うちの全裸の王子は動物にもモテるらしい
仲仁へび(旧:離久)
第1話
うちの城の第一王子は、だいぶおかしい。
だって、全裸で城内を徘徊しているから。
普通のおかしさを簡単に超越してしまっている。
きっと生まれた時に常識を母君の体内に置いてきてしまったに違いない。
おかわいそうに。
王子様、服着てくださいよ。
色んな人が注意するけれど、王子様は「やだやだ、ぜんらがいいの!」と子供みたいにすねて、言う事をきいてくれない。
そんなわけだから、全裸の王子が徘徊するのが、このお城の日常になってしまった。
一応王子の急所には木の葉が一枚、申し訳程度にくっついているけれど、一体どういう仕組みになっているのだろう。
どんなに動いてもぜんぜん木の葉がとれるようすがないのだが。
その日、俺達兵士は第二王子と共にへびをつれた国賓を案内していた。
遠い国からはるばる来てくださったお客さんだ、丁重にもてないしたい。
第二王子は、全裸の第一王子と違って常識人だから大丈夫。
しっかりしているし、多国の学校に留学して、多くの人と交流してきた経験がある。
けれど第一王子ではそうはいかない。
そういうわけで、目に毒な王子は自室で待機してもらっていたのだが。
きっと何かやらかすんだろうな。
みんなそう思っていた。
だって、あの王子たまにおかしいし。
全裸だし。
真っ裸だし。
全裸だし(二回目)。
そう思っていたらさっそくだ。
「あぎゃぁぁぁ!」
という悲鳴が聞こえてきた。無視するわけにもいかないので、俺達は(全裸の方の)王子の部屋に踏み込む。
すると、
いつのまに国賓から離れていたのか。
へびが王子にまきついていたのだった。
へびは一体どうしたんだろう。
へびの気持ちなんてまるで分らないけれど、そのへびはなんだか王子に惚れているような様子に見えた。
ルンルンとした様子で、王子にまきつきながらダンスしている。
しかも、王子のほっぺにキスする勢いで舌をちらつかせている。
一方王子(全裸)は、今にも気絶しそうな様子で青ざめていた。
「とって、これとって! やだとって!!」
嫌です。
俺達は日ごろ困らされているうっぷんを晴らすように首をふった。
しかし国賓のペットを、きもちわるい生き物(※全裸)にいつまでも絡みつかせておくわけにはいかない。
と言うことで、三分後くらいに引きはがしにかかった。
第二王子が得意としている雷の魔法で、ちょっとしびれさせて。
ちなみにそのヘビの性別はメスらしい。
オスとしての魅力を、あれにどう感じたのだろうか。
激しく気になる所だ。
災難って、続けてやってくる事が、たまにあるよな。
なんでか知らないけど、泣き面に蜂みたいな状況になる時があるよな。
あっ、泣き面に蜂っていうのは、他の国のことわざで、まあ、意味は大体わかるだろ。
嫌な事とか、やばい事が連続してくる、みたいな意味だ。
まあ、俺達に起こってるんじゃないから、べつにいいけどな。
「あぎゃぁぁぁぁ、だれっ、か! おたすけぇ! ひぃぃぃ!」
王子(全裸)がメスに襲われていた。
普通に考えたら事案だが、日ごろ王子には困らされているので、ちょっと放置しておくことにする。
「らめぇ、王子死んじゃうぅ」
なさけない悲鳴を上げ続ける王子(全裸)。
やはり王子は、いつものように全裸だった。
そんな肌色王子に噛みつこうとしているのは、ワニだった。
この間この国にやってきた国賓の知り合いのペットだ(その人も国賓としてやってきたのだ)。
ちなみにこのワニもメスだ。
ぐわっと大口をあけるワニ。
そのまま獲物を狙うような視線を王子に向けて、じりじりと近づく。
さすがにそれ以上はまずいので、腰が抜けている全裸を救出する事にした。
ワニはその後かけつけた飼い主の手によって捕獲されたが、王子に未練があるらしく、しばらくじたばたしていた。
王子(全裸)とは片時も離れたくない、と言っているかのようだった。
「ひぃ、こないで! ワニ怖い。ワニ怖い!」
いったいこの情けない鳴き声を上げる全裸に、どれほどの魅力があるというのだろうか。
そして極めつけは、数日後。
今度は国賓の知り合いの国賓の、そのまた知り合いが連れてきたペットの鷹につつかれていた。
急所を狙われている王子(全裸)は、常に内まただ。
「ひぃっ、らめぇ。王子の王子がつぶれちゃう! つぶれた果実になっちゃう!」
そんな王子(全裸)はなんというか、もう視界にも入れたくない。
なんでこんな情けない裸体が、国のトップなんだろうか。
そう思わざるを得ない状況だ。
ちなみにこの鷹もメスだ。
その後、すぐ飼い主がやってきて荒ぶる鷹を捕まえたのだが、そのメスはずっと全裸をつつこうと暴れまわっていた。
王子は人間の女性にもモテているので、その後彼女達に心配されたり治療されたりしている。
不思議な事に、彼女達は幻滅してない様子だ。
ここで終わっておけば、情けない全裸がなさけない姿をさらしただけで終わるんだけどな。
そうはいかないのが、大変だよな。
その日の夜、事件が起きた。
国内に潜伏する過激派の犯罪組織が、国賓が泊まっている建物を占拠してしまったのだ。
この国に来ている時に、他国の人間を怪我させたり、死なせたりするわけにはいかない。
と言う事で、すぐに要人達で話し合いが行われた。
その結果は、人質の様子を気遣いつつ、犯人と会話をこなして時間稼ぎ、可能な限り情報を収集した後に特殊部隊が内部へ突入。
することになっていたのだが。
「やあ、お前達。俺はこの国の王子だ。何か俺にしたい話はあるかね?」
あの全裸がやらかしたらしい!
犯人達の元へ、単身つっこんでいった。
兵士達は、さぞかし肝を冷やした。
俺もその一人だし。
建物の外で、窓から内部を見った時、顎が外れそうになった。
もう、かなりてんやわんやの騒ぎになったな。
それで、退部にいる過激派組織の一員は、なんだこいつという目を向けて、そのあやしいろしゅつきょ、いや王子(全裸)を捉えてしまった。
そして、そんな超展開から三十分後くらい、ペットたちの協力を得た王子が、人質になっていた国賓たちを無事に解放してみせたのだから驚きだ。
なんでも懐(懐ってどこだよ全裸のくせに)に蛇を忍ばせて毒でトップを倒し、鷹で上空から奇襲、鰐でとどめを刺したとか。
国賓たちが捕まった時、彼等がとっさにペットを自由にしたのが、状況改善に大きく貢献したようだ。
だから王子はそのペットたちを見つけて、手なずけ、過激派組織の元へ突撃したというわけだ。
普段へたれなのに、やる時はやるんだよな。
この全裸。
それで、あんな一見アホそうな行動にでて、敵の虚をついたのか。
その後、全裸の王子は、他の人間にしこたま怒られた。
部下である兵士達にもだ。
あと女性達にも。
いくら良い作戦があるといっても、やっぱり国の王族を危険にさらすなんて馬鹿げている。
王子にはもう少し自分の命を大切にしてもらいたいものだ。
「この国にいるなら、他国からのお客さんだって国民と同じさ。なら俺が命をかけない道理はないじゃないか」なんて真面目な顔をしていっても、説教は終わらせませんからね。
こんなだから、ぜんらの王子でも、なんだかんだ言ってみんなが慕っているんだよな。
でもやっぱり。
「ひぃ、らめぇ。こないでぇ」
誰かの飼い犬(メス)にまとわりつかれている王子を見てため息。
普段も、もうちょっとしっかりしてくださいよ。
うちの全裸の王子は動物にもモテるらしい 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます