第6話 貪る砕くその鎧


——

 20年前


 「あばっ……ぶがぁあ……!」


 豪雨の川、命ノ 流牙は濁流に流されていた

 大木に身体を突き飛ばされ波に潰されそうになり気を失いそうになる


 「どぅざっ……!」


 彼は諦めていた、もう自分は助からない……このまま波に飲まれて死ぬんだと

 そして彼の意識は彼の身体を離れ……


 「流牙ァァ!」

 「っ……」


 何かが流牙の身体を包み、波を退け河岸へと進む


 「父……さ……」


 流牙を包んだのは父、いのちノ《の》 かみの腕だった



——

 「っ……!」


 流牙は目覚める、そこはターンのスタッフルームのソファーだった


 「あれ、なんで俺ターンに帰ってきて……」

 「あれ誰も居ない、OPENだよな……?」

 「はい今行きまーす!」


 ターンの入口辺りからの声に流牙は起き上がってターンのエプロンを来てスタッフルームから出る


 「なっ……!」


 ターンに入店したのは空翼 鷹弐だった


 「今日はちゃんと店員いるんだな……珈琲頼む」


 鷹弐は流牙の顔を見ても顔色を変えずにカウンター席に座って言う


 「……分かった」


 流牙は鷹弐を警戒しながら珈琲を作り始める


 「ってか今何時……9時、あれから大分経ってる……」


 流牙の中には未明に出会った狼の姿があった


 「あいつ大丈夫かな……」

 「そのエプロンの柄……鮫か?」

 「え?」


 流牙は突然の言葉に困惑する


 「いや違っ……よく見たら確かに……鮫だな」


 ターンのエプロンの胸元の柄は2匹の鮫が身体を曲げ太陰太極図の様になっている物だった


 「鮫は好きか?」

 「好きっちゃ好きだけど……最近になるまでは嫌いだったな、こちら珈琲です」

 「最近まではか……何かあったのか?」


 鷹弐は珈琲を一気に半分まで飲んで問う


 「……最近化け物と戦ってる鮫の……ヒーローが居るだろ? 1週間前にそいつに助けられてな」

 「鮫のヒーロー……」


 流牙はこの回答に鷹弐がどんな反応をするかを見る


 「かっこいいよな! 動画見たけどめちゃくちゃ強いし」

 「っ……!?」


 鷹弐の答えに流牙は目を見開き声を出しそうになる


 「にしても鮫のヒーローに助けられて、そして働いてるカフェのエプロンに鮫の柄……ラッキーだな」

 「あ……あぁそうだな」

 「さて、そろそろ帰るか……じゃあな」


 鷹弐は残りの珈琲を一気飲みして立ち上がる


 「そうだ……鮫のヒーローの名前、アーマードシャークルスって言うらしいな」


 鷹弐は流牙に背を向けたままそう言って扉を開きターンから去っていく


 「……狼の様子見に行くか」


 流牙はターンから出て看板をひっくり返しCLOSEにして歩き出した



——

 「あの声、それにこちらを試しているような目……あいつがアーマードシャークルス……殲滅……」


 鷹弐は立ち止まって振り返る


 「アーマード……」


 鷹弐はホークリスと一体化してアーマードホークリスとなってターンへ向かい歩き出す


 

——

 「おっ流牙くん! 今日はちゃーんとターンやってるかい?」


 ターンに向かう途中流牙を見かけた政則は手を振って言う


 「すみませんちょっと今日は……まぁ前にみたいに勝手に珈琲淹れていいですよ、CLOSEにしてるけど鍵は閉めてないし」

 「なんて不用心な……」

 「だから警備役としても頼みました!」

 「仕方ないなぁ……しばらくは無料にしてもらうよ」


 政則は言って流牙の肩に1度手を置き歩き出す


 「待ってそれはマズイ、ターンは政則さんだけで成り立ってるからそれはマジで良くない」

 「冗談だよ冗談!」


 政則は笑いながら言った



——

 「っ……シャークルスに乗りゃ早く着くけどこれ体痛くなるな……」


 流牙はシャークルスの上に立ちビルの屋上を飛び移る



——

 「ほんと最近流牙くんもサボってるからいつもCLOSEっ……なんだ!?」


 政則がターンの扉を開くとそこには赤い鎧がいた


 「えぇコスプっ……えぇ?」

 「鮫牙 流牙はどこにいる……」

 「流牙ならさっきどこかに行くってたからしばらくここには帰って来ないと思うよ」

 「……あそこか」


 赤い鎧は歩き出し政則の横を通り過ぎてターンから立ち去る


 「今の……昨日の子か……?」



——

 「おーい狼! いるかー!?」


 森の中、流牙は叫び歩く


 「霊代が帰ってきてないのが不穏なんだよなぁ……捕獲されてなきゃいいんだけど……」

 「ウルファ!」

 「おぉぁっと……良かった無事みたいだな」


 狼は流牙に飛び乗り顔を舐め回す


 「ってかお前仲間……そういえば警戒心薄いけどまさか迷子の犬……じゃないよな……?」


 流牙は狼の首を撫でながら言う


 「まずこんな感じの狼だって……」

 「グレァァァァア!」

 「ッホークリス……!」


 上空から轟速で赤い鎧が迫り、流牙は間一髪で地面を蹴り、転がって鎧を避ける


 「一体何回戦えば気が済むんだお前!」

 「お前が死ぬまでだ……!」

 「ゼァッ……アーマード!」


 赤い鎧は流牙に向かい跳び、殴り掛かる

 流牙は後方へバク転、舞う最中にシャークルスと一体化しアーマードシャークルスとなる


 「ゼァァァア!」

 「ッ……グレッ……」

 「ァァァア!」


 青い鎧は地面に着地した瞬間に左拳を構え、大地を蹴り赤い鎧に迫って拳を放つ

 赤い鎧はその拳を右拳で掴む

 その瞬間、青い鎧は左腕を引いて赤い鎧を引き寄せ腹に右拳を入れ頭部の背鰭で赤い鎧の顎を殴り上げる


 「るぎいぁぁぁあ! がっ……!」


 その攻撃は脳にまで達し赤い鎧はよろめき地面に倒れ込みホークリスと分離する


 「っし今の内に逃げるぞ!」

 「ウルァ!」


 流牙と狼は鷹弐に背を向け走り出す


 「そ……ちは……マズ……!」


 鷹弐は気に手を当てながら立ち上がる


 「待て……!」


 鷹弐は今にも消えそうな意識の中歩き出し、翼を展開する



——

 「あいつマジでしつこいから出来るだけ遠くに行かないと……!」


 小1時間、流牙は景色の変わらない森の中を走り続ける


 「これ奥の方に行ってるのか? それとも外の方に……」

 「グレァァァァ……!」

 「来やがった!」


 赤い鎧は8つの翼で木々を木っ端微塵に粉砕しながら流牙と狼を追いかける


 「グレ……レルァァァァ!」

 「ぶっ砕けシャークルス!」


 赤い鎧は飛び散った木の破片を掴み、投げ飛ばす

 流牙の呼びかけにシャークルスは枯葉を波しぶきの様に散らして飛び上がり、迫る木の破片を噛み砕く


 「そのまま足止めだ!」

 「ぐりぃぁぁああ!?」


 シャークルスは1本の大木の中へと潜り、飛び出して赤い鎧の左ふくらはぎに歯を突き刺す

 赤い鎧は痛みに身体を震わせて叫び、墜落する


 「シャクァ!」


 シャークルスは赤い鎧が藻掻き、土に鎧と翼を汚す姿を見て地面の中へと姿を消す


 「時間稼ぎにはなっ……っよっしゃぁ……!」


 流牙は木々の先に駐車場があるのを見て足を早める


 「はぁっ……ふぅ……」


 森から脱出した流牙は1台の車とその近くの4人の家族を見て地面に座り込む


 「あいつもさすがに人が居たら何もしないだろ……」

 「ウルフィィ……」

 「お前もさすがに疲れたよな」


 流牙は言って狼の頭に手を置く


 「……懐かしいなぁ……犬飼ってたんだよな、お前くらいの大きさの……可愛かったなぁ……」


 流牙の瞳はいつかの記憶を見る


 「あの日父さんと母さんと一緒に死んじゃったけどさ……」

 「ウルファ!」


 狼は微かに震え出した流牙の背中に飛び乗る


 「っ……ありがとな……」


 流牙は肩にかかった狼の足を握る


 「たまにここ来るっ……」

 「アーマードシャークルスァア……!」


 森の中から赤い鎧が左脚を引きずりながら現れる


 「ホークリス……ここには人もいる、さすがに戦わないだろ?」

 「だからこそそいつを殺す! お前もなぁ!」

 「くっそ……逃げろ!」

 「ルヒィウ!」


 狼は流牙の後方へ走り、逃げ出す


 「お前何やってんだ!?」

 「あいつには手を出させっ……」

 「やぁぃぁぁあいあぁあ!」

 「っ!?」


 驚愕したように叫ぶ赤い鎧に対して流牙が拳を構えようとすると突然悲鳴が鳴り響く


 「なっ……は……?」


 流牙が振り返るとそこには腕や足、背中を引き裂かれた3人の死体、そして男の頭を飲み込み、その身体にしがみつく狼の姿があった


 「なんだよこっ……」

 「お前が殺した!」

 「っ……」


 動揺し足元をぐらつかせる流牙の胸ぐらを赤い鎧が掴み罵声を浴びせる


 「お前がァ……! っそこで待ってろすぐにぶっ殺してやる!」


 赤い鎧は流牙を地面に投げ付けて狼に向かい走り出す


 「ウルフィァァァァイ!」


 狼に飛びつかれた死体から銀の毛が生え出し、狼のと一体化して狼の怪人、ウルフスレッドとなり遠吠えをする


 「グレァァアアル!」

 「ウルガゥァイア!」


 赤い鎧は翼を展開して空中から狼の怪人に殴りかかる

 狼の怪人は地面を駆け赤い鎧の背後に移動してその翼を噛み砕き、他の翼を4足で根元からちぎる


 「グレァァ……ッアアアア!」


 狼の怪人は赤い鎧を背中から押し倒し左二の腕を食い貪り、前足の鋭い爪で鎧ごと背中の肉を抉りとる

 ホークリスは鷹弐から分離する


 「は……っ……」


 地面に座り込んだ流牙は血と肉を散らばして叫ぶ鷹弐を、血に染まり口から肉を垂れ下げたまま肉を貪る狼の怪人を見て汗を流す


 「なんだよ……んだよ……これ……結局同じじゃねぇか……!」


 流牙は過去の記憶と今の光景に全身を震わせる


 「シャークルス……アーマード!」

 「シャクァァァ!」


 流牙はシャークルスと一体化してアーマードシャークルスとなって駆け出す


 「ゼアアァァァイア!」

 「ウルファ!」

 「ゼッ……」


 拳を振り上げた青い鎧に狼の怪人は鷹弐から離れ青い鎧の前で飼い主に撫でれるのを待つ忠犬のように座る


 「あ……っ……」


 青い鎧は狼の怪人の頭に手を置く


 「アァァァア! ゼッ……ァァアアァアァァア!」


 青い鎧はその手に力を入れ狼の怪人の頭を握り砕く


 「……!」


 青い鎧は膝から崩れ落ち膝を付く


 「帰らないと……だなぁ……こいつも放置するわけには行かないか……」


 青い鎧は全身を痙攣させて気を失う鷹弐を抱えて歩き出した



——

 「流牙が昔デカめの犬を飼ってたの知ってウルフスレッドをぶつけてみたけど正解だったなぁ……はははっ……!」


 崖の上、遠くの青い鎧の姿を見て赤い髪の青年は微かに笑いながら言った

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