第18話 暴れるムカデ、救いたい人間……動き出したヒューマンスレッド

——

 「ただいっ……客!?」

 「怪人の調査依頼の方のね」

 「なんだ……」


 ターンに戻った流牙は席に見た事の無い人間が座っているのを見て驚き目を見開くが霊代の言葉に肩を落とす


 「普通のカフェとしてのお客さんより怪人調査のお客さんの方が珍しいと思うんだけどなぁ……」

 「まぁ……そうだな……っとそうだ霊代珈琲……」

 「なぁ……依頼の内容を話してもいいか?」


 15歳位の少年は首を掻いてそう言う


 「まだ言ってなかったのか……」

 「言おうとしたけどえーと、霊代さんがずっと怪人と鎧の事を話して……」

 「依頼内容を言えなかった……おい」


 流牙は視線を少年から霊代に移し睨み付ける


 「私に何か言う暇があったら依頼を聞くべきだと思う」

 

 霊代は悪びれる様子もなく真顔で言う


 「……どうぞ」

 「はぁ……昨日の昼辺りに山に虫を捕まえに行って……立ち入り禁止の看板無視して……そしたら……」


 少年の手は微かに震える


 「デカいムカデが出てきた」

 「ムカデ……」

 「全力で逃げたけど……あれがいるって思うと……!」


 少年の震えはどんどんと大きくなっていく


 「……怖かったな……ここで待っててくれ」


 流牙は少年の肩に手を置いて立ち上がる


 「霊代も来てくれ」

 「珍しくまともなヒーローみたいな雰囲気だね……行こうか!」


 流牙と霊代はターンから出ていく


 「っし……!」


 少年は2人が出ていったのを見ると小さく笑みを浮かべて立ち上がった


——

 「……」

 

 鷹弐は橋の下で雛の写真を眺めていた


 「優しさでも……嘘は嘘、結局は破滅に繋がる……そして俺はその後何もしなかった」


 その後少年は保護されたが連れて行かれる最中もアーマードシャークルスに対して怒りを叫んでいた……

 アーマードシャークルスは腕を振って空気を振動させ銃口を向け自分を包囲する人間達を気絶させて少年の前に立ち


 『俺が君の母を殺した』


 わざと少年の憎しみを増大させるようにそう言った

 鷹弐はそれを影から見ている事しか出来なかった


 「誰も恨む相手が居ないって辛いからな……でもな……」


 鷹弐は雑草を握りしめる


 「自分を恨む方がずっと辛い……俺は……! これからどうすればいいんだ……!」


 怪人と戦う道を選べばこの世界から雛のいた痕跡を消す事になる

 雛の痕跡を守る、つまりクロウスレッドを守るのならアーマードシャークルスと敵対、つまり人類と戦う事になる

 選択肢はこの2つしかない


 「きっと選ぶべきは前者……」

 「大丈夫か……?」

 「っ……!」


 右拳を握りかけた鷹弐に鴉が心配そうに声をかけた



——

 「そろそろだなぁ……鷹弐……」


 赤い怪人は青い大空を見つめる


 「お前が終わり……そして私の世界が始まる……!」


 口を大きく開き笑みを浮かべて両腕を大きく広げた



——

 「意外だね私も連れてくるなんて」

 「スレッドか普通のムカデか判断してもらいたくてな、ひょっとしたらただのデカいムカデかもしれないし」


 2人は木々の間を抜けながら話す


 「ムカデで1番大きいのってどれくらいなんだ?」

 「んー……世界最大種で更にその中で大きいと40とか? あと60くらいの個体がいたらしいね」

 「デカいけどスレッドだったらもっとデカそうだな」

 「まず日本には生息してないからね」

 「じゃあ……スレッドか……よし」


 流牙は言って目を細め、しばらく考えて振り返る


 「帰れ」

 「ひょっとしたら新種かもしれないじゃん?」

 「新種だったらスレッドって認識にしかならないだろ」


 ウィンクをして両手を合わせる霊代の手を流牙は下げさせる


 「えぇ……普段全く出番無いからたまにはいいじゃんか〜!」

 「出番ってなんだよ……てかお前普段ターンにも全然居ないけど何してんの?」


 ため息をついた流牙は思い出したように問いかける


 「いやぁ……ちょっとぉ……ネタバレになるっていうかぁ……」

 「ネタバレってなんだよ……まぁいいや、危なくなったら逃げろよ」

 「おーぅけい!」


 霊代はその信用のない親指を立て……


 「ん?」

 「っ……」


 木の影から少年がこちらを見ていることに気が付く


 「なんで付いてきたんだ……?」


 流牙は少年の前にしゃがんで問いかける


 「いやー……あの……」


 少年は頭を掻く


 「大丈夫かなって思って、ホームページに鮫と鷹のヒーローの知り合いって書いてはあったけどやっぱり……」

 「大丈夫だ」


 流牙は少年が全部言い切る前に言う


 「今はターンで待っててくれ」


 笑顔で言った



——

 「ざっと10億体、これだけいれば流牙がいくら倒しても問題ないよね」


 赤い髪の青年はハシゴに立ち、巨大な空間に立つ無機質な鎧たち……無数のシュミレードを眺めて言った



——

 「別に、少し疲れてるだけだ……」


 鷹弐は鴉の顔を見ないよう俯いて言う


 「そっ……か、最近こう……精神的に追い詰められてるように見えてさ」

 「……俺は」


 鷹弐は小さく口を開く


 「俺は……なんでもない……」


 すぐに口を閉じて寝転がり目を閉じる


 「……クロァ」


 鴉は身体を黒い翼で包み鴉の怪人、クロウスレッドになり翼を布団のようにして鷹弐の身体を覆った



——

 「見つからない……!」


 巨大ムカデを探して山中を3時間、未だ巨大ムカデは見つからない


 「いいや見つける!」

 「なんで普通の人間なのにそんな元気なんだよお前……」

 「私、神様だし?」

 「……」

 「黙んなよ」

 「がっ……!」


 霊代の軽いはたきが疲れきった流牙の腰に激しい衝撃を与える


 「ぐぁぁ……!」

 「あっ……大丈夫?」


 しゃがみ木に寄りかかって唸る流牙に霊代は焦ったように声をかける


 「大丈夫……変身すればすぐに治る……!」


 流牙は言って立ち上がり、両腕を牙のように構える


 「アーマーッ……」

 「カデァァァア!」

 「っ!?」


 流牙がシャークルスとの一体化を宣言しきる前に木の根元から巨大なムカデが木を吹き飛ばして現れ流牙に襲いかかる


 「っ……ぜぁ! 霊代逃げろよ……アーマード!」


 流牙はわざと右側に転倒しムカデの突進を避け、右脚で身体を支え軸にして右脚でムカデを蹴り飛ばして距離を取り、霊代に声をかけてシャークルスと一体化しアーマードシャークルスとなる


 「俺の牙からは逃げられない!」


 青い鎧はムカデを指さし、そしてその指をしまって拳を構え駆け出す


 「カディァァァァァァ!」

 「ゼィィァァッ……ゼァァァ!」


 ムカデはその長い身体をくねらせて暴れ、青い鎧に突進する

 青い鎧はムカデの身体の隙間に入り込んでムカデの身体を掴んで投げ飛ばす


 「ゼァァァァっ……なっ!?」

 「ムカァァア!?」


 宙に舞ったムカデの身体を突然ネットが包み、地面に衝突した瞬間地面の中で黒い箱が変形しムカデを閉じ込める


 「なんだ……!? まさか霊代か!?」

 「僕だ」


 背後から依頼者の少年が現れその黒い箱の取っ手を引き出す


 「は……?」

 「この山って色んな生き物がいるからさ、捕獲する為に罠を設置しといてるんだ……もちろん友達と一緒にね」


 困惑する青い鎧に少年は黒い箱を眺めながら言う


 「でもさ、新種のムカデ……いやもしかしたら最近話題の怪物かもしれない奴は独り占めしたいじゃん? だから依頼したんだ……ホームページに鮫と鷹のヒーローと知り合いって書いてあったから……まぁ半信半疑だったけど大成功だな」

 「……そいつは砕かないといけない、箱から出すんだ」


 青い鎧は黒い箱に1歩近づいて言う


 「……嫌だ」

 「なら無理やりっ……!?」


 青い鎧が両腕を牙のように構えると突然地面が無くなり鎧は胸まで地面の中に埋まる


 「依頼した時と着いてきてたのがバレた時、凄いヒーローみたいに励ましてくれたな……騙されてるってのにさぁ……」


 少年は薄く笑いながら言う


 「あんたも捕獲しようかなって思ってるんだけど……どう?」

 「……」


 青い鎧は口を閉ざして答えない


 「なんだなんだ? 怒ってんのか?」

 「違う……どうすれば説得出来るか、考えてるんだ……」


 青い鎧は顔を上げて少年のめを見つめる


 「ここから力づくでムカデを砕く事は出来る……けどそれじゃあ君はまた同じ事を繰り返す、だから説得しなくちゃいけない……!」

 「邪魔をされない為か……」

 「そんな訳ないだろ……俺は決めた、どんなやつだって人間なら救う……君を救うために君を説得させないといけないんだ……」

 「僕のこと全然知らないのに出来るわけないだろ……」


 少年は呆れたように言って黒い箱の取っ手を掴み車輪を使って移動させようとした……その瞬間


 「カデァァァア!」

 「なっ!?」


 黒い箱を破壊してムカデが少年に襲いかかる


 「んな馬鹿なっ……」

 「ムガァァァア!」


 少年の頭を触覚が貫こうとする……


 「かでぃぁいあ!?」


 飛んできた青く輝く刃がムカデの身体を真っ二つに切り裂く


 「俺の牙から逃げられると思うなよ……スレッド……!」


 その刃を放ったのは青く輝き黒い拘束具を纏った鮫の鎧、アーマードシャークルス タマシイロック


 「っ……」


 少年は切断され地面を跳ねるムカデの身体を見て尻を地面に付く


 「大丈夫か?」


 穴から抜け出した青い鎧は少年の前に立つ


 「……」


 少年は鎧から視線を逸らし……


 「ありがとう……ございます……」

 「……」


 青い鎧はその言葉に手を震わせる

 その仮面の下で流牙がどんな表情をしているか、それは本人にも分からない


 「……そういえば名前、聞いてなかったな?」

 「阪井 介……あんたは……」

 「鮫牙 流牙……アーマードシャークルスだ」


 そう、拳を解いて言った……その時


 「きぃやぁぁぁぁあ!」

 「ゃっ……がぁぁぁいぁあ!」


 街の方からたくさんの悲鳴が聞こえてくる


 「……っ行くか……!」


 青い鎧は再び拳を固めて走り出した


 「頑張れ……アーマード……」

 「ヒュマ、人間、、、発見」

 「いっ……!」


 介の背後に無機質な鎧、シュミレードエナジーが現れ自分の鎧の中に介を取り込んだ



——

 「なんだっ……これ……!」


 街では無数のシュミレードエナジー達が狩りをするかのように人間を取り込んでいた


 「ゼァァァッ!」

 『現在世界各地で正体不明の怪物が人間を襲うという事態が発生しています、皆さん近くの避っ……ひっぃやぁぁぁぁぁあ!?』


 駆け出した青い鎧の足元に落ちていたスマホにはニュースが流れる


 「ゼァァァア! っ……なんだ!?」


 青い鎧が一体の鎧を砕くとその中から黄金の液体が飛び出し近くの鎧の中へと吸収される


 「なんなんだよ……何が起こってるんだ!?」


 青い鎧は鎧を砕き回りながら叫ぶ


 「おいおいこれ鷹弐まで吸わないよな?」

 「アーマードになった時点で人間じゃない、大丈夫だろう」


 黒いアーマードシャークルスと黒いアーマードホークリスはビルの屋上からその惨状を見下ろして言う


 「あの真っ赤の怪人は何がしたいんだろうなぁ……?」

 「お前と同じで全てを壊したいだけだろう」

 「俺なら自分の手で殺す!」


 黒いアーマードホークリスは黒いアーマードシャークルスに掴みかかって叫ぶ


 「失言だった、すまない……ヒューマンスレッド、利用されている事にすら気がついていないのか」



——

 「はははっ……もうすぐ……あと少しで僕はなる!」


 赤い鎧は東京スカイツリーの頂点に立ち両腕を広げて叫ぶ


 「そしてその先で僕は……人間そのものになる! はははは……はははははははは!」


 ヒューマンスレッド……運命を細工された哀れな怪人は笑い叫んだ

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