3.男女の賃金格差の問題にどう向き合うべきか。

同性婚を考えるとき、男女格差の問題にぶち当たる。


レズビアンカップルが同棲した場合、年収が250万円ずつならば(合計して500万円ならば)生活には困らない。しかし、片方が病気でたおれることもある。250万円で二人が生活することは難しい。


それどころか、子育てをしている同性カップルはレズビアンのほうが多い。離婚したとき、親権は女性にゆく可能性が非常に高いのだ(加えて、養育費を払わない男性は多い)。この場合、生活はさらに厳しい。その上で、片方が病気でたおれることもある。


同性カップルで同居している場合でも生活保護は受けられる。しかし、どれだけ生活が苦しくとも需給条件を満たさない場合がほとんどだ。一方、配偶者控除や、企業からの配偶者手当があればその分だけ救われる。


同性婚について、リアルで知る同性愛者に私が訪ねて回った時、賛成派は「いいんじゃない」と他人事のような賛成をした。それは彼らが男性だからだ。つまり、女性当事者にある危機感がないのである。


しかし、様々な理由で私は同性婚に反対している。先のエピソードで取り上げた同性愛者の多くも、デメリットを考えると今は保留すると言っていた。


では、どうすればいいのか。


正確性を期すために述べれば、養子縁組制度を利用しても控除を得ることはできる。つまり、年収48万円以下の扶養家族がいる場合は、一人につき38万円から68万円の控除を得られるのだ。


ただし、結婚の場合は「配偶者特別控除」がある――配偶者の年収が48万円以上・133万円までの場合、48万円から3万円までの控除が所得に応じて得られるのだ。これは養子縁組では得られない。


しかも、養子縁組は「背に腹が変えられない」場合の選択だ。先ほども述べた通り、パートナーになりたいのであって親子になりたいわけではないと言う当事者も多い。


代替案として、同性婚の代わりにパートナーシップ制度を作り、配偶者控除と同じ「パートナー控除」を認める方法も考えられる。


ここで言う「パートナーシップ」とは、地方自治体が作るパートナーシップ条例ではない――日本国が作る「国制パートナーシップ」だ。政府くにが定めた税金を地方自治体が減らすことはできないのだから。


この場合、国制パートナーシップ制度を利用することにより、企業などの配偶者手当を受け取ることができるようにする必要もある。


先に述べた「同性婚のひな形」とは、このような制度を指すのかもしれない。


前向きポジティヴに考えれば、同性婚を認めさせるよりも、国制パートナーシップを認めさせる方がハードルは低い。


「結婚」とは戸籍に入る制度だ――つまり一族に加わる制度である。


一方でパートナーシップは、戸籍に入ることなく、二人の間に一定の権利を認める制度だ。この権利については、同性愛者と異性愛者の違いを鑑みて設定することができる。


保守の政治家たちが恐れていることは、「家族」という概念が根幹から変わることだ。つまり、その繊細センシティヴな部分を避けることにより、控除などの権利を早めに獲得する作戦もある。同性婚賛成派にとっても、同性婚が認められる下地を作った――第一の段階をクリアしたという結果が得られるかもしれない。


しかし、立ち止まって考えざるを得ない。


このような制度が出来た場合、一部のレズビアンカップルは救われる。けれども、男女の賃金格差は依然として解決されない。――シングルマザーや独身女性の貧困はどうなるのだろう? 特にシングルマザーの場合、子連れで同棲しているレズビアンカップルより生活は厳しい。


アメリカのレズビアン団体が、女性の権利を優先させるか同性愛者の権利を優先させるかで対立して次々と解散した理由はここにある。


男女の賃金格差の問題は、国制パートナーシップや同性婚が出来たとしても根本的には解決されない――それを忘れてはならない。LGBTの問題とは別の施策が必要とされているのである。


また、たとえ国制パートナーシップが出来たとしても、そこにパートナー控除が付与されなければ元も子もないことは言うまでもない。

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