7.消えてゆく女子トイレ。

二〇二一年・七月――渋谷区・恵比寿駅西口に、巨大な豆腐のような公衆トイレが出現した。


「シブヤ経済新聞」によれば、暗い・汚い・臭い・怖い・危険などのイメージがある公衆トイレを「クリエーティヴ゠デザイン」の力で刷新する目的で造られたという。同様のトイレは渋谷区の九か所に既に設置されている。


『佐藤可士和さんデザイン「真っ白」な公衆トイレ、恵比寿駅西口に完成』シブヤ経済新聞

https://www.shibukei.com/headline/16005/


記事には、この公衆トイレの図面が載せられていた。それを見ると、女子トイレも男子トイレもないことが判る。五つある個室は全て男女共用だ。


確かに、越境性差トランスジェンダーにとっては使いやすいだろう。


――だが、女性は?


翌月、渋谷区の七号通り公園に現れたトイレはさらに酷かった。「シブヤ経済新聞」によれば、手を使わずともドアを開けたり水を流したりできるなどの新機能が搭載されているという。ところが、肝心の中身は、男子トイレと「誰でもトイレ」しかないのだ。


『佐藤カズーさんデザイン「手を使わない」公衆トイレ 渋谷・幡ヶ谷に完成』シブヤ経済新聞

https://www.shibukei.com/headline/16062/


言うまでもなく、トイレが男女で別れているのは女性の安全と安心を守るためだ。しかし、男子トイレと「誰でもトイレ」しかないのでは意味がない。


渋谷区の事例に先駆け、二〇一七年・十一月一日、名古屋大学に、日本初の「ジェンダー専門図書館」・ジェンダー゠リサーチ゠ライブラリが造られる。施設は二階建てだ。トイレは各階に三室ずつ、合計六室ある。うち四つが男女共用だ。扉には、性別不明の目印ピクトグラムと「女性優先」という文字が書かれている。


二〇二〇年の九月にも、国際基督教大学に「オールジェンダートイレ」が作られた。多くの学生が使う「本館」の、一階から三階までのトイレが男女共用に改築されたのだ。


「オールジェンダートイレ」の設置に携わった加藤恵津子教授は、「人権は、マジョリティがマイノリティに『認めてあげる』ものではない」と語った。


このような流れを押しとどめるべく、二〇二一年・九月――有志により「女性スペースを守る会」が立ち上げられる。


賛同者の一つに、「社民党福島総支部」を名乗るツイッターのアカウントがあった(ただし、非公式だという)。アカウントのトップには、「女性スペースを守る会」の声明を引用したツイートを固定していた。


「【非公式】だから思い切って言っちゃうけど、社民党はLGBT法案を推進していますが私は『女性スペース』は守られるべきだと考えます。

【声明より】女性トイレや女湯、休養室といった『女性スペース』は、男性スペースから隔離されることによって、女性への性暴力を防ぎ、安心と安全性を確保してきた…」

https://28283.mitemin.net/i681778/


これに対し、社民党公式アカウントが反応する。


「『社民党福島総支部』と称するアカウントから発信について、複数のご指摘を受けています。現在、当該投稿の削除を要請中です。トランスジェンダーをはじめとするLGBTQへの差別・偏見が社民党の名で拡散されたことは遺憾ですし、差別・偏見の対象とされた総てのみなさまに心からお詫びを申し上げます。」

https://twitter.com/sdpjapan/status/1464806414413484044?s=21&t=N2PwhSAF3ejoDHfvbKnkhA


何が差別であり、何の偏見が広まったというのか。


社民党はさらに連投した。


「当該投稿が引用している団体の声明は『性自認を悪用して女性に危害を加えようとする男性』から女性を守ることを理由に、トランスジェンダー(特にMtF)当事者全体を排除するものです。そこには日本に暮らすトランスジェンダー当事者が置かれている現状や課題についての丁寧な描写が欠落しています。」

https://twitter.com/sdpjapan/status/1464806415902470144?s=21&t=N2PwhSAF3ejoDHfvbKnkhA


私自身、越境性差トランスジェンダーに分類される者であるが、女子トイレなど一度も使ったことはない。部外者の社民党が「当事者」の何を理解しているのだろう。


続く投稿はさらに愚かだった。


「『女性vsトランスジェンダー』という枠組み設定は女性が安心・安全に生きられる社会の実現には寄与せず、マイノリティに対する差別・偏見を再生産するだけです。

トイレに関わる問題は、MtF当事者の女子トイレの利用の可否ではなく、トイレの在り方についての議論こそ活発に行われるべきと考えます。」

https://twitter.com/sdpjapan/status/1464806417311756292?s=21&t=N2PwhSAF3ejoDHfvbKnkhA


「例えば、フィンランドなど北欧諸国で導入が進み、日本でもICUに設置されている『オールジェンダートイレ』はコンビニなどにある個室トイレがいくつも並んでいるような外観です。総てのジェンダーに配慮したトイレのあり方として大いに参考になります。」

https://twitter.com/sdpjapan/status/1464806418737815558?s=21&t=N2PwhSAF3ejoDHfvbKnkhA


社会民主党はフェミニズムの政党のはずだ。それが、国際基督教大学の愚策を「大いに参考になる」と言うのは何事だろう。


なお、「オールジェンダートイレ」という言葉は、「男女別のトイレを廃止したトイレ」なのか、「男女別のトイレとは別に造られたトイレ」なのか分かりづらい――男子トイレ・女子トイレ・中立トイレの三つが独立しているのなら、まだ話は分かるのだが。


その中立トイレにしろ、今までの多目的トイレに「誰でもトイレ」「オールジェンダートイレ」などと表札を貼った物が多い。それについて、とあるFtM(女→男)は、「最も割りを喰らうのは多目的トイレを利用していた障碍者ではないか」と言っていた。


「知り合いのFtM(女→男)が多目的トイレから出てきたとき、外で待っていた障碍者の方から『何でここを使ってるんだ』って言われたそうです。多目的トイレが広く造られているのは、障碍者の方や、その介護をされる方のためです。多目的トイレの数も少ないのだし、越境性差トランスジェンダーが使うことで障碍者の方々が待たされてしまう。作るのであれば、男女別のトイレと、多目的トイレ、そして別の個室でしょう。」

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