第10鬼 真実と決意

「白蓮!!」


 翔輝は急いで駆け寄り、意識を失くして倒れている白蓮を抱き上げた。鍬でぶたれた時に切れてしまったのか、彼の頭からは赤い血が流れていて、顔色が真っ青だ。


(クソッ!なんてことを)


 翔輝より早くたどり着いた白銀は歯をむき出し、白蓮の周りを取り巻いていた村人たちにとびかかり距離を離してくれる。その間、翔輝は自分の服の袖部分を切り破ると、白蓮の頭に抑えて悪態をついた。


 足止めをされていた時、突然白銀が向きを変え林の方に入っていくから急いで後をつければこれだ。

 なんの抵抗もなく村人に殴られ、スローモーションのようにゆっくりと倒れていく白蓮の後姿を見つた時、背中に冷たいものが走った気がした。


 目の前にいる彼らは、白銀の牽制にひるみつつ未だに武器を構えている。しかしまさか翔輝が現れるとは思わなかった村人たちは驚く者や変わらず睨みつけてくる者がいた。そんな中、村人の中から長らしき貫禄のある男が前に進み出て言う。


「旅のお方、その者と親しかったのですか?」

「…あぁ、そうだ。こいつが山で怪我をしていた俺を助けてくれた。それ以降世話になっている」

「ほぉ。ではさぞその者が善人に見えるでしょうな」

「実際こいつは善人だがな」


 翔輝は静かでまっすぐな目を村長に向けて言うと、村長はやや驚いたように目を見開いた。

 しかしそれは一瞬で、すぐに険し顔に戻る。


「確かに、出会った初めはそう思うでしょう。私達もを目にするまで信じていた。しかし、その者は私たちを騙していた。人間ではない化け物なのです、旅のお方」

「俺も噂は聞いている。しかしなぜそこまでこいつを化け物呼ばわりする?って何のことだ?」


 翔輝の眉間にしわが寄る。

 話の内容によっては殴り返すつもりだった。翔輝は静かに燃える怒りの炎をグッとこらえて冷静さを欠かないよう心掛ける。

 それに気づいてか、大事な村の子供たちのためか、村長は一度息をつくと一言で答えた。


「死なないのです。その者は」

「……なんだって?」


 意味が理解できず一瞬思考が停止する。


「この山にはさらに奥に進むと一部、崖かと思えるほどの急斜面になっている場所があります。昔、子供たちが山の中で遊んでいたのですが、その中で遊びに熱中しすぎたせいかその場所近くにいた事に気づかず滑り落ちそうになった子供がいたのです」


 まるで本の昔話を話すような口調で話された事実と先程聞いた結論がつながり、翔輝は息をのむ。

 ここまで前提の話をされれば誰だってわかる。白蓮がその子を助けようとして落ちたのだ。


 翔輝は何も言わず、未だ気絶している白蓮を見つめた。


「分ったでしょう?あなたの聞いた噂は真実だということよ。本当にその子は化け物なの」

「兄ちゃんはどう思う?幼い子供が大人でも落ちれば死ぬといわれる山の崖から落ちたのに、そいつは生きてて、しかも動いてたんだ。服には大量の血がついているのに、まるで傷なんてなかったように」


 翔輝はそれを聞いて目を見開く。

 そして、白蓮の頭に抑えていた布を静かに離して見ようとして――やめた。


 翔輝は血を止めるため抑えていた布をそのままにしてしゃがんでいた体勢から立ち上がると、白蓮を抱きかかえる腕に力をいれた。白銀は翔輝達の近くに寄り、白蓮の様子を見守っているようだ。


 村人たちはその間も大声をあげ続けていた。


「多少でも使えるという祈祷師の力というのも嘘に決まっている!」

「そもそも祈祷師など、昔のように力を持っている者はほとんどいないって聞いたぞ?」

「きっとその化け物の、妖の力よ!」

「子供が消えたのだってそいつのせいだろう!最近おとなしいと思えば、その力で子供たちを攫ったんだ!そいつを殺せば子供たちを助け」







「違うね」






 ただ一言静かに言った翔輝の言葉に、村人たちは声を閉ざした。

 なぜ彼の言葉で黙ったのか村人たちもわからない。ただ、黙らなくてはいけない気がしたのだ。

 翔輝が琥珀色の瞳を村人たちに向けると、武器を持っていることが罪であるように思えてくる。そんな不思議な感覚に村人たちは戸惑った。


(…おかげでいろいろわかった)


 翔輝はそう思ってから、彼らを見渡した。


「こいつは何もしていない。俺がずっと一緒にいたことが証明だ。…って俺が信じられてなきゃ意味ないな。嘘だと思うならば彼の家に行けばいい。少なくとも、ついさっき行方不明になったのなら、時間から考えても考えられないほどの昼食の作りかけがある」


 村人たちは何も言わない。嘘のように彼の言葉を聞いていた。


「子供が消えたと言ったな。どのように消えた?」

「や、山に入ったっきり戻ってこなくなって…」

「となると、山奥まで行って封印されてたはずの妖に近づいたか」

「なっ、なんだって?!」


 妖の存在を知らなかったのか、村人達が騒めく。

 何も伝えないで一人で守ろうとするから感謝されないんだと、翔輝は白蓮の頭を小突きたい気分になるが、それより早く家に帰して休ませないとと考え直す。


「このまま放っておけば村に被害が出るかもしれない。そうなる前に倒す必要がある。力のある男衆が欲しい。女子供や爺さん婆さんはもしもの時のために村で固まって逃げられるよう待機しておいてくれ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんで、そこまでしてくれるんだ?それに封印ってなんのことだ?」


 村人たちに指示を出すなり、自分は戻って白蓮を家に連れて帰ろうとする翔輝に、男が呼び止めた。翔輝は「わからないのか?」と問いながら、未だ地面に散らばっている杭たちを目で見やった。


「村を守るために朝晩欠かさず毎日こいつが妖に封印を施していたんだ。その努力を踏みにじるわけにはいかないだろう?」

「……そんな」

「それからその昔の話、こいつが何者であれあんたらは一度でも感謝をしたのか?」


 村人たちは押し黙る。

 まぁ、予想はしていた。どうせ白蓮の無事を喜ぶでもなく、落ちそうになった子供を身を挺してまで守ったことに対する感謝もなく、ずっと化け物と呼んでいたんだろう。


「あんたらが何を見てきたのかは知らないが、化け物だと言って突き放さずもっとこいつを見守ってやるべきだったんだ」


 そうすれば白蓮はひねくれることなく、今よりまっすぐで優しい少年になっていただろう。

 翔輝は一緒に妖退治に行く村の男たちに、「武器を多く持ってここに集合しろ」と伝えると、抱えている白蓮が負担にならないように気を付けながら来た道を白銀とともに戻った。

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