終わりの始まり ③
「おかえり、カナリヤ。体調大丈夫か?」
シャリングは心配そうに尋ねた。
「さっきの夫婦はどこにいったの?」
「どこかに行っちゃったよ。だけど、ここのお医者さんだから医務室に行けば会えるんじゃないか?」
あの夫婦はどこか見たことがある。小さい頃どこかであの暖かい温もりを感じたことがある…誰だろう。どうしても思い出せない。
思い出せないと言うことは大した思い出ではないのだろう。考えないようにしよう。
「お礼言いたいから医務室行ってくる」
そう言い残し部屋を出た。アイと遭遇しないよう周りを警戒しつつ医務室へと向かった。
医務室のドアには医務室と書かれた板がかかっていた。
「失礼します」
「はい…あ、カナリヤさん…」
そこには女性の方が一人座っていた。首には名札をかけていた。名前はシシリア・マリアスと書かれていた。
「体の方は大丈夫ですか?」
「はい、お陰様で特に異常はないです」
「それはよかった。それでどうかしましたか?」
「あ、お礼を言いたくて、あと少しお話ししたかったので」
「あら、それじゃあここに座って」
椅子に腰掛けるとマリアスがお茶を注いでくれた。
「わざわざありがとうございます」
「いえいえ、ゆっくりしてってね」
「ありがとうございます。お茶注ぐのご上手ですね」
「練習しましたから、子供に注いであげたくて」
しみじみと話し始めた。
「子供とは、シシリア夫妻のですか?」
「あら、いつの間に名前を。ええ、私たちの子供よ。シシリア・ジェリアートっていうの」
「素敵な名前ですね。お子さんは今はどこにいらっしゃるんですか?」
「…わからないわ…」
わからない?どうして自分の子供の居場所がわからないのだろう。まさか、殺された…?
「私の子供は一歳の時に離れ離れになってそれ以降一度も会っていないの」
寂しそうに窓から見える景色を見ていた。
「離れ離れって…一体何があったんですか?あ、言いたくないならおっしゃらなくて結構ですので」
「…隠すことではな意から言うわよ。あなたはここの秘密を知っているのよね?」
優しい目でカナリヤを見た。この人はここのことを知っているんだ。
「はい」
「私も山に行った時にここを見つけてしまったの。私と夫はこのことを国民に話すことにした。その時ジュリは私の親友に託したの。私と夫は国民に訴えた。これ以上犠牲者を出さないためにも、自分達を犠牲にしてでも。まあそれはすぐ水の泡となったけどね。すぐに捕まったわ。そしてここに連れてこられたのよ」
悲しそうに話をする。この夫婦の子供も気の毒だ。一才で離れ離れになるなんて。親の顔もろくに覚えていないのだろう。今はどこで何をしているのだろうか。
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