るレオは防御することしかできなかった。

 爪は素早く、深く、襲って来る。

 キン、コン、キン、と金属音が響く。

 剣と爪がぶつかり合う音が数秒間も続いたのだ。

 だが、

「もらった!」

「ぐっ……!」

 爪先が顔を狙うように切り裂く魔族。

 それに合わせて、数秒で避けるレオ。

 だが、完全に避けきれないから。引っ掻きの傷が顔につく。血が吹き出す。

 このままではまずいと、思ったとき、レオは後方へと撤退する。

「勇者もこんなものか。弱すぎるわ、ハハハハハ!」

 魔族は嘲笑う。

 万全じゃない勇者は一般人と変わらない。

 彼の装備は一般兵とは変わらないのだ。

 剣も普通の剣。鎧も、一般の鎧。

 だが、燃える心と技は超人ある。勇者は装備だけではないからだ。

 剣では倒せないと分かったレオは、魔法で敵を倒すことを心試してみる。

「なら、魔法ならどうだ!ザンダーボルト!」

 瞬間に、雷が魔族に降り落ちる。

 ズドーンと、ハイボルテージの稲妻が魔族に直撃。

 普通の魔物であれば、焼け焦げになる。生き残ったものはいない。そんな威力を誇る唯一の単体魔法を放ったのだ。

 煙が周囲を舞う。その先には黒こげになっている魔族を期待し、レオは肩の力を抜ける。

「無駄だよ!」

「なっ!?」

 思わず言葉を抜かすレオ。

 魔族は傷一つもつけていない状態だった。

 あの威力の稲妻を食らっても五体満足でいられるのか?

「ああん?どうして俺様が無傷でいられるのかって?それは俺が雷属性だからだよ」

「何!?」

 レオは自分が行った行為が致命的なミスだと気づく。

 雷属性は雷で倒せない。むしろ、相手に力を吸収する。

 つまり、レオの雷で相手の力が増したのだ!

「これが本当の雷だ!」

 そう告げると、魔族は指から雷を放つ。

 レオに直撃する。

「があああああああ!?」

 レオの稲妻より威力高度が、彼の全身走る。

 痛みという苦痛が体の隅すみまで感じとる。

 力を付くレオはパタンと、倒れる。

「これが魔族の力だよ。下等生物な人間は俺様を倒せないだよ」

 と、腹を抱えながら嘲笑う魔族。

 ……悔しい!とても悔しい!

(……俺は彼女を失うのか?何も出来ずに、負けるのか?)

 歯を食いしばり、床を這いずる。

 このままでいいのか?あの魔族に負けて、姫を失うのか?

 絶対に嫌だ!絶対に負けたくない!

 だが、この状況を打破する方法はないか?

(……神様。どうか、聖剣をお貸しください)

 それが唯一のこの状況を打破する方法だった。

 レオは祈る。神が彼を見捨てていないことに祈った。

『……汝の願い。叶えよう』

「っ!?」

 そして祈るが神に届いた。

 レオの手元の剣が輝き出す。黄金に光り輝き、周囲を包む。

「なんだ?その剣は!?」

 魔族はその輝きを見て唖然する。

 それ。聖剣は魔王を倒すべき秘剣。

 レオは立ち上がり、その聖剣を構える。

 そして、光の光線を放つ!

「くらえ!聖剣の光(ホーリー・ソード)」

「ぐああああああああああああ」

 光線の中、魔族を上げる。

 聖剣の威力は魔王を倒せる。無論下位の魔族はその光線を耐えられるわけがない。一瞬で粉々になっていく。

「悔しいいいい!お前が憎いいいいいい!」

 光の中、魔族は悲鳴をあげる。

 レオへと呪いを吐き出すが、体が光の中へと溶けていく。

 魔族は完全に消え去ったのだ。

「終わったのか……?」

 レオは魔族が消えるのを確認すると、すぐにリリーナへとかけ出す。

 そして、彼女が結んでいる鎖を解放する。

「……レオ?」

 意識を回復したリリーナは目を覚ます。

 レオは彼女の

 災害は過ぎ去った。魔族は完全にこの世界から消え去った。

 この世界は真の平和を取り戻したのだ。

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