第二章〜元カレ絵日記〜

【メンヘラ妹】


……あ…


まただ…


また同じことやっちゃったよ…


…でも大丈夫。これでずっと一緒だね♪



その後、動かなくなったカミトをモデルに、私は絵を描いた。


綺麗な髪。

整った顔立ち。

細いけど筋肉のある体。

体から流れる鮮血。


私と別れて他の誰かを好きになって穢れちゃう前に、美しい『モチーフ』に生まれ変われてよかったね。

私を愛していないなら、死んでる方がずっと綺麗だよ。

カミト…大好き…愛してる…

私のことが大好きなカミトを、私は永遠に愛し続けるよ…





完成した絵は、私にとって最高傑作だった。

大きなキャンバスいっぱいに、カミトの綺麗な亡骸を思いっきり描いた。

すごいねカミト!私とカミトの共同作品だよ?!

すごいね…

何故か目から溢れてくるしょっぱい水。

なんでかな?私はこんなに嬉しいのに。

カミトが永遠に私のものになって嬉しいのに。

何故か止まらない…

涙が止まらないよ……



私はカミトの亡骸にしがみついていつまでもいつまでも泣き続けた…


数時間後、スマホの通知音で我に帰った。

お兄様からメッセージ。


『てまり!ごめん!彼女と別れて落ち込んでるんだ…(´;ω;`)肉ご馳走するから今日ウチ来てよ!』


はぁ…お兄様も失恋したのか。

全く私たち兄妹どこまで似てるのよ…


『分かった。実は私も振られちゃって……非リア同士仲良くしよ』


お兄様の家で食べるお肉はすごく美味しい。

私はあの味が大好きだ。





その後、

私はカミトの亡骸を切断し、アトリエの中にある階段から地下2階に下り、今までの元カレたちと同じように、カミトをホルマリン漬けにした。

この部屋は、私の顔認証だから、他の者は勝手に入ることができない。

お父様もお母様もお兄様も。


誰も私と彼らを引き裂けない。

私が、私のことが大好きな彼らを愛し続ける限り。


アトリエに戻った私は、カミトの血痕を綺麗に掃除した後、先程完成したカミトの絵を写真に撮り、プリントアウトして、『元カレ絵日記』に貼り付けた。

これで10ページ目だ。


『20××年 2月1日

桃山守鋭、元カレになりました。モチーフになりました。作品になりました。』


「カミト…







大好き。」


私は日記帳を金庫の中に仕舞った。



【理想の兄】


お兄様のマンションに着くと、お兄様は笑顔で私を迎えてくれた。彼女と別れたなんて言ってたけど、失恋した様子には全然見えない。


いや、というより、お兄様が失恋して落ち込んでいる様子を見たことがない。

(まあ、お兄様はイケメンでイケボでモテるから新しい彼女がすぐに出来るんだろうけどさ。)


「お兄様、今日ね、新しい作品描けたの!見て!」


お兄様との食事中、私はスマホで、先程描いたカミトとの共同作品の写真をお兄様に見せた。


「へぇー。僕、絵のことあんまり分かんないけど、前のより上手くなってると思う!」


「へへへ。ありがとう♪」


お兄様に褒められるとすごく嬉しいし、お兄様の焼いてくれたお肉は本当に美味しい。

「どうやったらこんなに美味しく焼けるの?」って聞いても、お兄様はいつも、「内緒♪」って言う。


私もいつかお兄様みたいに料理上手になりたいなぁ…


食事を終えて、お兄様は洗い物をしている。

私はテレビを観ていたんだけど、トイレに行きたくなって、部屋を出た。


お兄様のマンションは広い…

方向音痴な私は、最近やっとトイレの場所を覚えた。


しかし、トイレから出ると、また迷ってしまった。


適当に元いた部屋を探して歩いていると、入ったことのない部屋を見つけた。

鍵が開いていたので、ちょっとした好奇心で中に入ってみる。


部屋は物置部屋のような感じで、色々なものが沢山積まれていた。


「なーんだ。ただの物置か。」


がっかりした私が踵を返そうとした時、


「ひっ…ひっく…ひぃっ…」


部屋の奥から声がした。


なんだろう…?

前に住んでた人の幽霊とか?!


少し怖かったが、私は気になって、沢山の荷物を退かせながら声の方へ歩いた。


奥に行くにつれ、異臭が漂っている。

でもなぜか、私はその異臭が気にならない。


そして、一番奥の大きな荷物を退けると、そこには、鉄格子が現れた。


声は鉄格子の向こうからだ。


私は恐る恐る覗いてみる。


「ひっ…ひひ…ひひひひ……せんぱい…りょぉませんぱい…すき…ひひひひゃひゃひゃひゃひゃ…」


中にいたのは首輪と手枷と足枷をつけられた女だった。

最初、幽霊かと思ったが、あれは多分生きている。

そして、その女がいる場所の壁には、沢山の生首が飾られていた。


それらを見ただけで、私は悟った。


これらはお兄様の元カノたちなのだと。


全く、私たち兄妹はどこまで似ているのだろう。




一度好きになった人は絶対に手放さない。



「てまり。」


振り返ると、いつのまにかそこにはお兄様がいた。


「ダメじゃないか。僕の可愛い人形が驚いてしまうだろ。ほら、風呂沸いてるから先入りな。」


「はぁい。」


お兄様に促され、私は部屋を出た。


あれ?お風呂場どこだっけ?

まあいいや。適当に探そう♪



お兄様の家に来ると、悲しいこともすっかり忘れちゃう。

カミトは元カレになっちゃったけど、明日からまた探そう。




私のことが大好きな誰かを…

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