ミミがケモの同級生

zakky

第1話 目の前の席のケモミミ

 17歳という年齢は、まだまだ子供でもあるが、それなりに人生のこともわかってくるというか、実感がわいてくる。

 進路希望を出すことで、自分の将来を考える機会が増える。

 成績で自分の頭の良さがわかってくる。

 運動で自分の体の限界がわかってくる。

 日々の生活を通して自分の生き物としての能力がわかってくる。

 多感な時期というのは、自分のことに関する情報が増えるにあたり、それをまとめる思考能力と時間が無く、ナーバスになるためかもしれない。

 色々なことが見えてくる。17歳というのはそんな年齢。


 そう、だから――。

 目の前の席に座るクラスメイトの頭に獣の耳が生えているように見えるのも、そういうことなんだろう。



「…………」

「お、おい長内(おさない)」

「…………」

「おい、長内!」

「ん?」

「なにじっと見てんだよ! 視線感じるんだからやめろ!」

 前の席に座る溝口高嶺(みぞぐちたかね)がイラついた表情でコチラをにらみつけてくる。パーマをかけた長い髪が左右に揺れていた。

「ああ、すまんつい」

「ついぃ?」

 大きく切れ長の目を片方ゆがませた表情は迫力満点で、ギャルというよりヤンキーだった。

「なに? 長内くん、またタカちゃんのこと見てたの? タカちゃんが好きなのはわかるけど嫌がらせちゃダメだよ?」

 隣の席にいる金城桜(きんじょうさくら)がニコニコとたしなめてくる。溝口とは真逆の、丸みを帯びた双眼と骨格は性格も相まって癒やし要素満点で、そこにいるだけでα波とかその他諸々の癒やし成分を放出してる。別名『歩くヒーリングミュージアム』。

「いや、こいつが好きというわけじゃない」

「ん? じゃあなんで見てたの?」

「それは……気になるからかな」

「気になるって……学生用語的には好きってことかな?」

 ……なんだその用語は、初めて聞いたぞ。

「そんな用語は知らない。こいつは好きじゃないけど気になる部分があるってこと」

「それってなあに?」

「……なんでもいいだろ」

「えー? 教えてくれないんだ。じゃあ私が見つけるよ。んー、気になる部分か。どこだろ? ……タカちゃん、ちょっとお顔見せて」

「ハァ? あ、あたしに変なところなんてねえよ」

「いいからいいから……うーん」

 金城は大きな目を開かせて頭の上からつま先までじっくりなめ回すように見始め、それを溝口は恥ずかしそうに耐えていた。

 気に入らなければ誰にでも食ってかかりそうな溝口も金城から醸し出される癒やし光線にはタジタジで、こうやってされるがままになることが多い。この前、昼食時金城が作ってきた超絶かわいい系のお弁当を試食させられ、どこが気に入ったか時間いっぱいまで質問攻めされていた。人には相性っていうものがあるんだなぁ。

「おい、桜はまだしもお前は見んじゃねえ」

「へいへい」

 これ以上見ているとあらん限りの罵詈雑言を叫ばれたり、下手すると鉄拳が飛んできたりしそうだ。クラスに居場所がなくなるのも痛いのもいやなので、視線を横に外す。窓の外では別のクラスが体育をしていた。


 そして、授業が始まる。内容は違ってもここから見える風景は一緒。教師が黒板に文字を書き、それを写し取る生徒の頭が見える。

 そう、目の前の溝口の頭が……その上に乗っている細長い耳が。

「……」

 右に動く。

「……」

 左に動く。

「溝口、ここ読んでみろ」

「……はい」

「……」

 力なく前に垂れ、その後左右にふらふらする。

 こんなものを後ろから一日中見させられる側にもなって欲しい。

 正直、かわいすぎる。

 別の生き物のようだ。


「……よし、ではホームルーム終わり」

「うし終わった。帰るか、桜」

「ごめんタカちゃん。私今日バイトだから、方向違うんだ」

「あー? またバイト始めたのかよ、せっかく退屈しのぎの遊び相手だったのにしょうがねえなぁ」

「ふふ、たまには一人もいいんじゃない?」

「……まあよ」

「じゃあね、タカちゃん。また明日。長内くんも、またね」

「おーう」

「おう」

 似たような返事をして金城を見送る。

 しばらくするとけだるげに溝口も席を立って教室の出口に向かっていった。

 挨拶などしない、二人の仲は別に良くないというか、俺は溝口から多分嫌われている。

 本当は俺もすぐ帰りたい派だが、一緒に並んで帰ると敵意の視線を向けられそうというか、実際そんなこともあったので、少し時間を置いて帰る。

 ……ペットショップにでも寄ってみるかな。

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