#10 救助活動

 一夜明けて、エウランド皇国沖海上には洋上用司令塔フィンが大きく拉げたアディス級潜水艦の姿があり周辺には零戦の部品やフィンの部品などが散乱していた。


 辛うじて無事だった発令所でも、小規模の浸水被害だけだった。


『艦長、機関部は異常無いですが・・・潜水航行はできません』

「そうか・・・分かった、ナームス傭兵国沿岸までは浮上航行で行こうか」

『了解です』


 オクラホマ乗員を救助し終えた後で、アリゾナを撃沈した場所に着き同じく救助活動をしようとした時、特攻してきた零戦の操縦者らしき遺体が1基のボフォースの上部にあった。


「南無阿弥陀仏・・・。ご冥福を祈ると共に、勇敢な貴男に敬礼を捧げる」

 その後、丁寧に水葬すいそうした後でアリゾナの乗員たちの救助を行い始めた。


  ○○〇


 オクラホマ乗員864名とアリゾナ乗員915名を合わせて1779名の内、艦内医療室で処置できた人数は500名と35名だったが、その他の怪我人は処置困難な人だったので応急処置だけを施してあげた。死者は家族の元に帰すために艦内遺体安置所に収納し、艦内神社に供物をささげた。


 エウランド皇国に向かうアディス級潜水艦の中には、最大21室という数の居住区画がある。現在はフレッチャーの乗員たちが第2居住区画から第4居住区画を使用しているので、アリゾナ乗員たちには第5居住区画と第6居住区画、オクラホマ乗員らには第7居住区画と第8居住区画を使用してもらっている。ちなみに、第1居住区画はノヴェラス達が使用している。中にはキッチンやソファーベッド、個室シャワー、個室トイレなどが完備されている。


「ルーマス艦長、俺達・・・捕虜ですよね?」

「あ、ああ。そうだな・・・」


 捕虜に対する扱いが人権ありきのような待遇に、困惑しているのはアリゾナ艦長のルーマス・フォゼッセと乗組員達だ。


 ノヴェラスの指示で第5居住区画に来たレイクッドは、「失礼します。アリゾナの艦長という方は居ますか?艦長のノヴェラス・ディルスがお呼びしているので」と呼びかけた。


「あ、ああ。私だが・・・」


 すると挙手をして乗員の中から姿を現したのは、女子中学生の見た目をした金髪の女だった。


「初めまして、艦長ノヴェラスの実妹であり副艦長のレイクッドです」

「よろしく。統括者」

「・・・失礼ですが、何か在らぬ誤解をしているのでは?」

「ん?捕虜なンだろ、私達は」

「えーっと・・・、違いますが・・・」

「・・・へ?」


 第7居住区画に居るオクラホマの艦長も、女性だった。名前はトポス・エフォーリア、ナームス傭兵国になる前の旧ナミビア王国の公爵家らしい。


「――それでは、中にどうぞ」

「「し、失礼する!」」


 重たい防水扉を押し開けて、レイクッドが中に入り許可を取って艦長席に来てから「艦長。アリゾナとオクラホマの艦長、2名をお連れしました」と言って敬礼した。


「ようこそ、アディス級潜水艦へ。艦長のノヴェラス・ディルスです」


  ○○〇


「ようこそ、アディス級潜水艦へ。艦長のノヴェラス・ディルスです、お2人は何か在らぬ誤解をされていると聞きましたよ」


 快活かいかつに笑っていた俺は、出迎えているつもりでいたのだが2人は暗い表情だった。それはそうだ、敵に撃沈されて敵艦長に笑われているのだから暗くもなる。


「・・・コホン、さてと――要らない話はここまでとして置いといて。貴艦長らは“捕虜”ではなく“救助者”という部類に入る。これは、第2居住区画から第4居住区画にいるフレッチャーの艦長および乗員たちも該当がいとうする事だ」

「――話を遮ってすまない、フレッチャーの乗員たちだと?」

「ああ。約5日前だが、駆逐艦フレッチャーに対潜爆雷攻撃をされて――」

「じゃあ、ネルスは」

「安心してほしい、無事だ。あー・・・会わせたほうが良いな、レイ。すまんが、ネルスを呼んできてくれるか?」

「ハッ!」


 応接間に通すとコーヒーを淹れて、2人に差し出した。

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