6,2年後

#26 ヤマト皇国沖

「エセス。潜航用意、深度20」

「ベント開け、潜航準備。 指命!」

「潜航開始、緩潜航!」

「緩潜航!」


 艦内に設置されている照明灯が赤色に瞬時に変わり点灯し始めたと同時に、〈潜航中〉という機械質な声が響き渡り始めた。


 艦首から静かに海中に消え始めて、すっぽりと海中に消えたのはそれから僅か30秒後だった。


「深度20に達しました、艦長」

「ん。 パッシブ・ソナーを入れろ」

「了解、聴音開始」


 それからは息の合った連携で、更に暗い海底へと潜航して行った。


  ○○〇


 2年後、アディス級潜水戦艦は現在エウランド皇国の南に存在するヤマト皇国沖の海底に着底していた。


「水上に音文ないよ、それと・・・こっちが今朝の潮流予想図。 南から大規模な潮の流れが来そうな予感」

「そうか、分かった。 ・・・」


 艦長のノヴェラス・ディルスは腕を組んで潮流予想図を見つめ続けた後、「この軍港地帯から沖に出るとなったらこの潮流を使用するはずだ。 いや、そんな事は――」とブツブツ独り事を呟いていた。


「艦長、もしもニュー・メキシコ級が来た場合。戦力的にこちらが不利になります」

「ああ。そうだな・・・、じゃあ。機関停止で潮流移動する、エセス。 この予想図は今からどれくらいの予想だ?」

「5分後です」


 全員と目配せをした後、「仕掛けるぞ、総員。戦闘配置!」と指示を出した。


「「「「「「「「はい!」」」」」」」」


 作戦会議室から出て来た乗員たちは速やかに発令所に駆け込み、椅子に座ると計器類やディスプレイなどの電源を入れ始めた。


「――水雷長! 艦首魚雷、1番と2番に水素魚雷装填。続いて3番4番に音響魚雷準備!」


 ノヴェラスは発令所に入ると左前に座っている水雷長のノーヴァ・ミルスに鋭い指示を出した。


「1番2番、準備完了セット!」

航海長エセス。 深度12へ」

「――ッ!了解、浮上開始」


 ゆっくりと浮上して海面まで12メートルとなった時、ノヴェラスは鋭い指示を出した。


「1番発射!」

「――発射シュート!」


 ほぼ同時にヘッドホンをしていた聴音手のレヴェル・ノーラが、艦長席の方に振り向いて叫んだ。


「敵戦艦3隻の推進音、想定通りです‼」


「来やがったな、ニュー・メキシコ級戦艦。 ここが今から、お前等の墓場だ。――ノーヴァ!2番から4番、発射始め!」

「――発射スイム・アウト!」


 二酸化炭素魚雷よりも雷足が早く航跡を全く残さない水素魚雷が機雷のような役割を持ちながら突き進んでいき、その後を追うように鋭い音響を放ち敵側の聴音手の耳を妨害封鎖する能力を持つ音響魚雷が追って行く。先行していた水素魚雷は一度速力を落として後から来ていた音響魚雷を先に行かせると2本の跡を追う形になる。そして、音響が炸裂すると水素魚雷がニュー・メキシコ級戦艦の1番艦ニュー・メキシコの船体にぶつかって炸裂した。


「――水素魚雷、命中音!」

「――魔導式魚雷、装填完了! 指命!」

「右にスライドキック、そして全発射管。一斉発射フル・シュート!」


 スライドキックするために縦舵が左に効き、潮流によって艦が右に横移動する中艦首発射管から魔導式魚雷が順番に発射された。


「くたばりやがれぇ!」


 8本の魚雷が次々とニュー・メキシコとミシシッピ、アイダホの3隻の船体に刺さって行き、大爆発や航行不能になって行く様子を潜望鏡越しに見ていた。


「敵戦艦3隻、轟沈キル!」

「再度潜航。面舵一杯」

「――潜航、面舵」


 アディス級潜水戦艦がゆっくりと再び海中に潜って行く中、洋上ではヤマト皇国所属の吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪が救助活動に励んでいた。

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