第1章 第2話
◇ ◇ ◇
俺の名前はスティール・ワーク。
由緒正しい雑種家系のヒュージンだ。
成人した俺は子供の時からの夢である、魔術技師(マギサックラー)になった。
世界に溢れる異界の物理法則……魔法を組み合わせる技術。
魔術式(マギサークル)を自作して世に出し、人々の生活を豊かにする仕事だ。
「お前ぇっ! 同じ事を何度言わせりゃ気が済むんだ! 新しいサークルを描け! 新しいのを!」
そんな俺は今……身長の半分も無い癖に、三倍は長生きな爺さんに頭を下げている。
白髪の短髪で怒髪天を衝いて、怒鳴り散らす爺さんは俺の上司だ。
ドワーフのカスパル・ヴァッサ。
俺が勤める魔術式会社(マギサークル・カンパニー)の十人頭であり、魔術式を手書きで組んでいた時代では百人頭を務めた人物である。
「新しいもんをドンドン出して、技術を推進していくのがマギサックラーってもんだろうがっ! 一昔のサークルばっかり組みやがって、ウチのやり方が気に食わねぇなら余所に行っちまえ!」
「申し訳ありません。指示者へ相談の上で、案を出させていただきます」
「ったく、んなもん俺がやれって言ったんだから、早くやれっ!」
はい。と小さく返事をして、カスパル爺さんから離れる。
離れるとは言っても、嫌味なこの爺さんの視界から離れられる訳じゃない。
ウチの会社は全国展開している名の知れたサークル会社だが、都市部では無い田舎の支社は大会社とは思えない程小さい。
それでも大会社の威信は健在で、定期的に作業机や椅子の買い換えがある。
ピカピカな自分の机に座って溜息を吐くと、隣の席の同僚が話しかけてきた。
「あら……また怒られたの? スティ」
「見ての通りだよ。モニカさん」
俺を愛称で呼ぶ彼女は、モニカ・マクマナマン。
俺と同じヒュージンの女性で二歳年下だが、マギサックラーとしては彼女の方が上である。
俺の腕がヘボいだけと言われたら、ぐうの音も出ないが……。
「十人長も十人長よ。理由も聞かないで、貴方の仕事の文句ばぁっかり」
「まぁ理由なんて言ったら雷が落ちるからさ。気にしてないよ」
「そんなんだから、狙われるんでしょう? 私から文句を言ってあげるわっ」
「待って待って、本当に良いから」
モニカは良い子だが世話焼きな所があり、俺の情けない姿を見て世話を焼く。
だけど社会では世話を焼かれた結果、社会的地位が焼き焦げる事もあるんだから困ったものだ。
そして俺みたいなコミュ弱者は、焼き焦げる側の人間である。
「俺はマギサークルを弄ってるだけでも幸せだから、別に良いんだよ」
「もぉそれで良いなら良いわ。で、さっき言われた事どうするの?」
「言った通りだよ。指示した人に相談するさ」
「……大丈夫? 十人長、きっと怒るわよ?」
「大丈夫じゃないけど、彼が文句の言えない相手だから。クビは切られないよ」
リンリンとマナが俺の耳元で鼓動する。そうら、来た。と心の中で呟く。
この耳鳴りは生物を対象にして大気を震わし音を鳴らす……通称を通信魔法と言う。
コレを魔道具も無しに使える人間には居ない。
つまり俺に用事があるのは、非人類となる。
そして心辺りなんて、一人しか知らない。
「ワーク君。昼食の時間に所長室に来て貰いたい」
「……幾らでも。所長」
俺は蠱惑的とは違う、本能を揺さぶる声に逆らえなかった。
その本能とは、生存本能なのは間違い無いが……呼び出したのが地上の最強種。
ドラゴンには誰だって、逆らえない筈だ。
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