ムカつくあいつがあこがれのあの人で 〜文学少年と青春譚〜

えぎりむ

序章

Prologue  出会い

 自分にはきっと何かできるんじゃないかって、そう思う瞬間があった。

 それがなんなのか、見当も付かなかったけれど……。


   ※  ※  ※  ※


 きっかけは、何気なく開いたWeb小説のサイト。

 漫画アプリの無料分は読んでしまったし、ユーチューブの新着動画もあらかた見終わり、アプリゲームの季節イベントも完走してしまった。

 要するに暇を持て余した俺は、Web小説なるものに手を出したのだ。


 そして、“彼女”と出会った。

 ミコト――。それが彼女のペンネーム。


 もしかして女の子かな、とは初見から思った。最初はその程度の下心。

 サイトのトップに偶然見つけたURLが彼女の小説だった。評価も結構高いみたいだし、内容もハズレはないだろうと、俺はURLをクリックした。


 もともとつぶす暇がそれほどあったわけじゃあない。高校に入って勉強は難しくなったし、時間があるなら部活にでも入ればいい。

 漫画だってユーチューブだってアプリゲームだって、心から好きなわけじゃない。

 なのに、俺はいつも「暇潰し」に逃げてしまう。

 結局は何ひとつ身が入らず、くすぶっているだけなのだ。

 本気になれる何かを、俺は焦がれながら待ち望んでいた。


 そんなときにミコトと出会った俺は、“彼女”のとりこになった。


 最初の1ページを読んで、繊細な文章だなと思った。書き手の可憐な心の内が見えるようで、少し、惹かれた。

 読み進めるうちにヒロインの人物像も見えてきた。彼女は日々の些細なことに心を痛め、胸を震わせ、涙を流した。

 真剣に生きるその姿に、俺は胸を打たれた。


 俺も、こんな青春を生きたい。

 いつしかそう思うようになっていた。

 そして、物語に描かれたヒロインを通して、俺は実在するはずの作者に想いを馳せた。

 きっと、このヒロインは作者のミコト自身だ。根拠もなく、確信する。

 今どきは中高生がWebで活躍することもめずらしくない。だからきっとミコトも、小説のヒロイン同様、高校生に違いないのだ。


 どんな子なんだろう?


 会ったこともないのに、何度も思い浮かべた。

 思い浮かべるほどに、あこがれた。


 もしかしたら、初恋に似た感情だったかもしれない。


 会ってみたい。そう思うようになるまで、長い時間は掛からなかった。

 もし、ミコトがクラスメートだったらどんなに幸せだろう……。

 そんなことを願わずにいられないのだった。

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