十王の審判
九々理錬途
其の壱
僕は飛び降り自殺をした。
多分。ちゃんと死ねた。
最後の瞬間に痛みはあったか思い出せない。
母親は子供を産むのが趣味なのかと思うくらいに子供を産んだ。
僕は五番目の子供だった。母親は二十五歳だった。
父親は全て違うのかどうなのか、母親本人も分かっていないだろう。
母親にとって働くことというのは専業主婦になることだった。
働くと言うよりも「将来の夢」と言い換えても良いのだろうと思う。
人生の夢=専業主婦
つまりは専業主婦になる夢の為に、結婚相談所へ登録して良い物件を探し、相手をその気にさせて結婚する。他にもネット掲示板で専業主婦にさせてくれそうな男と頻繁に会う。とにかく夢は専業主婦なのだ。
そんな母親と倫理観が真っ当な男が出逢えるはずも無い。子供を身籠れば専業主婦になれるのだと信じ込んでいる母親は、何度も何度も子供を身籠った。大抵が男に逃げられ、自宅で出産、その後に救急車となる。産まれた子供は産まれて直ぐに、皆死んでしまったらしい。僕だけが何の間違いか生き残ってしまったのだ。
子供の頃の記憶は歳をとると薄れるというが、僕の場合は成長につれ、より鮮明になった。背中や手足を金槌で殴られ、風呂の水に沈められ、息をするのも許可が必要な日もあった。ただ恐怖と戦う毎日。何の為に何をしているのかすら判らない毎日だった。
ある日、小学校へ行かせないと何とか金が役所から貰えないと男に言われたとかで、僕はビニールの袋に駅で拾った鉛筆を入れたものを持たされて、小学校と書かれた建物に向かって行けと母親に怒鳴られ、初めて小学校へ行った。見るからに栄養失調、擦り切れた服、垢だらけの身体にフケだらけの髪、裸足にサンダル、おまけにビニール袋のみ持参の僕を見た小学校の教師がすぐに僕を保健室へ連れて行った。
これがとてつもない転機となって、僕は真っ当に生き延びる道が見えた訳だが。学校から親へ連絡はしたが、親は学校へは来なかった。途中で児童相談所の人が引き継ぎに来て、僕を家に帰らせる訳にはいかないと言った。
「お家にいたらさ、もしかしたら死んじゃうかもしれないから。
「
そんな感じで保護をしてもらい、途中に施設に母親が男を連れて乗り込んでくる事態が何度もあったが、僕は施設から特別学級に通って、文字の読み書きから勉強できた。高校は行かず、寮のある工場で働くことに決めて、手を振って施設から出たのだ。その頃には母親の行方は不明になっており、借家の家賃を滞納したまま男と母親が居なくなったようだと施設の先生が言っていた。
僕は僕なりに一生懸命生きて来たつもりだった、これからもそうしようと思っていた。
しかしそれが出来なくなったのは二十九歳の時。
母親にとうとう僕は見つかってしまったからだ。
◇続
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