第35話 月の恩寵


 ここは、王国内の中心部にある憩いの場。前に来たときはあんなに人が賑わっていたのに今ではもぬけの殻。ドミニデスが行方をくらましたって言ってたから、みんな無事だといいな。

 そんなことを思いながら進んでいると、


「『獅子しし炎陣えんじん』! はぁぁぁっ!」


 ザーハックさんがアクティブスキルを使用しているのが見えた。対戦相手は……ドミニデスだ!

 獅子炎陣は自分の物理攻撃力と物理防御力を一分間、10%ずつ上昇させ、火属性の威力を20上昇させる、火属性のアクティブスキルの一つ。でも、10%上がっただけでは、ドミニデスのステータスには到底及ばない。どうしよう。行くべきかな? 行ったところで邪魔になるだけだろうし……。そんな事を思っていると、ザーハックさんが鎌を振り下ろしながら、攻撃を仕掛ける。ドミニデスは軽々と避ける。


「遅い! 『ハウリングフィアー』!」


 ザーハックさんはハウリングフィアーの効果を受ける。まずい、さっき私が受けたコンボだ!

 ドミニデスは続けて、


「『毒祭どくさい』!」


「ぐっっ! ぐはっ。これは……毒か。厄介だな」


「まだまだいくぜぇ! 『傷悪しょうあく』!」


 鉤爪から、黒い影のようなものが浮かび上がり、ザーハックさんを引き裂いた。攻撃を当てたあと、ドミニデスに回復効果のエフェクトがでた。あの、アクティブスキルには、回復効果があるようだ。ザーハックさんは、膝をつく。


「くっ。聞いてた以上の強さだ。だが、面白い。暴れがいがありそうだ」


「ガッハハハ! いいぞぉ! 立て! 戦え! そして、俺に支配されろぉ! とっておきだ。一瞬だから瞬きするなよ」


 このままだとザーハックさんがやばい。私は回復アイテムを取り出し、ザーハックさんに駆け寄ろうとした。が、ドミニデスのアクティブスキルの発動の方が早かった。


「俺のとっておきのスキルだ。『盗星とうせい』!」


「!? 動きが早いだけで何も起こらないぞ。何をした?」


 ザーハックさんの疑問にドミニデスは高々と笑いながら。


「『盗星』は補助スキルだからな。ダメージはない。だが、お前のレベルを見てみろ。何か気づかないか?」


「な!? レベルが……下がっている!? レベルをダウンさせるっていうのか!?」


「レベルを下げるだけじゃない。こいつは、相手のレベルを一つ奪うスキルだ。CTが十分もあるがな。これを続ければ、いずれ俺とお前のレベル差もひらいてきて、お前はどんどん不利になる」


 あれが、さっきドミニデスが言っていた、とっておきのアクティブスキル、『盗星』。恐ろしいスキルだ。あんなのを十分に一度使えるとかおかしすぎる。本当に【恩寵】ってなんなの。

 私はザーハックさんに駆け寄った。


「ザーハックさん。大丈夫ですか? これ回復アイテムです。使って下さい。毒も回復できます。二人で戦いましょう」


「回復アイテムは助かるな。すまない、頂こう。ヒロ。お前はルナ王女の所に行ってやってくれ。様子がおかしかったから心配だ。ここは俺が時間を稼ぐ。頼んだぞ」


「分かりました。死なないで下さいね。約束ですよ」


「あぁ。約束だ」


 私はザーハックさんと約束をして、ルナちゃんがいたという場所に向かった。




「え? る、ルナちゃん……?」


 そこにいたのは、顔や服装で判断はできるのだが、見違えるほど変わったルナちゃんがそこにいた。

 一部の髪が、月のように綺麗で明るい色に変色しており、ルナちゃんの背後に、黄金の弓を持った女神のような女性が見える。ルナちゃんのスタンド能力!? 

 周りには知らない二人の男が倒れていた。ルナちゃんがやったのかな? ステータスをみてみると、『ジュラ』と『デリシャス』と書いてある。ドミニデス軍の残りの幹部的な二人だ。私はルナちゃんに声をかけながら近づく。


「ルナちゃーん! ユナちゃんとグーファーさんは? ルナちゃんにこんな力があったなんて知らなかったよ。強いんだね」


 すると、ルナちゃんはスキルを使用する。


「『月の女神の《アルテミス》裁きの・ジャッジメント


 背後にいる弓を持った女性が空中にエネルギーを貯める。

 え? これって私に攻撃を仕掛けてきてるの? 戸惑っていると、集まった光は、球体状となり光の光線が私を襲う。

 その光は、私を中心に爆発を起こす。私はその場で倒れ込んだ。ルナちゃんのステータスを確認すると、


特殊スキル

月の恩寵


① 自分のMP、物理防御力、魔法防御力を50%上昇し、HP継続回復効果を得る。

② 光属性攻撃が強力なものになる。光属性スキルの威力が2倍になり、光属性の属性ダメージを0にする。

③ 発動中のみに特殊なスキルの使用が可能になる。


 支配の恩寵の次は、月の恩寵!? ルナちゃんも恩寵を持っていたんだ。ステータスの伸びがおかしいよ……。これでみんなやられたのかな? 光属性の属性ダメージ0にするって私の、『煌めく星』が効かないってことかな? それってメタじゃん……。

 さっきのスキルで私は右足を怪我をしてしまったようだ。それにしても重い一撃だった。痛みを我慢しながら私は立ち上がる。


「ルナちゃん。私だよ! ヒロだよ! 元に戻って!」


 私の声は届いてないのか反応がない。すると後ろから、男の声が聞こえてきた。


「さっきはよくも……。さぁ、第二ラウンドといこうぜ」


 あれは、デリシャス。職業はパラディン。レベルは25。ドミニデスのあとだと、低く見える。

 もう一人の男も立ち上がる。ジュラはウィザードのレベル24。二対一だと部が悪い。ルナちゃんも恩寵で私にも攻撃を仕掛けてくるので、注意しなきゃいけない。


「『月の女神アルテミス・金矢ゴールドアロー


 黄金に光矢が二人に襲う。二人は避け、ルナちゃんに近づいていく。私はルナちゃんの前に立ち、


「『煌めく星』!」


 二人に命中する。怯みながらも、ジュラは魔法スキルを唱える。


「『ファイヤーボール』」


 『ファイヤーボール』とかこの世界で初めてみた。やっぱり使いたくなるよね。スキルレベルが高いのかかなりの威力だ。

 ルナちゃんも『月の女神の金矢』で応戦する。が、『ファイヤーボール』は矢と矢の間を通り過ぎ、ルナちゃんに直撃した。


「ルナちゃん! ごめんね。大丈夫?」


 ルナちゃんは立ち上がるも、体から光が拡散し、倒れた。髪色も元に戻っていた。私は二人に向かって、


「『煌めく星』!」


 攻撃は当たったのだが、また、『ファイヤーボール』が飛んできていた。私はルナちゃんを庇い背中に直撃した。気絶しているルナちゃんを抱え、私は安全な場所まで避難しようと考えた。しかし、足に激痛がはしり、うまく歩けないでいた。ルナちゃんに残り最後の回復アイテムを使用する。HPは回復したけど、目は覚まさない。  


「ごめんね。ルナちゃん。ルナちゃんたちは私の命に代えても必ず守るから。あーあ。デスペナルティ受けたあと、どんな顔をして、みんなに会えばいいのか分かんないよ。……それに、トワ君ごめんね。もう体がもたないや」


 背中が熱くなった。多分、ファイヤーボールが飛んできているのだろう。

 大きな爆発が起こったあと、何か懐かしい風景が浮かび上がってくる。これが走馬灯か。薄れていく意識の中、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る