第二話 クエスト発令

 あの日以降から、俺と雪姫とは度々会話するようになった。

 最初は、お人形のような見た目だったから、百面相する彼女を見るのはいつも飽きなくて、婆ちゃんに会うことが目的のついでに、彼女に会うようになっていった。

 今回は面会室じゃなく、一階のロビーで会話していた。

 

「雪姫の髪って、アルビノだからそんなに肌とか髪の色素が薄いのか?」

「それはちょっとあるけど、渇消症の人によっては色素が抜けることもあるんだよね。私がいい例かな」

「昔は髪の色が黒かったりしたのか?」

「うん、瞳の色は元々だけどね」


 雪姫は髪先をいじって眉をハの字にさせる。

 俺はわざと話題を変えて、雪姫をからかった。


「雪姫って結構頭いいよな」

「何急に」

「いや、いつも難しそうな小説読んでるし」

「ないない! 私、こう見えて馬鹿だよ? だって学校に通えたこと一度もないもん」

「……マジで?」

「大マジ!」


 闘病生活を送る彼女の方が辛いはずなのに、たはは、と頭を掻く雪姫に俺は秘めていた本音を口にしてしまった。


「いいよな雪姫は……いじめとかそういうの体験したことなさそうで」

「それって、マモルは経験したことあるって意味?」

「どうだろうな、俺は知らないけど」

「それは、今でもされてる人が濁す時に口にする言葉だよ」

「……雪姫は探偵になれるよ、さすがだな」


 いつもの馬鹿笑いする彼女の顔が真剣な面持ちに変わる。

 俺は咄嗟とっさに出てきてしまった言葉を後悔したが、思い切って告白することにした。


「……綾小路亜咲美あやのこうじあさみっていう同級生の女子にいじめられててさ、他のヤツらもみんなグルなんだよ」

「うわぁ……名前からしてお嬢様感あるね」

「……俺、雪姫しか友達いないからさ」


 うーん、と腕を組む雪姫は閃いた! と言いたげに椅子から立ち上がって俺に人差し指を向ける。


「マモル! ゲームしたことはあるよね?」

「ん? ま、まあ」

「じゃあ、私が出すクエストを一つずつクリアしたら、デートしてあげる!」

「デート、って……今は冬だから無理だろ。火傷したらどうするんだ」

「大丈夫! 完全フル武装でデートしてあげる!」


 ふふーん、と腕を組んで自信満々な顔をしている雪姫を見て、かわいいなぁと思いつつ問いかける。


「……どういうクエストなんだ」

「うん、題して! 『いじめっこ綾小路女子の証拠集めクエスト』ー! 略してぇ? クエストでーす!」


 雪姫は手を叩いて、口笛になってない口笛を吹いた。

 俺は額に手を当てて、重い溜息を漏らす。


「……無理だ、ただでさえ相手はヤクザの娘なんだぞ」

「でも、ヤクザの人でも人情ってものがあると思うな」

「なんでそんなこと言え――――」


 雪姫は俺の唇に人差し指の当てると、にっこりと笑った。


「学生でいられるの、数年だけなんだよ」

「それは、そうだけど」

「なら、後悔する人生生きるよりずっと有意義の方を選ぼうよ」

「でも……」

「それに、証拠を突き付けて裁判物にしたら勝つのはマモルの方のはずだよ。やってみよ? 逃げるばかりが、正しいわけじゃないと思う。大丈夫! フォローしてくれる人はいるはずから!」

「……わかった」


 俺はその後、家に帰って明日に備えることにした。

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