#03 轟沈戦果

 ハッチを閉めて洋上用司令塔フィンと発令所を繋いでいる気密扉を閉めて艦内に戻ってくるとすぐに発令所に向かい、中に入った。


「ただいま」

「あ、お帰りなさいませ。艦長」


 艦長席に座ると同時に副艦長で妹のレイクッド・ディルスが声をかけて来たので、「ああ、ただいま。収穫は合わせて20金28銀4銅だ」と言うと喜んでいた。


「アッハハハ!――あ、ところで・・・皆は何処に?見当たらないのだが?」

「ああ、それだったら・・・皆さんは入浴中ですよ?」

「そうか、お風呂の日だったか」

「そうだよ~?」


 年に数回の風呂の日や寄港中の休暇が俺達、潜水艦乗りの唯一の休暇だ。


 そして、毎週の終わりの夕飯はカレーが出る。これは、いつも業務お疲れ様という意味を込めたご褒美飯だ。


「上がったよー、副艦長も――って!お、お帰りなさいませ‼」


 対水上戦闘時にはトリガーハッピーになる水雷長のノーヴァ・ミルスが布1枚という格好で発令所に入って来たが、俺を見ると驚き敬礼しようとして布がズレテ胸の桃色の輪郭が姿を見せてきた。


「・・・あ、ああ。――それと・・・、見えているから着替えてきたらどうだ?」


 平静を保ちつつこの光景が日常茶飯事だったので、まぁまだ良いが。これが、諸君らのような一般人なら真っ赤な血を鼻から出して下心丸見えの顔で気絶していた事だろう。


 ここで鼻血を出した諸君らに南無阿弥陀仏なむあみだぶつ冥福めいふくを祈る。


  ○○〇


 5分後、艦内に備わっている換気装置を動かして湯気を外に出していた。本来の役目は火災が起きた時に起動させるのだが、風呂の日にはこうして性能テストと称して起動させる。


「艦内、異常なし」

「メインタンクにバラスト水注水完了」

「全兵装、確認不備なし」

「機関部、故障等なし」

「・・・出港準備、出来ました!」

「――・・・、よし。離岸の後、航海長!両舷、第3戦速」

「――第3戦速、ヨーソロー‼」


 発令所の360度に広がる壁に強大なディスプレイが搭載されている。これらは艦内構造や被害を受けた場所の特定の他に透過映像として利用する物だ。


 なお、透過映像の送り元は上部船体に取り付けられた小型の魔導式カメラより来ている。


「最上甲板に警報鳴らせ、ベント開け。潜航開始」


 ビーッビーッと2回連続で鳴った後、非防水区画に海水が流入して行く重さで船体が沈み始めた。


 これが、潜水艦の潜航方法である。


「潜望鏡を上げろ、万が一に備えて警戒をげんに!」

「潜望鏡上がった。全艦、警戒体制に移行」


 海面に潜望鏡が上がると、ノヴェラスは接眼部に目を付けて覗き込んだ。外の映像は発令所内のディスプレイに共有されるから、たとえノヴェラスが見落としても副艦長が見落とさない使用になっている。


「・・・あ。艦長、3時方向」

「3時・・・、あ。ああ、帆船だな――ん?あの国旗は、エウランド皇国だなぁ。じゃあ、小舟の方は・・・?」


 接眼部近くにある摘みを回すと視野が細くなる代わりに詳細を見られるのだが、小舟の国旗がナームス傭兵国の物だった。


「・・・――全艦、対水上戦闘準備!」

「え?」

「レイクッド、戦闘の用意が要りそうだ」

「は、はい!コホン、全艦。戦闘準備‼」


 レイクッドの掛け声と共に、艦内全個所を灯していた白色灯が戦闘を示す赤色灯に変わった。

「ノーヴァ!艦首魚雷発射管の1番と5番に、魔導式魚雷装填!」

「――魔導式魚雷、装填完了!艦首発射管内、注水共に完了‼」

「艦首魚雷発射扉開け。――魔導式魚雷、発射始め!」

「発射!」


 勢いよく飛び出た魔導式魚雷は、逃げようとしていた小舟に突き進んでいき船底部で自爆した。


「――魚雷、命中を視認!」

「・・・よし、5番発射用意」

「5番扉開いた、いつでも!」

「指示待て、航海長。浮上しろ、艦対水上戦闘用意‼」

「浮上します!」


 潜望鏡やシュノーケル、洋上用射撃観測器が詰まった洋上用司令塔フィンが海面に現れると同時に、艦首の舳先へさきや主砲塔などがゆっくりと姿を現した。


「砲撃長、1番砲塔と2番砲塔に≪魔導信管弾VTM砲弾≫を装填しろ」

「了解。前部主砲塔に≪魔導信管弾VTM砲弾≫を装填、射撃諸元来た」

照準エイム誤差修正、プラス5度!」

「射撃諸元入力、発射用意よし!」

「ブザー鳴らせ‼」


 5回ほど甲板乗員退避のブザーが鳴った後、ノヴェラスが「撃ち方、始め」と号令を出した。


「――前部主砲、撃ち方始め!」


 轟雷ごうらいのような音が鳴り響き、艦首部にある40口径62・6センチ連装主砲塔2基4門から4発の≪魔導信管弾VTM砲弾≫が弧を描くように飛翔して行った。


 それと同時にノヴェラスは水雷長のノーヴァに「5番発射管、スタンバイ!」と指示を出した。


「ス、スタンバイ!」

「5番、発射始め‼」

「――5番発射!」


 発射された魔導式魚雷が静かに海中を突き進む中、弧を描いていた主砲弾が小舟の周囲に着水するやいなや巨大な水柱を空に上げた。


 これにより視界が悪くなった所にたった1本の魔導式魚雷が命中。そのまま、小舟は乗員を乗せたまま暗く寂しい海底へと轟沈ごうちんして行った。


「敵船、轟沈!」

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