すれちがい

丸 子

第1話

あなた

わたしももうすぐそちらに行くことになりそう。

体が思うようにいかなくて。


あなたはもう生まれ変わってしまったのかしら。

九つも生があるものだから、忙しいわね。

それとも、わたしと過ごしたのは九つ目だったかしら。


わたしたちの子どもは元気よ。

すっかり大きくなってね。

でもまだまだ甘えん坊で、もう大人なのに、わたしのお腹に鼻を押しつけてくる夜があるのよ。

いくつになっても男の子は甘えん坊なのね。

娘はもう知らんふりよ。

自分ひとりで大きくなったような顔をして。

笑ってしまう。


人にもらわれていった子たちはどうしているかしら。

元気だといいけど。


ここでの生活は悪くなかった。

人は優しくしてくれたし、ご飯もお腹いっぱい貰えた。

子どもたちは健康に育ったし、何不自由ない生活を送った。

ただ、やっぱりあなたがいないのは寂しかった。


もうすぐ会えるわね。


ーーーーーーーーー


あら、人が来たわ。

大きな箱を持ってる。

あら、この匂い。

もしかして。


「みーちゃん、ほら、見てごらん。

 新しい家族を連れてきたよ。

 最近みーちゃんが元気ないからさ。

 これで元気になるかと思って。

 面倒見てあげてよ」


あらあら、赤ちゃん。

まだこんなに小さい。

生まれたばかりね。

ほら、いらっしゃい。


「あ、みて!

 みーちゃんが こねこをなめてる!」

「ほんとだね。

 やっぱりお母さんだ」

「みーちゃん、げんきになるかなあ」

「そうね。元気になるといいわね。

 落ち着かないから静かにしてあげましょう」


さあ、これできれいになった。

もう大丈夫。

それにしても困ったわね。

わたしはもう少しで長い眠りにつくのに。

仕方がない。

娘に任せるしかないわね。

きっとあの子もこの子といっしょにいれば何か目覚めるでしょう。


ここにいる間はわたしが面倒を見る。

これが最後の仕事ね。


それにしても、この子、なんでこんなにいい匂いがするのかしら。

落ち着くの。

わたしの子じゃないのに、なんでかしら。

とっても安心する。


「うーん、みーちゃん、元気ないなあ」

「ねむってばっかりだね」

「ご飯も食べてないわね」


もう起きているだけで疲れる。

食欲もない。


ただ、この子といると楽になる。

そばにいてくれるだけでいいの。


舐めてくれるの?

ありがとう。


ーーーーーーー


それにしても、この子の匂い。

あなたの匂いと同じ。

もしかして、あなた、生まれ変わったの?


「ミャオ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

すれちがい 丸 子 @mal-co

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ