5.外見で同性愛者と分かるのか?

何度も言う通り、カミングアウトしなければ同性愛者だと分からない。


ところがLGBT活動家の中には、「オカマと言われていじめられた」と言う人がいる。そうでない活動家も、口を開けば「同性愛者の子供は苛めを受けている」と言う。


一般社団法人 fair の松岡宗嗣――ゲイ――は、ツイッターで次のようにつぶやいていた。


「今日は同性愛や両性愛、トランスジェンダー嫌悪に反対する国際デー。1990年5月17日にWHOが同性愛を精神疾患から除外したことに由来。日本でも性的マイノリティの約半数がいじめ被害を経験、当事者やその周囲の人のうち約6割が職場でハラスメントを受けたり見聞きしている現状→」https://twitter.com/ssimtok/status/1394129836549939211


「コロナ禍の自殺者数は、特に女性が11か月連続で前の年を上回っているというニュースがあった。シスジェンダーヘテロセクシュアルの人々と比較して、自死未遂の割合はLGBが約6倍、Tが約10倍。性的マイノリティも同様にリスクが高まっていると予想される。(後略)」https://twitter.com/ssimtok/status/1394129837762113542


――性的少数者の半分がいじめ被害を経験、当事者やその周囲の人の六割が職場でハラスメントを見聞きし、自殺未遂の割合は同性゠両性愛者が異性愛者の六倍?


誰もが引っかかるだろう。


性的少数者は全人口の五パーセント――二十人に一人ほどだ。教室に一人か二人はいる。義務教育の九年間で、どこかで誰もが出会っていなければ可怪おかしい。しかし、「苛められている性的少数者」など見たことあるだろうか? 私はない。


大体、性的少数者でなくとも半分程度の人は学生時代に苛めを受けているのでは――という気がする。


同性゠両性愛者の自殺率が異性愛者の六倍というのも不可解だ。性的指向が違うだけで、そんなことが何で起きるのか。


東京大学名誉教授のロバート゠キャンベル――ゲイ――は、ブログで次のように言っていた。


「私は、日本社会に生きるのに、支援を必要とする意識を持って来ませんでした。でも最初から日本で日本人として生まれ、地域社会で生きようとする若者であったなら、どうだったのでしょうか。『男(女)の子らしくないぞ』と教室でいじめられ、社会に出れば愛する人の性が違うからといって就職に失敗し、いっしょに部屋を借りたり、ローンを組んで家を建てようものなら門前払いを食らってしまう人は、この国にごまんといます。」

https://robertcampbell.jp/blog/2018/08/%E3%80%8C%E3%81%93%E3%81%93%E3%81%AB%E3%81%84%E3%82%8B%E3%82%88%E3%80%8D%E3%81%A8%E8%A8%80%E3%81%88%E3%81%AA%E3%81%84%E7%A4%BE%E4%BC%9A/


なんだそりゃ――知らん。


就職の話もそうだが、「LGB」と「T」を混同しているのではないか。


当然、「LGB」と「T」では違う。越境性差トランスジェンダーならば、女性を自認する男性も多い。一方、同性゠両性愛者は心と体の性が一致している。なので、異性愛者との間に言動の差異は基本的に見られない。


そもそも、「女っぽいゲイ」って何だ?


私が出会ってきたゲイに「女っぽい」人がいただろうか――。


もう随分と過去になるが、ハッテン場で二度ほど女装家を見たことがある(それを言えば私も女装家か)。一人はボブのウィッグを被った青年だった。もう一人は太った小父おじさんで、ドレスを着ていた。「あらアンタいい男じゃなぁーい」と言って近寄って来たので逃げた記憶がある。


それ以外では、「女っぽい」人など見たことがない。


いや――ひょっとしたら、蚊の鳴くような声で「掘ってほしい」と言ったあの人は女っぽいと言えるのか(当然、断った)。あるいは、前髪がパッツンのあの人は「女っぽい」のか――どちらかと言えば、「男らしくない」の方が近いとは思うが。


そもそも、「女っぽい」とは何だろう。「女っぽいとは、ピンク色やスカートが好きなことです」と言えば、私の知るフェミニストからは嵐のような反撃がやって来るはずだ。


ただし、様々な性的少数者と「スペース」で話すようになってからは、イントネイションや言葉遣いが女性的なゲイにも、二、三人ほど出会った。彼らのしゃべり方は、声の低い「おばちゃん」に似ていた。しかも、会話しているうちに私にまでオネエ言葉が移った。


このような人に今まで私が出会わなかったのはなぜか。


第一に、様々なタイプのゲイと分け隔てなく話すことが私にはなかったからだ(事実、私はゲイバーに行ったことがない)。加えて言えば、私と会う人は、男性として男性を抱く人ばかりである。そういう人に女性的な人は少ないのかもしれない。


第二に、ここまで露骨に「女っぽい」人はそんなにいないからだろう。彼らにしろ、普段からあの話し方なのかは分からない。


同性愛者の中には、外見で性的指向を見抜く人もいる。この能力のことを英語では「gaydarゲイダー(gay+radarレーダー)」という。私も、ある女装家と「スペース」で話したとき「バイっぽい」「女の子も好きになるんだよね」と当てられた。


故・ジャック氏などは、ロバート゠キャンベル氏のことを、テレビで初めて見たときに「オネエ丸出しの仕草」「歩くカミングアウトとも言うべき物腰の柔らかさ」から「お仲間」であることがすぐ分かったという。


なので、その「オネエ丸出しの仕草」を You Tube で確認してみた。


【動画】

https://www.youtube.com/watch?v=WdBk0lyeiKI


正直なところ、「言われてみればそうかな」という程度である。私が鈍感だからかもしれないが、これを「女っぽい」とは思わない。


ただ、鈍感な私でさえも、「ゲイの顔立ち」の特徴が最近になって何となく分かってきた。色の白さと言おうか、柔和な顔立ちと言おうか――具体的にはまだ言葉にできない。


これについて研究したのがスタンフォード大学だ。


同性愛者と異性愛者の顔を重ね合わせ、それぞれの「平均顔」を作り出したのである。それを人工知能に記憶させたところ、男性は81%の確率で、女性は74%の確率で性的指向を当てることに成功した。


【挿図】https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16817330654367984959


この二択ならば私にも簡単に分かった――「この三色チーズ牛丼みたいな顔でしょ?」と。確かにこれはゲイの顔だ。


しかし、やはり「言われなければ分からない」という程度の話でしかない。ましてや、全てのゲイがこのような顔ではない。何人ものゲイに出会わなければ「ゲイダー」は獲得できないだろう。


「オカマと言われて苛められる」ことがあるのか――「スペース」でゲイたちに訊ねてみた。


すると、「そんなことはないと思うけど」「アタシなんか自分のことオカマって言い廻ってたわよ」という声が返って来た。ある女装家などは、「松岡みたいな奴はドついてやりたい」と言っていたほどだ。


「心が女性」の人にも訊いてみた。


「アタシなんかァ、中学の頃に既に女帝だったんでェ、逆らう奴はボコボコにしてましたよォ。」


最初に訊いてみた越境性別トランスセクシュアルの身体男性はそう言った。


ただし、その場に居合わせた他の二人は「ええ、まあ」「色々とありましたけど」と語尾を濁すばかりであった。


他の越境性別トランスセクシュアルたちにも訊いてみようと思ったのだが――やめた。なぜならば、アスペルガーやらADHDやらが多すぎるからだ。「彼女」たちが苛めを受けてきたことは火を見るよりも明らかである。


よく考えてみれば、小学校の頃に私も「オカマ」と呼ばれたことがあった。だが、それは「お前の母ちゃんデベソ」と同じニュアンスである。


それをつぶやいたところ、とある両性愛女性から「それなら私もあるわ。お前、男やろって言われたことが」と返信された。また、別の両性愛女性は「そんな人は別のことでも苛められるんじゃない? メガネwwとか、そんなしょーもない理由で」と言っていた。


そんなやり取りを見ていたのか、一人のゲイがこうつぶやく。


「俺は子供の頃、オカマって言われて苛められたけどな。」


意外なことだった。彼は、LGBT活動家にも批判的な、どちらかと言えば保守よりのゲイだ。そのような人から、そういう言葉が出てくることが珍しく思えた。


なので、思い切って彼にインタビューを申し込んだ。

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