明日への生き方、教えてくれませんか?

五月雨皐月

第1話

「きみ、寂しくないの?」


 東雲雫はそう僕に問いかける。


 東雲と僕、二人きりの屋上。


 東雲と出会ったのは大体一か月前のことである。時は東雲との出会いまで遡る。


 僕はある日、この旧校舎の屋上の鍵が壊れているのを発見した。腰くらいの柵とベンチしかない、有り触れた屋上。

 それ以来、暇があると僕はこの屋上に侵入し、本を読んだり、昼食を食べたり、何となく空をぼーーーっと眺めるだけである。


 しかし、そんな停止した日常にも転機が訪れる。


 その日、僕はいつものように購買で菓子パンと牛乳を買うと屋上に向かう。そしていつものように屋上の扉を開けると、そこには知らない生徒がいた。


 学校から反対側の街の景色を眺めている少女。


 何故か僕は、そんな彼女を半開きの扉からそっと魅入ってしまっていた。


「綺麗……」


 少女はそう小さく呟く。だが僕にはその言葉がはっきりと聴こえたような気がした。



 あれから数分、少女はずっと街を眺めている。ずっと眺めていて飽きないのだろうか? と思ったがそんな僕の思いとは裏腹に今も尚眺めている。


 流石の僕もご飯を食べたいので屋上に入りたい。ここまで屋上にこだわるのには理由がある。


 以前の僕ならば教室で友人とご飯を食べていた。しかし、今の僕にはそんな資格はない。

 賑やかなとこにいるなんて許されない。


 だから僕は授業以外は屋上で一人で過ごしている。


 誰とも関わらずに済むから。


 屋上以外で一人でご飯食べられる所はそうそうない。ぱっと思いついたのはトイレ……。

 だが衛生的に考えて便所飯はごめんだ。


 そう考えたら少女がいようといまいが屋上でご飯を食べるしかない。


 僕は半開きの扉をゆっくりと開ける。経年劣化の証の錆びれた音が閑静な屋上に響き渡る。


 その耳障りな音に気が付いた少女は僕の方を振り返る。手は柵に掛けたまま、半身だけを僕に向ける。お互いの目が合い、ちょっとした静寂が訪れる。


 静寂を破ったのは僕ではなく少女の一言だった。


「……こんにちわ」


 優しい声。

 どこか引き込まれるような、そんな声。


 日常にありふれた言葉。しかし僕にとってその言葉はとても懐かしいものだった。


 今思えばこのとき、僕は久方ぶりの胸の高鳴りを感じていた。


 これが東雲雫との出会いだ。

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