第19話 翼が散る

——

 「ゼァァァァア!」


 アーマードシャークルス タマシイロックは青く輝く波の刃を人間に当てないように操作して何体ものシュミレードエナジーを砕く


 「っ……どんだけいんだよ……!」


 だがシュミレードエナジーは数を減らすような様子無く人間を吸収する


 「大体7億体だってなぁ……」


 青い鎧の背後に赤い怪人が現れる


 「っ……お前がこの件の黒幕か!?」

 「計画から実行まで俺は一切関わっていない、まぁこうなる事を想定はしてたけどなぁ……でも最高にイカした光景だろ?」

 「おまっ……っ……!」


 青い鎧は笑う赤い怪人に向かって拳を放とうとするがその拳は握りしめられる事すらない


 「この……感覚……!」

 「そんな拘束具で制御した紛い物のタマシイで俺らと戦う権利があると思うなよ……?」


 赤い怪人は微かに震える青い鎧にゆっくりと近づく


 「ふっ……安心しろ今はお前を殺しに来たんじゃない、ヒューマンスレッドが待っているからスカイツリーのてっぺんに行け、じゃあな……」


 赤い怪人はそう言って身体を塵に変え風に乗って姿を消した


 「っ……今は……元凶を潰しに行く!」


 青い鎧は周囲の惨劇から目を逸らして走り出した



——

 「よぉクロウスレッド」

 「っ……!」


 片翼を鷹弐の身体にかけたクロウスレッドの目の前に赤い怪人が突然現れる

 クロウスレッドはまるで死そのものが迫るような圧に息を飲む


 「死んだ肉体を借りてるのに怖がるなよ……さて、鷹弐との接触は大分上手くいってるらしいなぁ……」


 赤い怪人は黒い翼に包まれて眠る鷹弐を見て言う


 「けど……」

 「っ……!」

 「アーマードホークリスの殺害はどうした」


 赤い怪人はクロウスレッドに顔を近付ける


 「あっ……ひ……ぅ」


 クロウスレッドは死に押し潰されそうになって上手く声を出せない


 「鷹弐と接触したせいで雛の身体と魂が同化してきたか? ……仕方ない、鷹弐を殺す」

 「っ……!」

 「ドレァァァ……!」


 赤い怪人は右拳に赤い煙を生み出してその拳を振り上げる


 「レァァァァ!」

 「待って……!」


 クロウスレッドは死の圧に勝って赤い怪人の足を掴む


 「私が……アーマードホークリスを抹殺する……!」

 「なら早く暴れてこい、もし殺せたら人間として鷹弐と暮らしたっていい」

 「……! 分かった!」


 クロウスレッドは瞳を輝かせて走り出す


 「……5分くらいしたら起こすか」


 赤い怪人は眠る鷹弐……アーマードホークリスを見て言った



——

 「信じてるからな……流牙君……!」

 「……!」


 政則はシュミレードエナジーに前に立たれターンのカウンター席に背中をかけて言った



——

 「ゼァァァァア!」


 アーマードシャークルス タマシイロックはシュミレードエナジー達を青く輝く波の刃で破壊しながらスカイツリーに向かって走る


 「少しでも……砕く……ふぅ……はぁぁ……!」


 スカイツリーの前に着いた青い鎧は1度深く息を吐き……一気に息を吸う


 「ゼァァァァアア!」


 地面を蹴り飛ばし青い閃光になって飛び立つ

 青い鎧に蹴られた地面には巨大な風穴が開く


 「ゼァァ……!」

 「やぁ流牙! よく来てくれたねぇ」


 スカイツリーの頂点に現れた青い鎧に赤い髪の青年は笑顔を向ける


 「あの大量の鎧……お前の仕業か?」

 「そうだね、僕の計画の最終段階の一つ前さ」

 「そうか……ならお前をぶっ砕く……!」


 青い鎧は青年に向かって突進しその拳を放つ


 「スレッドォ……!」


 青年は人間の怪人、ヒューマンスレッドに姿を変えて拳を放つ


 「ゼァァァァア!」

 「ヒュマァァア!」


 鎧と怪人の拳が衝突し、スカイツリーの頂上から青と赤の稲妻が放たれる


 「ゼァァッ……!」

 「ヒュマァ……」


 衝撃に鎧と怪人は吹き飛ばされる


 「お前らスレッドは一体何のために人間の命を奪っているんだ……」


 立ち上がった青い鎧は拳を構えずに問いかける


 「普通のスレッドと僕を同じにしないでくれるかな? スレッド達はアーマードの経験値みたいな物、目的なんてないよ」

 「じゃあお前の人間になるっていう目的はお前だけの目的か?」

 「もちろん!」


 怪人は両腕を大きく広げ手のような形をした頭部に開かれた目を見開く


 「だって人間は僕だけになるんだから!」



——

 「起きろ」

 「っ……な!?」


 鷹弐が目を覚ますとそこには赤い怪人がいた


 「……悪いが今の俺はスレッドとは……」

 「クロウスレッドが街中で暴れ回ってるぞ」

 「は……?」


 鷹弐はその言葉に目を見開く


 「そんな……わけ……」

 「ほら見てみろ」

 「っ……!?」


 赤い怪人の指さす方向に視線を移すとそこには空中を舞い黒い羽の矢のように放ってビルを破壊するクロウスレッドの姿があった


 「さぁ行けアーマードホークリス」

 「……お前は誰なんだ」


 鷹弐は暴れる黒い翼から目を逸らさずに聞く


 「アーマードホークリス、その力の根源だ」


 赤い怪人はどこか懐かしむように言った



——

 「人間が……お前だけ……?」

 「そう、僕は全ての人間を吸収して完全な人間になるんだ」


 怪人は目を輝かせる


 「そしてまずは現在の人間と一体化する」

 「現在の……?」

 「もう現在の地球にいる人間は全員シュミレードエナジーの中にいるからね……さぁ……見てなよ流牙! 僕が人間になる瞬間を!」


 世界各地で暴れていたシュミレードエナジーは動きを止め、日本、スカイツリーの頂点の方向を向く


 「集まれ……!」


 全てのシュミレードエナジーが一斉に破裂、液体となってスカイツリーの頂点に向かい集まっていく


 「なんだ……こいつ……!?」


 集まった液体は黄金から赤に色を変え、そして巨大な人間の形になる


 「シャークルスみたいなものかなぁ……」

 「……っまさか!?」


 輝く赤い巨大な人間の意味に気が付いた青い鎧は驚愕し鎧の中で微かに震える


 「さぁ行くよ!」


 ヒューマンスレッドは右手の人差し指を伸ばして右腕を掲げる

 背後の巨大な人間は両腕を大きく広げる

 スカイツリーを中心に赤い稲妻が地球を包むように渦巻き、その稲妻が轟かせる音はリズムを刻む


 「アーマード!」


 ヒューマンスレッドが宣言した瞬間、巨大な人間は頭部からヒューマンスレッドへと飛び込み、そして赤い液体の塊になり段々と量を減らしていく


 「僕は人間の鎧……」


 赤い液体は消え去り、そこには大きく開かれた人間の口のような目を持つ鎧が立っていた


 「アーマードヒューマン……!」


 人間の鎧、アーマードヒューマンは親指を立て……


 「僕という人間が……君を絶滅させる!」


 その手を反転させた



——

 「クロァァァァァ!」


 クロウスレッドは黒い羽を発射しビルや停止した車を破壊する


 「クロッ……来たか……!」

 「……」


 黒い翼を広げる怪人の8つの翼を展開させた鎧が現れる


 「私の翼で……鎧を抹殺する!」

 「グレッ……ァァア!」


 怪人は右腕に右翼を巻き付け槍状に変形させ鎧に向かって放つ

 鎧は槍の先端を両手で抑え、回転させて威力を抑え弾き飛ばす


 「っ……クロロロロロァァア!」

 「グレァァァァァァア……!」


 怪人は掴まれた槍を引き、そしてまた放つのを何度も繰り返す

 鎧はその槍の柄にあたる部分を左右の前腕で弾くが反撃はしない


 「クロァァ!」

 「っ……!?」


 怪人は槍を引き、そして放たずに右脚で鎧の頭部を叩き落とす


 「私が……守る……その為に!」


 怪人は黒い翼を大きく広げ、両足を合わせる


 「クロウキック……!」


 翼を前方に折りたたみ、そして一気に広げ鎧に向かい突進する


 「クロァァァァァァ!」

 「がっ……ぁあぁぁぁぁあ!」


 怪人の両足が鎧の胸部分に衝突し、吹き飛ばす


 「ぐれがぁ……!」


 鎧は民家とぶつかりその勢いで民家を木っ端微塵に砕く


 「……れ……は……」


 鎧の視界に映る怪人の姿はぶれて蜃気楼のようにいくつも重なって見える


 「おわ……っ……!」


 鎧の視界の端にヒーローのソフビのが映る


 「……」


 鎧はソフビを見つめる


 「俺……は……俺は……!」


 鎧の、アーマードホークリスから少しの赤い光の粒子が発生した



——

 「日本刀……! ワクワクするよ……!」


 人間の鎧は赤い液体から銀色の刃を輝かせる刀を生み出し青い鎧に向かって構える


 「ゼァァァ……!」


 青い鎧はその刀に対抗するように両腕の鰭を伸ばして構える


 「ヒュマァァ……」

 「ゼァ……」


 鎧は睨み合い、刃に力を込める……そして


 「ヒュマァァァア!」

 「ゼァァァァァア!」


 互いに向かって飛びかかる

 人間の鎧は刀を振り下ろす

 青い鎧は2つの刃で刀を切断しようとする……が


 「ゼァ!? ぜッ……ぁぁぁぁあ!」


 鰭は簡単に切り落とされ人間の鎧の刀は青い鎧の左肩を切り飛ばす


 「るがぁぁっがっ……!」

 「変身前で互角なんだ、アーマードになったら僕が負けるわけないじゃん」

 「っ……!」


 青い鎧は右肩を生やし、端まで後退する


 「さて、日本刀の切れ味も体験出来たし次は……オリジナルで行ってみよう!」


 人間の鎧は新しい玩具を買ってもらう子供のように楽しげに言う


 「確かヒーローの武器って色んな能力を持ってて陽気な歌を歌うんだよね流牙?」

 「そうなのか……?」


 青い鎧は少しでも時間を稼ぐために返答する


 「うんそうだよ……出来た!」


 人間の鎧は赤い刀身に9つのボタンが付いた鍔を持つ剣を生み出して掲げる


 「ヒューマレッドケン!」

 「9つのボタン……」

 「スレッドの能力を使える剣だよ!」

 「っ……!」


 青い鎧はその説明に息を飲む


 「さぁさぁ行くよ!」

 『カメレオン! スケスケスケルトン!』

 「ゼァァア!」


 人間の鎧が右から2番目のボタンを押すと鎧は姿を周囲と同化させて消す

 青い鎧は咄嗟にスカイツリーの頂上のふちを蹴って逃げ出す


 「あれは確実にまずい……! 何か作戦を……」

 『スパイダー! ファーストスレッドのスレッドビュビュビュビューーン!』

 「っ……ぐるぁぁぁあ!」


 突然遠くから白い糸が現れ青い鎧の右足を捕まえ、振り回してから投げ飛ばす


 「ゼッッッ……ァァァァ!」


 青い鎧は高速道路に着地した


 『カマキリ! カマキリのカマがキリ刻む!』

 「ゼァィア!」


 姿を現した人間の鎧は人間の剣をカマキリスレッドの能力で鎌状に変形させ青い鎧目掛けて振り下ろす

 気配を感じ取った青い鎧は反射的に跳び、鎌は道路に突き刺さる


 「まだだよ!」

 『ムカデ! センセンセンチピグネグネダ だ!』

 「つ……!」


 剣は刀身をムカデのように暴れさせ先端から飛び出させ青い鎧に巻き付ける


 「さぁさぁ必殺技と行こうか!」

 「ぜぁっ……!」


 人間の鎧が人間の剣の中央のボタンを押すと刀身は戻って青い鎧を離し、赤く輝き出す


 『アーマードヒューマン! アーマーアマアマヒューマン! 振り下ろす人間砕き潰せアーマード!』

 「っ……!」


 剣を振り上げる人間の鎧の背後には巨大な剣を持ち、振り上げた巨大な人間が立っていた


 『ヒューマン……デッドスラッシュ!』

 「ヒュマァァァァァァァァァァァァァア!」


 人間の鎧と巨大な人間は共に剣を振り下ろし、巨大な剣が青い鎧に迫る


 「ゼァァァァァッ……」

 「あっ!」


 人間の鎧と巨大な人間は突然動きを止める


 「どうした……?」

 「翼が散った……」


 巨大な人間は消え去る


 「じゃあね流牙僕は行くから!」

 「待っ……るがっ……!」


 青い鎧は立ち去ろうとする人間の鎧を追いかけようとするが突然体内で自分以外が生み出したエネルギーが暴れだし意識を失う


 「エルードが回収するまで寝ていなさい」


 黒いアーマードシャークルスは路地裏から倒れた流牙の姿を見て言った



——

 「クロァァ……!」


 クロウスレッドは地上に降り立ちアーマードホークリスが落下した地点を見つめる


 「死んだか……? いやアーマードの生命力ならまだ生きてっ……!?」

 「グレァァァァァァァァァァァア!」


 突然瓦礫の中から赤く輝く鎧……アーマードホークリス タマシイが光速を超えてクロウスレッドに向かって飛び立つ


 「っ……!」


 クロウスレッドは理解する

 自分が死ぬということを

 目の前から迫る鷹の……いや死の鎧が自分に到達した時、自分は死に絶える……


 『嫌だ……』


 怪人には分からない、この感情は自分の物か、それとも雛の魂の物かは分からない……だけど……


 『離れたくない』

 「死にたくない」


 たとえそれが……


 『ずっと一緒にいたい』

 「消えたくない」


 どちらの物だったとしても……!


 『鷹弐を守りたい……!」

 「あがっ……!?」


 クロウスレッドの腕はアーマードホークリス タマシイの胸を貫き、心臓を掴んでいた


 「クロァァァァァァァア!」


 クロウスレッドは叫び、心臓を握り潰す

 破裂した心臓は赤い血を吹き出し輝きを失ったアーマードホークリスとクロウスレッドを赤く染める


 「っ……はぁ……はっ……!」


 クロウスレッドはアーマードホークリスから腕を引き抜き顔を上げ空を見つめる


 「クロァァァァァァァァァァ!」


 勝利の雄叫びを上げた


 「これで……おう……じっ……」


 クロウスレッドがアーマードホークリスの死体を見ようと下を向くとそこには胸に風穴を開けた鷹弐の死体があった


 「は……っ……」

 「っし、タマシイ化したアーマードの脳みそゲット〜」


 怪人と死体の前に現れたアーマードヒューマンは鷹弐の頭を引きちぎって持ち上げる


 「待って……鷹弐……」

 「悪いけど君は用済みなんだ、殺しはしないけど邪魔をしないでほしいっ……な!」

 「っ……!?」


 アーマードヒューマンは左手を振り空気を押し出して怪人を吹き飛ばす

 怪人はビルの瓦礫の中に落ちる


 「さぁて……後は鮫牙 流牙、君がタマシイ化するだけだ……!」

 「……おう……じ……は……はは……」


 怪人は持ち去られる鷹弐の頭に手を伸ばすが届くこと無く怪人は意識を失った



——

 「……おー起きた、大丈夫か?」

 「霊代……」


 流牙が目を覚ますとそこには霊代がいた


 「晩飯作って置いたから、帰ろうか」

 「あぁ……」


 霊代は背を向け歩き出す


 「……!」

 「っ!」


 霊代は背後から自分の頭部に迫る流牙の拳を掴む


 「お前は何者だ……!」

 「霊代だよ」

 「違う……あいつは全ての人間を吸収した……霊代がここにいるはずがない!」


 流牙は声を荒らげる


 「……私は霊代、霊代が人間じゃないから吸収されなかった、それだけだよ流牙」

 「は……?」

 「私は……」


 霊代は流牙の拳を離して青い怪人に姿を変える


 「命の神、エルード」

 「っ……!」


 その姿に流牙の身体は震え出す


 「ヒューマンスレッドを倒したら戦おう……流牙、いや……」


 エルードは両腕を大きく広げる


 「アーマードシャークルス!」


 そして身体を青い液体に変え姿を消した


 「……」


 流牙はただ立ち尽くす


 「霊……代……」

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