第1話
確か乙女ゲームのタイトルは『ローランド恋物語』
ローランド王族は代々――狼の能力と原種の血が濃く、他の獣人達の番よりも濃い『運命の番』がいる。
その運命の番と結ばれれば、遂になる番紋(つがいもん)が浮かぶという設定だった。王子とヒロイン結ばれた時に、手首に薔薇の花の番紋が浮かんでいた。
私が住むローランドでも、第一王子リチャード・ローランドの『運命の番』を探し始めた。国王陛下はお抱えの恋占い師を城に呼び、第一王子リチャード・ローランドと、相性の良い貴族令嬢を十二人を選んだ。
その十二人のなかに私――ミタリアも選ばれていた。先日、屋敷に届いた封書に書かれていた、王子の名前を見て、激しい頭痛の後に前世の記憶が戻ったのだ。
乙女ゲームのヒロインは兎族の平民の出で、十五歳の時に母親の再婚で男爵令嬢になり、次の年に王都の学園に入学してくる。
ヒロインが現れるまで六年か……
王子の目が届かないよう、他の婚約者候補中に紛れ込むのに六年は長い。
一度は王子と婚約解消のために、ゲームと同じような高慢な性格になろうとしたけど、初めにやってみた悪役令嬢の定番、縦巻きロールは自分に似合わなかったからやめた。
だって、私はふかふかオフトゥンと、お昼寝が一番大好きな黒猫令嬢だもの。
+
私の前世は、人に押し付けられた仕事ばかりで、眠れなかった。
勤めていた会社はブラック寄りな企業で、周りがブラック社員ばかりだった、いま思い出しても辛かった。
歳は二十二歳で名前は倉井たまき、いまの会社に勤めて三年目になる、もっさり黒髪と黒い瞳、オタク、腐女子寄りな日本人。
いつものように会社で一人、残業をしながら頭を抱えていた。
「金曜なのに帰れない……帰ってゆっくりゲームしたい、疲れたよ」
今日も定時終わりに捕まった。
『たまきさん、この書類、今日中に直して私の机の上に置いていて、お願いね、ね!』
『えっ……はい、わかりました』
『たまき先輩! 今夜、用事があるので、これもついでにお願いします!』
『……はい』
私のバカ、なんで断らないのよ……そんなの怖くて、頼まれたらノーとは言えない性格。
カチ、カチ、誰もいない会社に私一人だけ、机には散らばったチョコのゴミと終わらない書類。時計を見れば0時過ぎ――今日も終電に間に合わず。金曜のうちにアパートにも帰れず。乙女ゲームも出来ず。
――ううっ、今日もお布団で眠れない!
アパートに帰ったら、いつもソファーで寝落ちして、次の朝な日常ってがんじで、お肌はボロボロ、目の下にはクマ。
(あ、見回り人だ……まだ今週も残ってるなんて可哀想だなんて、そんな哀れな目で見ていかないで)
私だって帰れるのなら、帰りたいよ……。カチカチ、カチカチ、キーボードを無心でたたいて、書類と睨めっこしながら文字を入力した。あとは出来上がった書類を保存すれば終わる……カチ、カチ、終了。
「お、終わったぁ!」
さてと、パソコンの電源落として、近くの二十四時間営業のスーパー銭湯でひとっ風呂浴びして。コンビニで新チョコと夕飯を買って、始発まで満喫で仮眠しょう。
圧力先輩とおねだり後輩に挟まれた会社で、気が弱くて言い返せない。
それを利用して先輩、後輩は面倒な仕事を私に押し付けてくる。
仕事は嫌いじゃないけど、出来上がった書類は、横から掻っ攫っていく。
周囲の人たちは見て見ぬふり、誰も次のターゲットになりたくないのだ。
私が乙女ゲームの世界に、どうやって転生したのかはわからない。
でも一つ言えることは、地獄の様な日々からようやく解放されて、
ふかふかオフトゥンでいくらでも眠れる、なんて幸せなことなんだろう。
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