三輪車
江坂 望秋
キコキコキコキコ……。
三月の寒空、雲は無く、今日もビルの間に、風が吹く。大通りの脇、広い歩道、私は彼と、この道を行く。
「今日は仕事休んだのかい」
「えぇ、そうよ」私は彼の側を歩いて言う。
「何でだい。今日は平日だぞ」彼は私を見上げ、呆れていた。
「いいじゃない。この頃世間じゃそう言うのは緩くなってるの」
「そうなのかい。温いね」鼻で笑うかのように答えた。あなたは働いてないものね、と心の中で呟き角を曲がる。まだまだ続く長い通りにはちらほら人影が見えはじめていた。
「ねぇ、今日はどこへ向かうの?」顔の高さまで身体を曲げて彼に聞いたが答えてくれない。こう言うときは大体当てなど無い。「私、公園に行こうと思ってるんだけど、来る?」
彼は私をちらっと見て、少ししてコクりと頷き、どこの公園か聞いてきた。
公園の鳩たちはまだ眠っているみたい。邪魔にならないようその辺りを周って、この公園のメインスポットである藩主像の下へ向かう。
あら、ここも鳩たちのベッドだったみたい。私は悩んだ。すると彼が遠く枯れ木のベンチを指差す。私はいいわね、と小さく笑いながら小走りに向かった。
枯れ木のベンチは濡れていた。朝霜の所為だわ。彼は小さなハンカチをそっと端の方に敷いた。けれども、水は染み出てくる。私は気にせず、そこにすっと座った。お尻に冷たいものを感じるけど、気にすることはない。だって、温かいものはそこにあるから。
彼は私の隣に停まった。顔を赤くしている。どうしたのとからかうように聞くと、何がと返してくる。顔が赤いわともう一度聞くと、寒い寒いと返してくる。
冬は寒い。だけど、何かと温かい。
三輪車 江坂 望秋 @higefusao_230
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