第4話

 天気のいい休日を選んで、2人でドライブデートに出かけた。

 彼女は助手席の窓から顔をのぞかせており、大自然の風をたっぷりと浴びている。


「気持ちいいかい?」

「にゃ〜」


 信号待ちのとき、隣の車のワンちゃんとにらみ合いになる、という一幕があった。

 向こうがキャンキャン吠えてくるものだから、彼女のニャンコ魂に火がついて、負けじとニャーニャー鳴き返す。


 これが犬猿の仲ならぬ犬猫の仲というやつか。

 どちらも同じご先祖様から進化した種なのに、なんで21世紀までライバル関係を引っ張っているのだろうか。


「にゃ〜にゃ〜にゃ〜にゃにゃ!」


 ふむふむ。

 犬はいつも飯のことばかり考えているから、猫の方が高貴な生き物だって?


 彼女といる時間が長くなったせいか、ニャンコ語を理解できるようになってきた今日この頃である。


「でも、君だってネット通販のキャットフード探しに夢中じゃないか。この前なんて、自分でレビューを書いていただろう。君ほどグルメな猫も珍しい」

「にゃにゃっ!」


 太ももに猫パンチを食らう。

 図星を突かれると攻撃するのは人間だった頃と変わらない。


 市営の運動公園までやってきた俺は、片腕で彼女を抱っこして、日当たりのいいスポットを探した。


 彼女は人工光ばかり浴びている。

 たまには自然の光を浴びさせないと不健康なのだ。


「にゃ〜にゃ」

「あそこがいいのか?」

「にゃ!」


 さっそくレジャーシートを広げてゴロゴロした。

 一方の彼女は芝生を駆け回って楽しそう。


 チョウチョを追いかけ回す。

 タンポポに猫パンチを食らわせる。

 ここじゃ、食物連鎖の頂点なのである。


「うにゃぁあああ⁉︎」


 特大の悲鳴が聞こえたので、びっくりした俺は彼女のところへ駆け寄った。

 何事かと思いきや、大きなバッタが数匹、いっせいにジャンプしているのを見つけた。


 バッタは黒猫の登場にビビったわけであるが、緑色の昆虫を苦手とする彼女もバッタとの出会いにビビったわけである。


 まあ、彼女の体重は以前の1/10しかない。

 バッタが以前の10倍サイズに見えちゃうわけか。


「よしよし、怖かったんだね」

「にゃ〜」


 尻尾を垂らして気落ちする彼女に、おやつチュールを食べさせてあげた。

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