見えるワトソン見えないホームズ
サムライ・ビジョン
悩める乙女の真由美さん
第1話 進路不明のワトソン
高校2年の3学期ともなれば進路希望調査が本格的に始まるわけで…進学とも就職とも書かずに提出した私はその放課後、職員室に呼び出された。
「この時期になったらみんな悩み出すよ?それは仕方ないにしてもさ、白紙で提出してきたのは真由美が初めてだよ」
(下の名前で呼び捨てすんなし…)
この担任のことは、2年生に上がった最初の頃からなんだか気に入らない。前髪を横にクリンと流すのはギャグのつもりだろうか?
「ご両親はなんて言ってるんだ?進学してもいいとか、できれば就職してほしいとか、そもそもそういう話はしてるのか?」
「進路の話はしてませんけど、強いて言えば私は就職派だと思います」
「お?ついにお前からそれらしい言葉が出たな!どんな仕事がしたいとかあるのか?」
「わたし霊感が強いからそれを仕事にしたいです」
霊感が強いから…これを言った瞬間に少しだけ沈黙ができたが、担任は口を開いた。
「霊感…なんだろうな、霊媒師…とか?」
「霊媒師はなんかダサいから嫌です」
…そんなこんなで担任とのやり取りを繰り返した結果、帰るのが少しだけ遅くなってしまった。ああ、夕陽が綺麗だ…
「…ん?なんだあれ?」
いつもよりオレンジ色に染まった家路についていたところ、1本の電柱に目が留まった。
そこには「迷い猫」と書かれた張り紙が。
だが、私が注目したのは猫好きだからという理由だけではない。
張り紙から糸を引くように、白い紐状のモヤが道を伝っているのだ。
幽霊を見かけることはよくあるにしても、このような光景を見るのは初めてだった。
その紐は裏路地の方へと続いているようで、「好奇心に素直に従うべき」というスタンスの私にはうってつけの着火剤だった。
「やっぱりこれが見えるんですね?」
裏路地をしばらく歩いたその先に、幽霊の男性が「胸から紐を垂らして」立っていた。紐の主は彼だったらしい。
「はい。まぁ、その紐みたいなのだけじゃなくてあなたも見えてますけどね」
「そうですか…ところであなた、進路に迷ってますよね?あなたの教室に『たまたま』お邪魔したときに、進路希望調査を白紙で出したのを『たまたま』目撃しました」
(こいつ絶対わざとだろ)
「確かに進路迷ってますけど…」
「あなたがたどってきたこの紐、実は僕の魂の一部なんです」
「魂の一部?なんでそんな命削るようなことしてるんですか。ただでさえ死んでるのに」
「ひどいこと言いますね…ぶっちゃけますとね?幽霊って良いことをすると天国に行ける確率が上がるらしいんですよ」
「はぁ…」
ぶっちゃけてくれた方がかえって信用できるというものだ。
「自分の将来に悩むあなたに、こちらの職場はピッタリかも…?と思いまして…」
「職場?」
透けていて後ろは見えているくせに全く気がつかなかったが、彼の背後には古めかしい建物があったのだ。
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