舞い降りる死体
底道つかさ
序 それは虫のごとく
夜の捨てれらた副都心を四人で浸走る。最初は六人だったのに。
持ち出せなかった裏品が残存しているという噂から肝試しのついでに無人の廃ビル群に来て、本当に手に入れてしまった。
高揚しながら友人たちと再び路地に戻った直後。変な音が聞こえたと思ったら、唐突に一人が蹲り錯乱した風な様相に陥って、叫びと共に倒れ伏した。
その後はみんな必死で走り続けている。
走る、走る。逃げ続ける。
ふと、音が響いた。木の虚を叩いたような鈍いくせに妙に響く音だ。
その瞬間またしても仲間の一人の様子がおかしくなる。
膝が崩れ息が不規則にひゅうひゅうとして、目線があちこちへ目まぐるしく動く。
「おいっ。しっかりしろ!」
叱咤するも効果はない。
「そんな……またなの」
「駄目だっ。早く来い、逃げるぞっ」
置き去りにしてまた走り出す。これで無事なのはもはや三人になってしまった。
だが、逃走は直ぐに止まる。袋小路に入ってしまった。
汗が吹き出す。逃走は止まったのに息の乱れはより激しくなる。
そこへ、声がかけられた。
「良かった良かった。上手く止まってくれたね」
ぽんぽんと変な音がする拍手をしながらそいつが現れた。
「ようやく話ができるよ」
中背の姿。雑多な素材と色のボロ切れを幾重も巻きつけたような服は、浮浪者のようにも巡礼者のようにも見える。声は大きくないのに閉所でこもりながら反響して妙にしっかり聞こえた。男か女か、幼年か成年か、とにかくはっきりした印象を感じられない人物だった。
(守らないと!)
反射的に少女を庇う形で前に立つ。もう一人の仲間の少年も同じだ。
「だめよ二人ともっ」
女の子の静止の声は、しかし自分達の決意を更に強くする。
三人と一人が対峙する構図が決定的になろうとした。
だが。
「二人共、その娘が好きなのかい?」
「はっ、はあ?」
場にそぐわない変な言葉に、雰囲気が乱れる。覚悟の瞬間に間を挟まれ変な声を出してしまう。動揺する意識に続けて声が入る。
「仲がいいんだね君達。ひとりの女の子に他の男がみんな惚れているのに、嫉妬や怒りに捕らわれず友好を交わしている。いや正直、僕もそんな青春を――」
「何がしてえんだ、手前ェ!」
隣の少年が思わず叫ぶ。追い詰められてながら一向に暴力の気配が現れ無いことに、嬲られていると感じ怒りが突いて出たのだろう。
「おや失礼、迂遠だったね。では言い方を変えよう」
そいつは軽く手を広げて袖を靡かせながら言う。
「君達、この状況はどんな事件だと考える?」
内容の急な転換に頭が追いつかないうちにさらに言葉は続く。
「窃盗。しかし所有権がそも合法ではないのだから、これは違う。では違法所持?それは持っているだけだとその場で罪とはならない。使ったり隠したらアウトだけど」
声は電話番号でも読み上げるように淡々とした風でいて、しかし反響のせいか朗読みたいな抑揚がついているようにも聞こえる。
「これは、結婚詐欺さ」
「……は?」
現状からは連想できない「事件の真相」を奴は告げた。
「常名大学2回生、田無健司君とその友人達。入学直後からから気の合う仲間たちでグループとなり、同期の中でも中心的な目立つ存在だった君達5人」
奴が袖の中から右手を出して五指を広げて見せた。
「そこへ2回生へ進級すると同時に新たな人が加わった。そこの彼女だね」
左手の人差し指を立てて右手の横に並べて見せる。
窃盗や違法所持からは離れすぎている罪状だ。普通であれば混乱することであったろう。
しかし自分には違った。
「くっ、はは。あははっ」
思わず吹き出してしまう。隣の親友も同じような反応だ。目の前の正体不明の化物が、急に間抜けなピエロになって恐ろしい気持ちが飛んで行ってしまった。
*製作中
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