鬼の末裔
雪珠
序章
プロローグ
パチパチと木に火が燃え移る音が聞こえてくる。
あたり一面がユラユラと揺らめく赤色に覆われ、生きている者、死んでいる者問わず簡単に燃やしていく。
「だれか…!ここを開けて!」
本がたくさん保管されている中で閉じ込められたのだろう子供が、ドンドンと必死に家の戸を叩きながら助けを求める。しかし、外では逃げることに必死な人々の悲鳴や大人たちの掛け声で、たった一人の子供の声など、気づく者はいない。
「だれか……」
のどが焼けているように熱い。ゴホッゴホッと激しい咳がこみあげてくる。叫びたいのに、助けを呼びたいのに、のどの痛みのせいで声を大きく出せない。迫りくる火と、ボーッと霞んでくる自分の視界の中、恐怖を感じた。
(なんで、こうなったの?)
さっきまで、いつもと変わらない生活をしていて、村の人達も幸せそうに笑っていた。なのに、目の前に広がる光景は?声は?匂いは?
大切な皆の命の灯がどんどん消えていっているような感覚に、子供はただただこれが悪い夢であることを望んだ。この光景も、早鐘を打つ心臓の痛みも、皆の苦しみも、夢なら早く覚めてほしい、と。
パチッと火の粉が頬に飛んできて、子供は悲鳴をあげながらその粉を必死に服で払う。しかし、ぬぐった後の頬が数本の針で刺されているかのように痛い。同時にそれが決してこれが夢ではないのだということを証明しているかのようだった。
今の自分じゃどうしようもできない。自分の危機すらも抜け出せず、死が間近にまで近づいている自分じゃ、誰も助けられない。
もう火が手を伸ばせば届くほどにまで達している。息ももううまくできない。
「ッ、ととさ…、か……ま、たすけ、て……」
部屋の扉の前で体を縮こませながら子供はその大きな紅色の瞳で激しく燃える火を見て涙を流した。
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