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「あの、うるさいのどうにかなります?」



 高校に入学して一週間……特にやりたいこともない私は、中学時代にやっていたという理由だけで、サッカー部のマネージャーをしていた。


 私はジャグ用の水汲みを言い渡され、日々せっせとグラウンド端の蛇口に足を運んでいたのだが。


 その隣の木造建造物――道場とかいう場所から、騒音が聞こえてくる。


 ドンドンバチバチという音に合わせて、やーだのぎゃーだのという断末魔みたいな叫び声。


 それが毎日。



「……」



 イライラした。


 ので、注意することにした。



「すみませーん」



 道場の入り口に回り、中に向かって呼びかける。


 恐らく剣道とかいうスポーツだろう……私にはチャンバラごっこにしか見えないが、本人たちは至って真面目に取り組んでいるらしい、こちらに気づく気配がない。


 もう少し大声を出さないと聞こえないかと思っていたら、一番近くにいた部員らしき人が入り口までやってきた。



「誰かに用っすか? 本田先生だったらまだ来てないっすけど」



 応対してくれたのは男子生徒のようだが、面とかいうものを被っているので顔はよく見えない。


 ただ明らかに不機嫌であることは、声のトーンから察せられた。


 イラっとする。


 いや、彼にしてみれば突然の来客の所為で練習を中断することになっていい気はしないだろうけど、それを前面に押し出されると、こちらもカチンとくるのだ。


 こういうとこ、自己嫌悪。

 でも、イライラを止められない。 



「あの、うるさいのどうにかなります? 疲れてるところにこんな騒音が聞こえてきたら、不愉快なんですけど」



 私は単刀直入に言った。相変わらず可愛げも何もないなとわかってはいるが、しかしもう言ってしまったのだからしょうがない。



「……」



 男子生徒は、何を言われているのかわからないという目をして。



「……ぷっ、あははははは!」



 直後、爆笑した。



「な、何ですかいきなり」



「いや、俺たちが何やってるかわかります?」



「何って……剣道ですよね」



「それわかってるのに『うるさいのどうにかなります?』って、ギャグかと思って……くくっ……」



 私の発言がツボにはまってしまったらしく、彼の笑いは止まらない。



「あ、あの……笑ってないでなんとか……」



「市原ぁ! 何サボってんだごらぁ!」



 道場に怒号が響き渡る。



「っ! すみません! 今戻ります!」



 それを聞いて、目の前の男子生徒は駆け足で練習に戻っていった。



「……」



 そんな彼の背を見送ることはせず、私はサッカー部の待つグラウンドへと帰る。



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