転生、転職、転落人生・・・異世界行って、無職になって、子供に養ってもらう。勇者の息子と聖女の娘が頼りの父親は主夫してます。

@mikami_h

序幕

主夫になった父親

さぁ、物語をはじめよう


それは子供を寝かしつけるような穏やかなお話し

冒険心をくすぐる、わくわくしたお話し

教訓を植え付ける、怖い話し


物語の中では別の時が流れ、子供は子供のまま。親は親のままでゆっくりと、永遠に時が流れる。

終わることがない物語の始まり。


さぁ、いつまでも見ていよう

このお芝居を


------------------------------------------------------


「このヒモ親父!!」


勢いよくドアを開け外へと飛び出していく青年。その姿を見送って青年の父親は物思いにふける。

ヒモ親父とは、なんとも的を得た発言だ。男は息子の発言に納得してしまう。

私、白井ゲンタは息子のコウタに養って貰っているのだ。


「もう、お兄ちゃんは開けっ放しで出ていくんだから!」


コウタが開けっ放しにしたドアを閉めながらため息をつく少女。娘のセナである。彼女は気立てもよく、優しく、そして家族想い。自慢の娘だ。


「また、私がから安心してね、お父さん。」


「すまないセナ、よろしく頼むよ」


なんとも情けない父親である。


「いつものことよ。じゃあ私も出かけてくるね。」


「あぁ、気を付けて行ってらっしゃい。」


セナを送り出し、家には一人きりとなる。


「さて、掃除から始めるかな。」


私はいま主夫である。息子と娘に養ってもらっている。

情けないがのである。

全てはこの世界に来た時に始まった。それは、さかのぼる事、半年前・・・


ボンヤリとした意識の中、かすかな雑音に目を覚ます。


「・・・・・」


「・・こえるか?」


「わしの声聞こえてる?」


目が覚めると、一面真っ白な空間、そこに不自然に建てられた真っ赤な鳥居。

夢か現か区別もつかずにボーっとする。


「おーい、無視するなよー」


そんな空間に、さっきから煩い声だけが響いている。


「あぁ、悪い悪い聞こえてるよ。この状況を整理していたんだ。」


いい加減うるさくなって声の主に話しかける。


「いったい、ここはどこで、アンタは誰なんだ?」


「おぉ気づいておったか。」


声の主は途端に上機嫌になった。見た目は老人で、白い髪と長いひげを生やしている。

白いゆったりとしたローブを着ているので、背景とマッチしていた。


「ここはいわゆるあの世というやつじゃ、ありていに言えばゲンタよ、お主は死んでしもうたという訳じゃ」


声の主は淡々と残酷な現実を告げてくる。


「なに!?俺は死んだのか・・・そんなバカな!」


突然に知らせに驚く、そしてその死因を思い出そうとするが、その記憶はポッカリと抜け落ちていた。


「じゃぁ、コウタはセナはどうなった!?俺がいなくなると誰があの子たちの世話をするんだ!」


自分の死よりも子供たちが気がかりだ。コウタもセナも、まだ学生だ、母親の居ない父子家庭で父親までいなくなっては、今後が不安で仕方なかった。そんな俺の混乱した様子をよそに、声の主は言葉を続ける、


「それは心配いらん」


俺は混乱した思考を止め、その声に耳を傾ける


「なんせ、子供たちもこっちにきておるからな」


「それは良かった。ってなるか!!一家心中かよ!?」


告げられた衝撃発言に声を荒げる。


「ちくしょう、原因はなんだ?タバコの不始末か、あのボロアパートついに屋根が崩れやがったか?」


そこでふと冷静になって考える。


「それで、お前は誰なんだ?」


「ふふ、わしは神じゃよ」


「ふーん、で神様が何の用なんだ?天国と地獄に振り分けようっていうのか?」


「なんか、あっさりしたリアクションじゃのう。そうでない、お主たちを転生させようというのじゃ」


たちってことはコウタとセナも一緒ということか。


「なんだ?また子供からやり直すのか?」


「そうではない、そのまま違う世界のキキョウという星でやり直すのじゃ」


「ふーん、名前からして地球に似てそうだな。家族で引っ越しみたいなものか、ずいぶんサービスいいんだな」


「これもというやつじゃ」


神様のくせに浮世慣れした言葉を言い出したな。


「神様も大変なんだな」


「さて、後もつかえておる。あの鳥居をくぐって行くがよい」


「ありがとな神様、それじゃあ、後から来る子供たちもよろしくな」


話をそこそこに切り上げ、右手をあげて神様に挨拶す先を急ぐことにした。すると、その背中に向けて声を掛けられた。


「そうじゃ!あの鳥居は強い想いを力とするのじゃ。通りがてら願ってみるとよい。なにか力を授けてくれるかもしれんぞ?」


俺は半信半疑で神様の言葉を聞いて鳥居へと近づく。

近くで見るとその大きさに圧巻した、近所の神社の10倍はあるんじゃないか。

これはご利益がありそうだ。


「なんだか正月を思い出すな、家族が安全・安心に暮らせますように」


手を合わせ今年二度目のお参りを入念に行う。


-------【家内安全】認識しました。--------


突然頭に響く言葉、さっきの神様の声とは違う。

声の主については今更気にせず、聞こえた【家内安全】というワードに妙に納得した。


「確かに俺にぴったりの言葉だな」


少し笑みを零しながら、俺は転生への一歩を踏み出した。


鳥居を潜ると視界が開け、鬱蒼とした森へと続いていた。いきなり眩しい光と騒がしい雑音に襲われ目と耳を閉じる。しかし、それも次第に慣れ都会にはない豊かな自然に心が癒される。


「いやー、森林浴だねー。心が癒されるわ。」


自然と口から漏れる気楽な言葉。


「親父、何呑気なこと言ってるんだよ?ここがどこかも分からずさっそく遭難しかけてるんだぞ?」


息子のコウタが、呆れた感じで返してくる。


「お兄ちゃん、お父さん、無事で良かった」


娘のセナもどこも変化はなさそうだ。


「とりあえず、二人とも無事で良かった」


俺は、感覚的には数分ぶりの家族再会を喜んだ。


「さて、これからどうしたものか?」


ガサ、ガサッ


右も左もわからぬ森の中、今後の方向性に関して悩んでいると大きな音をたて、近くの茂みから勢いよく犬が飛び出してくる。


「なんだ!?犬か?」


コウタが近寄って見てみると犬にしてはやや鋭い牙、それに角?


「気をつけて!!その角兎は気が立ってます!」


茂みの中から、中世の騎士のような鎧を身に着けた男性が出てきた。


「「いや、兎って!?」」


俺とコウタの声が被る。


そんな中、犬?(兎)は鋭い角を突き立てようとコウタに向けて突進してくる。


「お兄ちゃん危ない!」


セナが、叫ぶもコウタは角兎に体当たりされ吹き飛ばされる。


「コウタ!!」


俺も叫びながらコウタに駆け寄る。


「この犬だか、兎だか分からんバケモノが!」


コウタは角はかわしたが、角兎の突進に巻き込まれ近くの木まで吹き飛んだ。大した怪我はないようですぐに立ち上がり、そのついでに落ちてた木の棒を拾い上げる。


「もう怒った!」


-----------【唯我独尊】------------


怒りに燃えるコウタの体から赤い煙が吹き出す。


「おぉぉぉぉー」


コウタの叫び声と共に振るった木の棒は的確に角兎の頭を捉えそのまま首から上を粉砕する。


「きゃあ!!」


盛大に血を吹き出す首のない兎、その光景にたまらずセナが悲鳴をあげる。

そして、そのまま角兎は地面に倒れた。


「なんなんだこの世界は?」


俺は息子の変化と、この世界の生態系に驚きながらその場に立ち尽くした。


「すごい、」


重そうな鎧を身に纏った中世の騎士さんは、コウタの実力をその目にし感嘆の声を上げるとその場に倒れた。


「おい!大丈夫か!?」


俺は騎士に駆け寄り抱き抱えと、その手に大量の血がこびり付く。


「これは?」


よくみると騎士の左腕は千切れかけており、皮一枚で辛うじて繋がっている状態だった。


「お父さんどうしたの?」


セナも心配して駆け寄ってくる。


「これはかなりやばいかもしれない、なんとかしてやりたいが薬もないし、病院もない、連絡手段もない」


俺があたふたと慌てていると、セナが冷静に告げる。


「とりあえず、止血しないと!」


セナは騎士の傷口を確認して素早く止血を施す。

さすが看護学生、俺はその手際に感服する。そんな我が子を感心しながら見ていると、事態は急変していった。


「ダメ、時間が立ちすぎてる、とても手に負えない。」


セナの言葉に俺は呆然とする、みるみる青ざめていく兵士の顔、これが現実とは思えない。

セナが必死の思いで兵士に呼びかける。


「死んじゃダメ!!」


-----------【金蘭之契】----------


今度はセナから白い煙が立ち上がる。俺は子供たちが次々不思議な現象を起こしていくのを茫然と見守った。頭が混乱していると、騎士の腕がくっついていく。

しばらくすると、その腕は元通りとなり、騎士の顔色も回復し一命を取り留めていた。


「どうなったんだ?助かったのか?」


誰にともなく俺は確認の声をあげた。

まだ騎士は眠ったままだ、安静にしといた方がいいのだろうが、このまま危険な森にいるわけにもいかない。俺は騎士を担ぎ、とりあえずは彼が飛び出してきた方向へ歩き始めた。

子供達の変化に動揺を隠せずにいたが、父としてそんな姿を見られるわけにはいかない。

幸運なことに汗だくになった俺の背中も、今は騎士の姿で隠されていた。


「うーん、」


騎士を背負って歩いていると、やっと当人が目を覚ました。


「気づかれましたか?お加減は如何です?」


セナが心配そうに騎士に声をかける。


「ここは?あれ?腕が治ってる」


騎士は自分の腕が治っていることに驚き、まじまじとその腕を見つめる。


「何故かわかりませんが、繋げたいと願った途端にどんどん傷口が塞がってきて、いつの間にか元通りに」


セナが困惑した様子で事実を告げる。


「願いが現実に?もしや言霊?」


騎士は一人でぶつぶつと呟く。


「とりあえず、助けて頂いて感謝いたします。ところで何処に向かっておいでで?」


「何処ってなぁ、それが、道がわからんのよ」


俺は正直に現状を告げる。


「それでしたら是非我が城まで、助けていただいお礼もしたいですから」


このまま彷徨うわけにもいかないので、騎士さんのご好意に甘えることにした。



[王都バークロット]



「「「ほぉー」」」


家族三人口を開けて大きな城壁を眺めている。


「てっきり城とは名ばかりの辺鄙な場所に案内されるかと思ったが、これはこれは」


コウタが感嘆の声をあげる。彼なりに思うところがあるみたいだ。


「落ち着けコウタ、おのぼりさんと思われるぞ。」


俺は極力落ち着いた声で告げる。


「お父さんも、声裏返ってるよ。」


2人の後ろでセナがため息混じりに声をかける。


「さっ、さぁいきましょう」


そんな家族のテンションに引きつつ先を促す騎士さん。


「ところで皆さんは身分証はお持ちですか?」


「いや、持ってねぇな」


コウタが考えなしにこ答えていく。


「そうですか、失礼ですが皆さんはもしや異世界人では?」


三人は一瞬目を合わせる。


そんな様子を見て慌てて騎士さんは言葉を続ける。


「いやいや、そうだからと言って取って食う訳じゃありませんよ。命の恩人の皆様ですから、もしそうなら、ここで住みやすいように手配致しますので」


「若干1人恩人でない奴もいるがな」


コウタは何も役立ってない俺には、意地悪な目線を向けてくる。


「もう、意地悪しないのお兄ちゃん!」


コウタは笑いながら城門に近づいていく。

俺だって騎士さん担いでここまで来たんだからな。


「なんせ右も左もわからないもんで、ご厄介になってもいいですか?」


「もちろんですとも、まずは王に謁見させるのが宜しいかと」


俺は努めて丁寧にお願いする。騎士さんは快く案内してくれた。


「一国の城主にそんなに簡単に会えるものなのか?」


コウタは怪しんで聞いてきた。


「もちろん普段は会えませんよ、しかしこの国では異世界人は特別なんです」


「俺とセナみたいな力のせいか?」


コウタの答えに、騎士は黙って頷いた。


「確か言霊とか言ってましたね、何かご存知なんですか?」


セナは騎士さんに聞いてくる。


「私も詳しく知りませんので、そのためにも王に会われるのが宜しいかと」


「うーん、まぁ今のところ他にいい案もないし、騎士さん信じていいかい?」


俺は真っ直ぐ騎士さんの目を見つめる。


「はい、お任せください。」


主君に従う騎士のように真っ直ぐと、力強い声で返事を返してくれた。


「ようこそ我が王国へ、異世界人さん」


今、俺の目の前には少しお腹の出た中年が立派な椅子に腰を下ろしている。


「オイラはスミス・バークロット。この国の国王をしている」


スミスは軽く自己紹介を終え、眠そうに欠伸をした。


「失礼、国務が忙しくてね」


それにしても、無精髭でツナギ姿とは、国王と言われても信用出来ない。鍛冶屋の親父と言われた方がまだ信じられる。


「まぁ、何も分からずこの世界に来て不安だろ? まずは自分のことから調べてみるか?」


そう言って国王は側近を呼びつけると手のひらサイズの水晶玉を持ってこさせた。


「これは握った者の能力を簡易的に表すアイテムだ。自分の能力を判断し、向いている職に就くために使われている」


そう言って水晶玉をコウタに渡した。


「握って念じるだけかい? 面白そうじゃないか」


コウタはこの状況でもどこかワクワクしているみたいだ。コウタが念じると水晶玉は赤い光を発した。


「おぉ、これはすごいな。なかなかの素質だ」


国王は喜びとも驚きとも言える声を発した。


「どうやらお前さんには戦士、いや騎士並みの素質があるようだな。まぁいくら素質があっても努力しなくては一般兵と変わらないけどな」


国王は淡々と言う。コウタは水晶玉を握りしめて打ち震えていた。


「凄いなこの世界は。俺に力があれば1人でも生きていける」


コウタはひとりでに呟いていた。


「さて、次はお嬢さんだな」


国王に促され、水晶玉はコウタからセナの手に渡った。

セナも水晶玉を握りしめ念を込めた、またも水晶玉は眩く白い光を発する。


「この子もまた素晴らしい素質だ。しかも呪文の才能まであるとは」


国王は嬉し気に声を上げた。


「お父さん!聞いた聞いた?」


セナも褒められて嬉しそうである。


「セナ、才能があるからってそれに胡坐をかいてちゃダメだぞ」


俺はセナから渡された水晶玉を握りしめながら、先ほどスミスが語った言葉を拝借した。そんな自分もセナ以上にウキウキしながら手に力を込めていく、さて父親の威厳を見せてやる。


「・・・あれ?なんも起きないぞ?光もしない」


変化のない水晶玉を見つめ、静寂に耐え切れずに俺は声をあげた。


「うむ、無能じゃな」


「え?」


国王の言葉を理解できず、聞き返す俺。


「まぁ無職ということになるな。優秀な子供たちがおるし、暮らせないというこもなかろう」


まさかこの年で引退勧告とは。俺は国王の言葉に愕然とした。


そんなこんなで俺は晴れて子供たちに養われた主夫となり、現在に至るまで何とか暮らしている。


「ヒモ親父だよ!!こんな酷な話しってある?!ねぇマレット聞いてる?」


俺はバーのカウンターに突っ伏したまま、この店の主人であるマレットに話しかけた。


「ゲンさん今日も荒れてるねー」


マレットは、王都の冒険者ギルドのマスターである。と言ってもこの国では冒険者の数は少ない。

ハローワークもびっくりの水晶玉のおかげで、みんな悩みなく素質通りの職業に就くからである。

その為、日雇い労働者ともいえる冒険者の需要は少ないのだ。


「才能なんて無くても人は何でもできるんだよ!何にでもなれるんだよ」


俺は半分泣きながら愚痴をこぼす。


「うんうん、ゲンさんいいこと言うねー」


「しかし、人の素質を見抜くなんて凄い技術だな。いったいあの水晶玉はどんな仕組みなんだ?ロストテクノロジーってやつか?」


俺は、この国の暮らしぶりに合わない技術に感心してマレットに質問する。


「さぁ、詳しいことはわからんがそこまで古い技術でもないぞ」


マレットは答える。


「そうなのか、それは世紀の大発見だな」


「あぁ、この水晶が発明されてから世界はまさに変わったな。ようになったからな。ほんとに、つまらない世界になっちまったよ」


マレットは無能力とう訳ではない。彼の場合は素質とやりたいことが違ったのだ。

安定した生活を捨て、冒険者などどいう不安定な職を選んだのもそれ故だった。俺の場合は渋々だけど。


「なんだゲンタ、またここで愚痴ってるのか?」


そう言って現れたのは、この街の神官カシロフである。口が悪く、女と酒に目がないこれで神官を名乗れるんだから才能とは偉大だ。


「そんなんだから神に見放されて素質も授かれないんだぞ」


「けっ、神には愛されたからこの世界にいるんだよ」


俺はそう呟くとグラスの中身を飲み干した。


「ほら、セナちゃん達ももうすぐ帰ってくるぞ、こんなところで呑んでていいのか?」


マレットはグラスを片付けながら言ってきた。


「ヤバい、帰って夕飯作らないと!」


俺は現実に戻り、急いで勘定を済ませた。


「んじゃまた明日な、マレットご馳走さん」


「セナは帰りに串焼き買って行くって言ってたぞー」


カシロフが言ってきた。彼はこう見えてセナの務める神殿の神官長だ、セナの上司にあたる。


「おっ、俺の好物だな。んじゃさっぱりしたサラダでも作るかな」


俺はウキウキで献立を考え、家路を急いだ。


「まったく、すっかり主夫だな。」


「あぁそうだな」


店内に残された二人は誰にともなく呟いた。


「ただいま、お父さん」


家に一足早く帰り、夕飯の支度をしているとセナと共に串焼きのいい匂いが漂ってきた。


「お帰りセナ、もうすぐご飯できるぞ」


「ありがとう。お兄ちゃんは、まだ見たいね」


今朝あれだけ喧嘩をして出て行ったので、普通なら数日は帰って来ないかもしれない。しかし、俺はちゃんと三人分の食事を用意していた。


「セナ、そろそろ夕飯だ。また、連れ戻してもらえるか?」


俺はセナに、コウタのことをお腹する。


「えぇ、わかったわ」


この世界には異世界人にのみ授けられる力がある。それが言霊だ。

セナの言霊【金蘭之契】は、様々なものを繋ぎ止めることができた。

千切れた腕も、家族の絆もだ。この力のお陰でセナは聖女様と呼ばれて崇めたてられていた。


セナは転生する際、あの鳥居でみんなとずっと一緒にいることを願ったそうだ。

それがこの力に現れたと語っている。


「ただいま」


しばらくするとコウタが帰ってきた。


「お帰りコウタ、飯できてるぞ」


「あぁ、ありがとな」


セナの力のおかげで、なんとか家族揃っての夕食となった。


「お兄ちゃん今日も傷だらけね」


セナがコウタの顔を見て言ってくる。


「あぁ、団長にやられた。あいつは手加減ってものを知らないのか」


コウタはいま王国騎士団の訓練兵として働いている。素質に加え強力な言霊もあり勇者の再来とまで囁かれているそうだ。


コウタの言霊は、【唯我独尊】コウタが一人でも生きていけるだけの力を願った結果だそうだ。その力は発動すれば並ぶもののない力を得られるそうだ。単純ながら強力無比であり、まさに勇者にふさわしい力であった。


「いままで木刀振り回してるだけだったからな、正統派の技術には遠く及ばない」


コウタは学校で剣道部に入っていた、そこそこの成績を収めていたので剣の腕には自信があったのだろう。しかし、実践ともなると勝手は違うようで認識の甘さを痛感していた。


「いつかは見返してやる」


コウタは箸を握り潰しながら応えた。この根性だけはたいしたものだ。

もちろん言霊を使えるのはコウタとセナだけではない、俺も使える。使えるが使えない力だ。


俺の言霊は【家内安全】、あの時そこまで深く考えずに願った力だ。能力は家族の安心、安全を願う。願うので効果のほどはイマイチ実感できない、まさに家で待つ主夫のにぴったりの言霊だった。


セナよコウタよ家の事は任せろ、だが家計はお前達に任せた。なんとも泣けてくる話である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る