片目

蓮太郎

あらすじ・登場人物

片目

あらすじ

 さいたま市のとある公共ホールに臨時職員として勤務する割目幸太郎。

 音楽教師を目指していたが、とある事件をきっかけに、実の妹である輝美に、右目を割り箸で突き刺され義眼となる。

 彼は、隻眼による対人恐怖症で常に劣等感と不安に苛まれている。

 唯一の楽しみは、ホールで隔月に行われる埼玉フィルハーモニー交響楽団による定期演奏会だ。

 年度初めの人事異動により、本庁から古川由加里が配属されてきた。彼女もクラシックが好きだという。明るく純朴な彼女との毎日は、幸太郎の密かな楽しみとなる。


 とある日。由加里は幸太郎を「勉強会」に誘う。それは、新興宗教「(神の)真理実践会」への勧誘だった。集会参加者に受け入れられることに恐怖しつつも、(たとえそれが演技であったととしても)衆目の前で本心を曝け出す心地良さに、幸太郎は精神の開放と癒しを感じる。


 集会での伏し目がちな彼女の横顔の美しさに、幸太郎は神聖を見取り、足繁く集会に顔を出すことになる。


 幸太郎は徐々に由加里に心酔していき、それはほぼ執着といってよいほどとなる。


 ついに、新年度の真理実践発表会では、幸太郎が発表者として指名される。

自身の信仰心に疑念を抱きつつも、幸太郎は由加里への恋慕から登壇を了承する。


 横浜にある大講堂で入念にリハーサルが行われる最中、幸太郎は楽屋での由加里と教祖の話を偶然耳にする。「今後は重点的に軽度障がい者への布教を徹底する」ことと、「由加里と婚約した同僚を教祖に紹介する」といったものであった。


 由加里は幸太郎を心から心配するふりをしながら、彼女の本心もまた、幸太郎を見下し利用しようとしていたのだと悟る。


 震える足を押さえながら、幸太郎は帰路に着く。

 駅のホームから転落し、義眼が血まみれになる幸太郎。

 片目で吸い込まれるような青い空を見上げながら、幸太郎は明日の演奏会にいけるか不安になるのだった。



〇割目幸太郎

 隻眼の主人公。地方の公民館臨時職員。35歳独身。加須市割目出身。

 いつも妄想ばかりしている。音楽教師を目指していたが、両親の経済的理由により頓挫。14歳で義眼に。

 休み時間は目をつむり、左目を「スカウター」と呼び、物思いにふける毎日。

隻眼の引け目からまともに相手を見て話すことができない。

 いつも劣等感と不安に苛まれている。妹を見下し、傲慢な自分に苛立つ。


〇割目輝美

 軽度知的障害の妹。29歳。8歳のころ、幸太郎の右目を割りばしで突き刺す。

由加里の紹介で、共同作業所「ねむの樹」で衣類クリーニングの仕事に就く。

 兄である幸太郎を頼りにしつつも、元来の固執癖のため喧嘩が絶えない。

 幼少期に過ごした石川県の方言が一部抜けない。


〇古川由加里

 地方公務員32歳のバツイチ女性。公民館に派遣される。

 新興宗教「(神の)真理実践会」の2世信者。

 朗らかな長身美人。幸太郎に真理実践会への入会を勧める。


〇磯田館長

 定年間近の男性。出世コースからは外れ、やる気がない。ネットサーフィン時々、スマホゲーム中毒(女性育成ゲーム)。


〇設楽光江

 51歳独身の公民館臨時職員。ことあるごとに幸太郎に嫌味を言う。

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