7.レズビアンを取り巻く事情。
パートナーシップの利用数について、あるレズビアンはこう語った。
「まあ、そりゃ少ないでしょうね。カップルで暮らしてる人は多分レズビアンの方がゲイより少ないですよ。」
「そうなんですか?」
「そもそも、レズビアンの数が少ないですからね。出会いの場も少ないですよ――ゲイだったら、ハッテン場とか出会い掲示板とか色々ありますけど。でも、レズビアン向け出会い掲示板は男がウロチョロしてるんで。」
レズビアン向けサイトを男が荒らす話はよく聞く。
自分をレズビアンだと考えている男・レズビアンにエロい幻想を持っている男・レズビアンは男の良さを分かっていないと考えている男――そういう有象無象が
さらには、ゲイバーに比べてレズビアンバーの数も少ない。
「女性だけの賃金じゃ、夜遊びもあまり出来ませんからね。新宿二丁目に行くだけでもお金はかかります。二人で暮らすこととなってもお金はかかりますし、同棲することをそれで諦めてしまう人もいるんですよ。」
一方で、次のようにも言っていた。
「二十代の頃だと、遊びたい人が多いじゃないですか。なので、新しい人との出会いを求めて、長く付き合わない人も多いんです。その結果、三十代になったら相手がいなかった――ってパターンもありますね。」
ゲイ゠コミュニティに比べて、レズビアン゠コミュニティは小さい。
ゲイたちは、男性の資金力と性慾を推進源として出会いの場を発展させてきた。しかし、レズビアンの場合は資金力も性慾も男性に比べて少ない。
加えて、ゲイ゠コミュニティの規模は両性愛男性によって支えられている。男性の方が婚期は遅めだし、女性と付き合いつつ男性と「遊ぶ」男性も多い(「遊ぶ」は
以前にも述べた通り、子供を産みたくて男性と結婚する両性愛女性は多い。そうでなくとも、「結婚しろ」という圧力は女性に今も付きまとっている。また、女性の方が浮気をする確率は低い。つまり、コミュニティを構成する両性愛者の数が減ってしまうのだ。
株式会社LGBT総合研究所が十万人を対象に行った調査によれば、全人口のうち、レズビアンは1.70%、両性愛者は1.74%だという。どうあれ、完全なレズビアンは少数派だ。
一方、別の事情もあるのではないかとも思う。
二〇一六年――オランダのLGBT団体であるCOCが、同性カップルの離婚率を調査した(なお、オランダが同性婚を認めたのは二〇〇一年だ)。
結果、十年間で離婚した人の割合は、
レズビアン 30%
ゲイ 15%
異性愛カップル 18%
――だった。
私にとって、これはかなり意外だった――ゲイの離婚率は異性愛者より少なかったのだ。
それにしても、レズビアンの離婚率はなぜ高いのだろう。
COCは、「一度の過ちを女性は許しがたい傾向にあるためではないか」と推測していた。
言うまでもなく、「過ち」とは不倫のことだ。
しかし、「過ち」という言葉から咄嗟に私が連想したのは日常の過ちだ――些細な行き違いや相性のズレなど。当然、それ単体では破局に至らない。けれども、どちらかと言えば男性の方が気に留めない傾向にあるのではないか。
この調査結果について、知り合いのレズビアンたちにも意見を求めてみた。しかし、みな一様に「何でだろう」「分からない」と言う。「別れ易さはノンケと同じだと思うけれども」と言っていた人もいた。
「オランダと日本とではやっぱり違うんじゃないかな。」
そう言ったのは、とあるレズビアンだ。
「やっぱり、向こうの人の方が人として自立していると思うから――恋愛に溺れていないっていうか、自分の人生を大切にするっていうか。片方が生活で不利に置かれたとき、一緒にいないことを選ぶこともあるんじゃないの?」
レズビアン゠カップルの破局率について知る足がかりとなるのはレグニラスの調査結果だ。同性愛者に育てられた子供への調査では、親のパートナーが共に暮らしていた期間も調査されている。
その結果は――、
母親が女性と恋愛関係にあったと答えた人のうち、
母親と交際相手が同居していたと答えた者 91%
四か月以上同居していたと答えた者 57%
三年以上同居していたと答えた者 23%
父親が男性と恋愛関係にあったと答えた人のうち、
父親と交際相手が同居していたと答えた者 42%
四か月以上同居していたと答えた者 23%
三年以上同居していたと答えた者 2%
であった。
さらには、母親が女性と恋愛関係にあったと子供のうち、14%が里親に出されており、40%が祖父母に預けられていた。
ちなみに、親が異性愛者であった場合、里親に出されていたのは2%であり、祖父母に預けられていたのは10%であった。
また、十八歳になるまで同じパートナーと母親が一緒に住んでいた例は2%だ。
どうあれ、レズビアンついては分からないことが私には多い。しかしこれを見る限り、レズビアンの関係にも一定の不安定性が認められるのではないか。
「地方パートナーシップ」の利用率が、なぜあんなにも低いのか――理由は様々に考えられる。結局のところ「地方パートナーシップ」を利用しても何の価値もないという理由も大きいはずだ。
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