アイ
破竹
第1話
私の母は、私を産んですぐに死んだ。
父は育児より仕事を優先したかったらしく、最新型の育児アンドロイドを買ってきた。
一番古い記憶からずっと彼女は私の側にいる。
沢山の楽しい絵本を読んでくれて、沢山の美味しい料理を作ってくれて、沢山の優しい子守唄を歌ってくれた。
あの頃の私は彼女が好きだった。
思春期を迎えた頃、私はイジメにあった。片親だからではない。機械に育てられた娘、お前の中身も機械だと蔑まれた。毎日が辛く、家に帰る度に彼女へ当たり散らしていた。
あの頃の私は彼女が嫌いだった。
大人になった私の目の前にはまだ彼女がいる。古くなったせいだろうか、動く度に金属の擦れ合う音が微かに聞こえてくる。それでも動きに淀みはなく、テキパキと洗濯物を干していく。
「それが終わったらメンテナンスにしましょう」
「・・・はい」
少し間があった?音声認識にもガタがきてるのかしら?
「私は既にメーカーのメンテナンスサービスの対象外です。本体の劣化も激しく、買い換えの時期にあると思われます。廃棄処分又は最新型の購入を検討されてはいかがでしょう」
私のメンテナンスを受けながら、彼女は唐突にそんな事を言い出した。一瞬、何を言っているのか理解出来ず私は目を瞬かせた。
「今後、更に不具合も増えるでしょう。メンテナンスの手間を考えれば買い換えが妥当であると思われます。最新型のカタログデータを・・・」
それが正しい事なのだと、彼女は繰り返す。私の目には彼女の身体に付いている小さな傷や凹みが映っていた。私のせいで付いた傷だってある。
「・・・嫌よ。捨てるとか買い換えるとかする訳ないじゃない。何度でも私が直すわ」
「それは・・・所謂、愛着というものですか?」
彼女の問いに思わず吹き出してしまった。笑う私を不思議そうに見る彼女には、ちゃんと言ってあげようと思う。
「バカ言わないで、これは愛情。それに・・・それに、親孝行させてよ。母さん」
アイ 破竹 @hachiku
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