第14話 過去のトラウマ


 試合終了後、僕たちはギルド会館のテーブル席にいた。僕たちの周りは盛り上がっているが、身の回りはドヨンっとした空気が流れている。


「ギルド対抗戦・模擬戦を制したのは、ギルド、『紅の炎』だぁぁぁ! 熱い戦いをありがとう!  両チームに盛大な拍手を!」


 中継しているテレビからそんなアナウンスが流れる。


 僕のせいで負けてしまった。みんなに何回も謝っているとヒロさんが。


「トワ君、気にしないでいいよぉ! 私は楽しかったよ。無理させてごめんね」


「わたくしも、後ろで見ているだけでした。反省ですわ」


「自分も周りを見れてなかったです、すみません」


 と、ルナさんとグーファーさん。僕が情けなかっただけなのに、みんなの反省会となってしまった。窓口の方から、報告を終えたザーハックさんがやってきて言った。


「俺がいて負けてしまった。すまなかったな。頭に血が上って判断力が欠けていた」


「いや、僕が守護獣を守れなかったので敗北しました。色々考えてしまって、動けませんでした」


 すると、ヒロさんが慌てた様子で、


「みんな悪かったって事で! 反省会はこれで終わり! そういえば、トワ君のトラウマって何? 何かあったの?」


「そういえば、仰っておりましたね。わたくしも気になります」


 と、ルナさん。


「分かりました。お話します。大したことではないのですが……」


  僕は自分の過去を語る。


「僕は親が厳しく、小学生の頃から、柔道やボクシングをしていました。ある日の、ボクシング大会で、対戦相手に大きな怪我を負わせてしまいました。それをきっかけに、その人は、ボクシングを辞めてしまったんです」


「それは嫌な思いをしたね。トワ君、結構強かったんだ」


 と、ヒロさん。周りの人は小学生? ボクシング? などとなっているようだ。

 ここには、スポーツとかないのかな? 僕は続ける。


「時が流れ、中学生になった僕は、フェンシング部と剣道部を掛け持ちでやっていました。

 僕が完全にトラウマになったのは、一年前に開催された剣道大会の個人戦の決勝戦でした。

 対戦相手は二大会連続チャンピオンで、今回の優勝候補でした。五分五分でしたが、最終的には僕が勝ちました」


「ほぉ。チャンピオンに勝つとはなかなかやるじゃねぇか」


「ありがとうございます。続けますね。この大会で優勝したら、三大会連続優勝の偉業を達成する瞬間だったのに、優勝したのは僕だった。

 優勝した時の僕は心の底から喜んでいました。ですが、会場の空気は最悪の空気になり大ブーイングが起こりました。物を投げられたりもしました。

 これがトラウマになり僕は、人に攻撃することや、勝つことが怖くなりました。それに、怪我をさせた相手が僕のせいで引退する事になるのが一番怖かったです。

 橘さんと剣を交えていた時に、色んな記憶が蘇ってきたり、考えてしまって怖かったんです。と、まあこんな感じです。長々とすみませんでした」


 掠れた声でヒロさんが、


「話してくれてありがとう。酷い話だね。部活、頑張ったね、偉い偉い! 無理に出てもらってごめんね」


 周りの人は完全には理解できてはいないみたいだ。部活とか学校とか言っても、この世界には存在しないから、仕方のない事なんだけど。僕とヒロさんでみんなに分かるように説明する。


 すると、グーファーさんとルナさんが僕を擁護するように。


「酷い話しですね。なんでそんなブーイングが起こったのかは自分には分かりませんが、トワさんは悪くないと思います」


「そうですよ。勝者も敗者も関係なく称えられるべきです。みなさん長い時間、訓練などやってこられたと思います。トワ様もここまで戦ったことを誇っていいと思いますよ」


「ありがとうございます。話したら気持ちが楽になりました。少しずつ変われるように努力しますね」


「まあ、なんとなくだが理解はできる。誰にでもトラウマや嫌なことくらいあるさ。大事なのはこれから自分がどうありたいかじゃないか? 坊主はどうしたいんだ?」


「僕は……正直まだはっきりと分かりません。変わらなきゃとしか」


「そうか。はっきりしないな」


「……はい、すみません」


「まあまあ、落ち着いてぇ」


 ザーハックさんの強い口調にグーファーさんが宥める。

 

 と、その時だった。ルナさんとグーファーさんのゲームパッドが鳴る。

 プレイヤーじゃなくてもゲームパッド持っているんだと思いながら……。


「ちょっと失礼しますね」


 先にグーファーさんがゲームパッドを確認する。続いてルナさんも確認する。メッセージが来たようだ。内容を見たルナさんは顔を曇らせグーファーさんは固唾を飲む。


 ヒロさんは二人を心配そうに。


「本当に大丈夫? ルナちゃんのそんな顔初めて見るから心配になるよ。何かあったら協力するから言ってね」


「ありがとうございます。大丈夫ですわ」


 ルナさんはそういうが、こころなしか声に張りがない気がする。何かあったのは間違いないだろう。


「こんなことがあったばかりですが、僕も力になれることがあれば力になりたいです。お話ください」


 グーファーさんはルナさんに耳打ちをする。ルナさんは目を瞑りゆっくり目を開け、落ち着きを取り戻したように見える。ルナさんが口を開く。


「皆さまありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きますね。あんまり大きい声では言えませんが……。実はわたくしは、ここより、北側にある王国。『アーティダル王国』の第一王女です。本名は『ルナ・アーティダル』と、申します。とある事情でウガルンダに参りました」


「ええぇ!? ルナちゃんってお姫様だったの!? 」


 と、驚くヒロさん。そんな雰囲気は感じてはいた。

 やはりそうか。

 

 それと同時にザーハックさんが立ち上がり。


「なにぃ!? アーティダル王国のお姫様だと!? 何故今まで黙っていたのですか!? しかしながら、今までの数々の無礼な振る舞い失礼いたしました!」


 ザーハックさんは、お姫様の顔を知らなかったのだろうか。防衛警備団の団長さんなら、お姫様の護衛とかもやったことがあるだろうに。

 でもなんで一国のお姫様がこの街にいるのかそれは僕も気になる。なんか、お忍びっぽいし、一筋縄ではいかない理由があるのだろう。


「黙ってて申し訳ございません。わたくしたちにも事情がございまして。では、順を追って説明しますね」


 僕たちは鳴りを潜め二人を見つめた。

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